走馬灯を見る君へ

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第二章 ベルリン ベル スロット

ベルリン ベルスロット 4

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「な、なるほど!! 流石ベル様です!!」

 シャルは尻尾を大きく左右に振り、大きな瞳を輝かせて言った。
 こんなに素直に感心されるとなんだか少し照れてしまう。
 
「本当に流石ベル様です……シャルの不安なんて直ぐに吹き飛ばしてくれますね。 そうと決まれば早速召喚の儀式をいたしましょう!! 善は急げですからね!!」

「ま、まぁそうね。 その、召喚の儀式って何か特別な事でもするのかしら??」

 シャルがすぐにでも行動に移そうとした事に私の心は大きく脈をうった。
 どうやら少し緊張しているらしい……。
 偉そうにシャルに語った手前、緊張しているなど恥ずかしくて堪らないので、出来るだけバレない様に私は振る舞う。
 
「特に何もありません!! ただシャルが祈るだけです!! ちる様への思いが人一番、いえ世界で一番強い者をここに呼び出す。 多分五分もかかりません!! では行きますよ!!」

 そう言ってシャルは徐ろに立ち上がり手を合わせて目を閉じ小さく何かを呟きはじめた。
 その行動の早さに私はますます緊張を高めてしまう。

「シャ、シャル?? ちょっと早くない?? 大丈夫?? もっとほら、雰囲気とかあった方がっ……」

 シャルは全く反応しなかった。 きっともう私の声は聞こえていないのだろう。

 時間が経つに比例して自分の胸が痛いくらいに高鳴っているのを感じた私はシャルの肩に手を置いて大声でシャルの儀式を止めに入った。

「待って!! シャル!! ちょっと待って!!」

「え?? べ、ベル様?? どうしたのですか??」

 ようやく気が付いてくれたシャルは困惑した顔で私の顔を覗き込む。


 ど、どうしよう……勢いで止めたけど、緊張しているから少し待ってほしいなんて恥ずかしくて言えない。 

 私は即座に考えを巡らせそれっぽい答えをシャルに返すことにした。

「ね、ねぇシャル。 今からちる様に親しい者を呼ぼうとしているのよね?? だったら場所を変えない??
 ここはちる様の生まれたとされる森の中ではあるけど、今は私の家だわ。 
 どうせなら、そうね……生誕の泉に向かいましょう?? 
 本当かどうかは定かでは無いけど大昔にちる様が住んでいたとされる家もそこの近くにあるのだし。 どうかしら??」
 
 我ながらすらすらとそれっぽい事を言えたなぁと感心する。
 後はシャルが納得してくれるかどうかだけど……。 
 不思議そうに見つめるシャルの視線が少し痛く感じる。

「な、なるほど!! 確かにそれは盲点でした!! ちる様に関係のある者を呼ぶのです、儀式をする場所もちる様に所縁がある所の方が良いかも知れませんね!!」

「そ、そうでしょ?? ここからなら歩いて三十分程だし、ちょうど雨音も無くなっているわ。 外の方がシャルも集中出来るかも知れないし!!」

「御心遣い感謝します!! 本当にベル様はお優しい。 是非そうしましょう!! 
 では早速準備を始めますね!!」
 
 そう言うとシャルは外出の準備を進めた。 今の時間だと森は少し寒い、私も厚着を羽織る事にしてシャルと一緒に家を出た。 

三十分もあればこの緊張も少しは和らぐだろう。 外の空気もきっとその手助けをしてくれてそうだし、何よりシャルにバレなくて良かった。
 安堵しながら、私は家の鍵をかける。


 私とシャルはゆっくりと歩き目的の泉へ歩く。
 さっきまで雨が降っていたので草木は湿っており歩くたびに少しずつ靴を濡らしていく。 その度に少しずつ嫌な気持ちも蓄積されていったが、いざ目的の泉にたどり着いた瞬間そんな気持ちは綺麗さっぱり消え去った。

「ここってこんなに綺麗な所だったかしら」

 思わずそんな言葉が口から出た。 本心だった、月が泉を照らしその光を受けて泉全体が煌めいている。 
 とても言葉では言い表せない程に神秘的で、まるでこの空間が聖域の様にさえ思える。

「あまり訪れることはありませんからね。 さてと……ベル様、もう心の準備は大丈夫ですか??」

 シャルは私の方に笑みを浮かべてそう言う。
 私は自分の顔が急激に暑くなった、どうやら最初からシャルには全て見透かされていた様だ。 

「わかってて黙っていたの??」

「はい。 最初に止めようとした時から本当は聞こえていたのです。 戸惑ってあたふたしているベル様は貴重で可愛かったですからね。 少し意地悪してしまいました、すいません。
 もう少し見たかったのですがどうやら覚悟はもう決まったみたいですね」

