1×1

針野えんじゅ

文字の大きさ
4 / 9

=4

しおりを挟む
 ライアは何度も目を擦りました。ヴィルが目の前にいるのです。最後に見た姿は15歳。背丈もあまり変わらなかったのに、今、目の前にいるヴィルは身長が伸び、体格も以前より男の人らしくなっており、一瞬、見間違えるほどでしたが、けれど、あの青い髪は、間違いなくヴィルのものでした。驚いてこちらを振り返るヴィルの顔は当時の面影を残し、髪とおなじ綺麗な青色の瞳が揺らいでおりました。
 二人の間に会話はありませんでした。ただ、引き合わされるように自然と歩み寄り、指を絡めあいます。
 長いような短い時間、2人は抱き合いながら、お互いの鼓動を聞きました。トク、トク、と脈打つ鼓動は次第に混ざりあって、どちらのものか分からなくなりました。
 2人は目を合わせると手を繋いだまま、男の屋敷へと向かいました。

 屋敷につくと、川へ向かったっきり、なかぬか戻ってこないヴィルを待ち構えた男が玄関に立ち塞がって言います。
 「遅かったな!待ちくたびれたぞ!どこで道草食ってたんだ!…と、おや?お前は…」
 男が視界にライアを捉えます。ライアは男を睨みつけながら、ヴィルの手をぎゅっと握り直しました。すると、男はそれが気に入らなかったのか、ヴィルを無理やりライアから引き剥がし、自分の後ろへと追いやり、ライアを頭から足先までじっとりと舐めるように見ました。
 「お前は、ライアと言ったか。俺のモノになりに来たか?それなら存分に可愛がってやる」
 そう言って、男がライアに手を伸ばした瞬間、男の脇腹にちくりとした痛みが走りました。なんだなんだと男が痛む場所を見ると、ヴィルが男の脇腹に小さなナイフを突き立てておりました。
 「ふん、この程度で俺に勝ったつもりか」
 男はそう言って、ヴィルを軽くつまみ上げるとぶん、と放り投げました。
 その時です。ヴィルが壁にぶつかるのが早いか、男が膝をつくのが早いか、男は糸が切れたように崩れ落ちました。
 「こんなナイフでお前に勝とうとは思わない」
 そう言ってヴィルはフラフラと立ち上がります。ライアはヴィルを支えながら、2人で、倒れ込む男の元へ。
 「これは…あの花か」
 「そうよ、よく覚えていたわね」
 男は力の入らない体で立ち上がることは諦め、床に突っ伏したまま話しました。
 「お前と、おじいさんたちの家に咲いた2輪だけの花。あの花の名前は知ってるか?」
 「名前…そういえば…調べもしなかった…」
 「あれはね、ヤソミリの花って言うの」
 「ヤソミリ…」
  男は繰り返しましたが、名前に覚えはありません。
 「ヤソミリの花はね、毒になるの。すり潰して、水で伸ばして、このナイフの先に塗った。あとは…」
 「俺に刺せば、終わり」
 「大正解」
 ライアは男に弾き飛ばされたナイフを拾い、ヴィルはそれに自分の手を重ねました。
 「さあ、トドメを」
 2人は男の喉元にナイフを突き立て、引き裂きました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...