Non Piangere

針野えんじゅ

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第一章 芽生え

特別な日

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 ミヤのしてくれる話は城から出ることのないリウにとってとても新鮮に感じるものだった。
 話は、城下にある街のことが殆どだった。道端に綺麗な花が咲いていたこと、果物屋の娘の歌が綺麗なこと、旅芸人に聞いた他国の話、面白い話、驚いた話、それはそれは沢山話してくれた。どれだけ聞いても聞き足らず、また、同じ話題が上がることもないくらい、様々な話をしてくれていた。
 「城下には私の知らないものが沢山あるんだね…私も行ってみたいなあ…」
 城下の話を聞く度にリウがそう言うのでその度にミヤも
 「そうですね、いつか、ご案内したいです」
 そんなふうに返してくれるので、リウは、いつかまだ見ぬ城下へ出掛けられることを楽しみにしていた。しかし、リウには国王命令として【城から出てはいけない】という命令が出ていた。そのため、出かけることを楽しみにしつつも、心のどこかで諦めもついていた。
 それ故に、ミヤが来てくれた日は自分の知らない城下の話を聞くことが出来る特別な日で、リウはミヤが来てくれるのを心待ちにしている。
 「それにしても、ここには本当に沢山の花が咲いているのですね」
 ミヤが庭を見回しながら呟いた。それを聞いてリウは話に夢中になって、昨日咲いた花を見せるのを忘れていたことを思い出す。
 「そうだ、ミヤ!こっちこっち!」
 再びミヤの手を引いて、庭を歩く。道中に咲いてる花を見ながら、あの花はもうすぐ咲く、この花は庭師のお気に入り、あっちの花は夕方に見るととても綺麗、そっちの花はミヤに似合いそう、そんなふうに話していると目的の花壇の前に着いた。
 「このお花は私が育てたんだよ!」
 自慢げにリウが示す先には小さな五弁の花が三輪、サーモンピンクの花弁を風に揺らしながら咲いていた。
 「リウ様が…?」
 ミヤが驚いたような声を上げてリウの方へ向き直った。その反応が嬉しくて、リウはさらに続ける。
 「うん!レリィが種をくれたの。三輪しか咲かなかったんだけど‥‥でも、綺麗でしょう?」
 「ええ、とても。それに、リウ様の髪色と同じなんですね、可愛らしいと思いますよ」
 ミヤが花のことを言ったのだと分かってはいるものの、なんとなく、自分のことを言ってもらえたような気がして、少し気恥ずかしくなる。目を合わせるのも恥ずかしく下を向きぽつりと「ずるい」と呟けば、ミヤがくすくすと笑う声が聞こえた。
 こんなふうに笑いながら話す時間が、リウはとても大好きだった。けれど、時間は無情にも過ぎ去っていく。
 カラーンカラーンカラーン。日没を告げる鐘が鳴り、先程まで金色に輝いていた太陽は赤く染まる。少しずつ、空に星が瞬き始めた。
 「もうこんな時間ですか…」
 帰ろうと立ち上がるミヤの服を無意識に掴んだ。少しミヤがバランスを崩すもなんとか踏みとどまった。
 「リウ様…?…何故貴女が驚いた顔をなさってるんです?」
 リウ自身、ミヤの服を掴んだことに驚き、丸い目を見開いていた。
 「なんで、かな、わかんない」
 リウが首を傾げながら掴んでいた手を離すと、ミヤはその手を取ってリウに跪く。
 「また、城へ伺わせてもらってもいいですか?」
 ミヤはそう問いかけるとふわりと優しく微笑んだ。沈んでいく夕陽に、色素の薄いミヤの髪がキラキラと輝いて、それはそれはとても綺麗な微笑みだった。
 「もちろん!またお話を聞かせてね!」

 ミヤが帰ったあと、シュレアに今日聞いた話を話した。
 「楽しい1日になって良かったですね」
 「うん!」
 話はリウが寝付くまで続いたのであった。
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