1×1

針野えんじゅ

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 何日か歩き、2人の足がへとへとになった頃、見覚えのある村が見えてきました。そこは、自分達の育った村ではなく、森の奥へ逃げる途中立ち寄った小さな村でした。
 この街を抜ければ、自分たちの生まれた村はもうすぐそこです。
 「少しここで休もうか」
 そう言って、2人は街の酒場へ足を運びました。そしてその後すぐに、帰ってきたことを後悔します。
 生憎テーブル席は満席でカウンター席に腰掛けた2人は、しばしの休息に足の疲れを癒しておりました。そこにやってきた旅人のような格好をした男。その男はライアの隣に座ると、マスターと話始めました。その内容は2人にとって耳を塞ぎたいものでした。
 「隣の村、焼かれてしまったのか」
 「ええ…なんでも村の有力者を殺したんだとか…」
 「へえ、それは酷い話だな」
 男の言う【酷い話】は恐らくきっと、村を焼いた者に向けたものではなく、《有力者を殺した者》に向けたものでした。
 その話が聞こえたライアは村へ急ごうとヴィルを急かし、お代を払うとさっさと歩き始めました。話が聞こえていなかったヴィルはなんだなんだと慌ててライアの後を追いました。何があったのかとライアに問うても、大丈夫だから、そんなはずはない、とうわ言のように呟くだけで、ヴィルは戸惑いながらも、きっとなにか理由があるはずとライアと共に歩を進めました。

 しばらく歩いて、2人は立ち止まりました。育った故郷に2人はようやく帰ってきたのです。
 しかし、会いたい人はそこにはいませんでした。
 目の前には、ただ、ただ、焼けた大地が広がるのみだったのです。
 「ああ…あああ…」
 言葉にならない声を漏らしながら、ライアは膝から崩れ落ち、ヴィルは信じられないとばかりに目を見開き、小刻みに震えておりました。
 「ライア…君はさっきの酒場で何を聞いた」
 視線は焼け跡から剥がせないまま聞くとライアはまだ落ち着きを取り戻せない様子で、黙っています。
 「ライア!」
 「ヴィル、落ち着きなさい」
 突然、すぐ隣から声が聞こえました。その声にヴィルが顔を向けると、そこには見たことの無い女性が立っておりました。
 ヴィルはその女性を確かに見たこともないはずなのに、どこか懐かしいような感情を覚えました。すると彼女はヴィルの前を通り過ぎ、ライアの髪をそっと撫でました。 ライアはそこでやっと気が付き、知らない人に頭を撫でられている状況に驚きました。
 「だ、誰…!?」
 ライアもヴィルと同じく、懐かしい感情に心を揺らがせながら、問いかけました。
 「あら、覚えていないのね」
 そして、ふ、と笑うと言葉を続けます。
 「私はあなたたちのママよ」
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