Non Piangere

針野えんじゅ

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第九章 揺れる

苦悩

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 ナナが訪れた日から数日がたったある夜。とある一室に、眠るジルティアの顔を見つめ、もう何度目かのため息を吐くネーテの姿があった。
 「私は、どうすれば」
 眠る彼女に返事は求めてはいない。ただ、誰かに話さなければ、この思いを外に出さなければ、気が狂いそうだった。しかし、本当に発してしまいたい言葉は胸の内に秘め、ただ、どうすればいいだろうかとそれだけを何度も何度も問いかける。
 愛する娘を処刑になど、出来るはずがなかった。しかし、王としての役割は果たさなければならない。父と娘、王と罪人。歪んだ関係がネーテを悩ませていた。
 ジルティアはこの騒動のことを知らない。ジルティアの耳には入れるなという、自身からの王直下命令だ。破ることは許されない。彼女は病人で唯でさえ体が丈夫ではないのに、これ以上不安にさせるようなことはできない。
 それ故、ネーテは今回の騒動の処罰を1人で抱え込む他無かったのだ。
 ネーテ自身の中で、答えは出ていた。しかし、それを認めたくない思いが、結果を先延ばしにしている。
 リウは処刑にしなければならない。今までの罪人にもそうしてきたように。自分の娘だからという甘えは許されない。今までの罪人にだって家族はいたのだから。
 頭ではわかっている。けれど、心はどうしても受け入れられず、日に日に募っていく不安に押し潰されそうな日々を送っていた。
 妻に伝えるべきだろうか。妻はなんと言うだろうか。そんなことを考えてるうちに、部屋に取り付けられた時計がポーンと一つ鳴り、11時を知らせた。
 ネーテは重い腰をあげ、その場をあとにする。明日までに結論を出す。それがナナと、城下の者達との約束であった。
 ここで結論を出せなければ、きっと城下の者は王族に対して反逆を起こしてくることだろう。今はナナが取り持ってくれているおかげで落ち着いてはいるが…。そうなれば、リウはもとより、ジルティアや、城で働いている者達へも被害が及ぶ。
 しかし、そのためにリウを処刑に?愛する我が娘を?
 そんなことを堂々巡りのように考えながら歩いていると気がつけば、リウのいる牢へ続く扉の前にたどり着いた。扉番をしていた兵士は驚いた顔をしている。
 「お、王様、どうされましたか、こんな夜更けに…」
 確か彼はまだ城に就いて間もない兵士。親の薬代のために働いているのだったかと、彼と初めて話した時に、真剣な眼差しで話してくれたのを思い出した。
 この彼にも城下に家族がいる。此度の判断を間違えば、彼は家族を敵に回すのだろうか。それはとても悲しいことだとネーテは思う。もしそうなった時は、裏切ってくれ、家族の元へ帰ってくれと心の中で願いながら、気づけば、リウに会わせて欲しいと願い出そうになっていた。
 しかし、それをぐ、と飲み込み、扉に手を当てる。
 「リウは、元気かな?」
 「…はい、元気ですよ」
 「そう」
 ネーテは返事とともに視線を上にずらした。そうしなければ、涙がこぼれそうだった。
 そういえば、と兵士がポケットから1枚の紙を取り出した。
 「じつはこれは、明日渡すように言われていたのですが…」
 ちらりと壁にかかった時計を見やると、困ったように笑って言った。
 「あと30分…この30分は悪い神様に食べられちゃいました。なので、今はちょうど日付を跨いだ0時です」
 そして、兵士はその紙をネーテに手渡した。
 「なんだその理論は…」
 「い、いいじゃないですか、今から30分は0時00分です!」
 そんな風に言ってのける兵士。彼と話していると少しの間悩みなど忘れられるようだった。
 そんなやり取りをしながら、ネーテは受け取った紙を開く。するとその中には文字が書き綴られていた。
 「これ、は…」
 兵士は何も答えない。しかし、答えられずとも分かった。文字の書き出しは『パパへ』。紛れもなく、リウからネーテに宛てられた手紙であった。
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