「全く……シャルには敵わないわね」

「いえいえ、シャルはただベル様より少しだけ経験が多いだけです。 刺激を受けるているのはいつもシャルの方ですよ!!」

「シャルはおばあちゃんですもんね」

「あー!! ベル様それは禁句って言ったじゃ無いですか!! おばあちゃんじゃ無いです!! 少しだけ長生きなだけです!!」

「ふふ、そうだったわね」

 シャルと私は顔を合わせて笑った。 先程の緊張も不安もいつの間にか本当にどこかに吹き飛んでいた。

「さてと、じゃあシャル。 そろそろお願い出来るかしら??」

「はい。 シャルは準備万端です!! ではベル様少しの間お待ち下さい」

 シャルは私に柔らかく優しい笑みを返し、そのまま歩いて泉の目の前まで向かう。

先程と同じ様に手を合わせ小さな声で言葉を紡いでいる。
 少し離れた所から私はその姿を見つめていた。 

 気が付けばさっきまでほのかに香っていた雨上がりの匂いも、草木を揺らす風も無くなりまるでシャルの周りの時が止まっている様にさえ私には見えた。

 月明かりが泉では無くシャルを照らし始めた時、シャルの身体がその光を纏う。 その姿はまるで神の様だった。

「私の声を、私の想いを聞き届ける者よ。 幾千の時を超え今再びこの世界へ」

 私にも聞こえる声でシャルが話す。 
 シャルを纏っていた光は泉の中へ溶けていき、そのまま燦々と煌めく。

 さっきまでの月の明かりとは比べものにならない程神々しく、その美しさに私は息を飲む事しか出来なかった。

「……ベル様。 儀式は終わりました。 こちらへ」

「えぇ」

 シャルに促されるままに私は泉の近くに寄る。 
未だ泉は信じられない程に輝きじっとその時を待っている様だった。

「ベル様、すいません。 思ったよりも体力を消耗致しました。 おそらく後数秒程で姿を表すと思います。 どうか、どうかよろしくお願い致します」

 シャルは膝をつき前のめりに倒れた。 

「シャル!! 大丈夫なの?? シャル!!」
 息はある。 どうやら本当に体力を使い果した様だ。 
 シャルの事は心配だけど彼女は大丈夫だと言ったのだ、今はその言葉を信じよう。
 それに、今の私にはやる事がある。 

 シャルがここまでしてくれたんだ、その思いに今度私がは答えなきゃいけない。 

 泉は徐々に光を失っていく。 
 消える間際に集まった光がどんどん人の形を形成していく様は目の前で見ても信じられないものだった。

 やがてその光りは完全に消えて無くなり、私はそこに誰かが立っている事に気付く。 
 まだぼやけて詳しくはわからないけど
、おそらくは人間だ。 引き締まっている身体を見るに男性では無いかと推測する。

 シャルが召喚した者、ちる様に対して大きな想いを持っている者、そして私達の希望になるかも知れない者。

 私は直ぐに話しかけようとしたが、重要な人物であると思えばと思うほど
口は言葉を発せれないほどに動かなかった。

 やがて男はゆっくりと目を開き、すぐさま私の方に身を向けた。 
 その表情は驚愕している様に目を見開き、まるで有り得ない何かを見ている様だった。

「お、お前どうしてここに?? それにここはどこだ?? 一体何が起こったんだ」

 困惑したまま、男は辺りを見回す。 

相手が私以上に困惑しているのを見て少しだけ余裕が出来た。 
 私はまずは話をする時間を確保する為に頭を下げて男に聞こえる様に大声で話かけた。

「貴方様が困惑するのも無理はありません。 実は訳あって勝手に貴方様をこの世界へと呼んでしまいました。 ですがどうか、どうか私の話を聞いてくれませんか!! お願いします!! 話だけでも聞いて頂きたいのです!! お願いします!」


 下げた顔を再び上げるのが怖かった。
 まだ男はそこにいるのだろうか?? それとももしかしてもう帰ってしまったのだろうか?? 
 返事の来ない時間がとても長く感じる。 
  急に呼び出した事に怒っているのだろうか??
 それともまだ事態が把握出来ていなくて戸惑っているだけなのだろう??

 私はゆっくりと恐る恐る顔を上げた。
 
 だけどそこに男の姿はもう無かった。

「シャル。 本当にごめんなさい。 私は本当に、本当に最低だわ」
  
 自分の不甲斐なさに心底腹が立つ。 シャルがここまでしてくれたのに、私には何も出来なかったのだ……。



「この子シャルって言うのか?? 随分と珍しい人間だな、尻尾に耳??
 初めて見た。 それにしてもこの子大丈夫なのか??」

 背後から聞こえた声に私はすぐ様振り返る、さっきまで目の前に居た男はいつのまにか私の後ろに移動しており、ぐったりしているシャルを優しく抱きかかえていた。

「あっ、ごめん!! 目の前で倒れてたから気になって!! 話は後で聞くよ、何処か休める場所に移動しても良いか??」

 男は私に頭を下げて言った。 
 その姿に私は驚きを隠せなかった。

「ん?? どうした?? あっ、もしかしてかなり遠くだったりするのか??」
 
男はそう言いながら不思議そうに私の顔を覗き込む。

 何故この人はこんなにも余裕なのだろうか?? 何故今の自分の状況よりも先にシャルの身を案じているのだろうか??
 なんでこの状況で私の話をすぐに聞いてくれると言ってくれるのだろうか??

「ち、近くに家があります、そこに向かいましょう」

 私は泣きそうになるのを必死に堪えて男を近くの家に案内する為に歩く。
 昔、ちる様が住んでいたとされる家へ。 
 
 男は何も言わずにそんな私の後に付いて来てくれる。
 今会ったばかりなのに何故だか懐かしい様な、そしてとても頼りになる感じがする。

 男の目を初めて見た時、まるで全てを見通している様な目をしていると思った、同時にとても優しい目をしているとも。

 もしかしたら、もしかしたらこの人ならこの現状を何とか出来るのでは無いかと期待せざるを得ない程に、私が今まで見て来たどんな人よりこの人は凄いのでは無いかと思ってしまう。

 今度は根拠どころか自信も無い。 
 だけど、不思議な高揚感と安心感だけを胸に秘め私はその家まで歩く。
 
 月明かりが木々を躱すように私達の道を示す。
 私はその道を涙が溢れないように進んだ。
 
 
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