走馬灯を見る君へ

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第五章 ベルリン ベル スロット

ベルリン ベルスロット 4

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「勝手に彼女扱いして悪かったな、まさかベルがあそこまで人見知りだとは思わなくて」

  薄暗い通路の中でノアは唐突に口を開いた。  
 外からは見た感じでは分からなかったけど、中は扉から一本道だった。

「べ、別に人見知りしてた訳じゃ無いわ! ただ少しだけ驚いただけ。 あの二人、ロンとみのるって言ってたわよね? 一体何処で知り合ったの?」

「あー、あの二人は前にここに来た時に仲良くなったんだよ。 この一ヶ月で三回くらい飲みに行ったかな? 面白い奴らだろ?」

「この建物を警備している人と偶然? まぁそれはいいわ、それにしてもアイドルのサインなんかで簡単に私達を通すなんて自分の仕事に誇りは無いのかしら、ユーノも変な仲間を持っているのね」

「ベルらしい意見だな。 まぁそう言いたくなる気持ちも分かるけど、人間なんてそんなものさ。 
 誇りを持って仕事をしているのなんて数えるくらいしか居ないし、ましてやその仕事が誰にも認識されない場所を守る事だとしたら尚更だ。 
 別に自分達が居なくても関係ないんじゃないかと言う気持ちになるからな、組織が大きくなれば成る程に統制と取る事は困難になって行く。 

 ここはユーノにとって重要な場所ではあるけど、ユーノが信じたのはここを隠した人物で有りここを守る人物では無かった、それだけの事さ」
 
「それはそうなのかも知れないけど……」  

「それに多分あいつらはベルが考えてる様な人間じゃないと思うぞ。 ここを通してくれた理由ももっと別のものだろうしな」


 ノアは悲しそうに言った。
 
 別の理由……今の私には思いつきそうにない。 あの二人がこの中に私達を入れた理由なんてあのサイン以外にあるとは思えない。

「今は深く考えない様にするわ、一先ずノアのおかげでこの中に入る事が出来たし先に急ぎましょう」

「あぁ、そうだな」

 一旦話を終わらせて私達は先へと進んだ。
 少し歩くと道は開け私達は大きなホールへとたどり着いた。

「す、凄い部屋の数ね」

 私は素直に思った事を口に出した。

 ホールは天井まで吹き抜けており形は丸い、私達が居るのが一階だとするなら大体十階程はあるだろう。 

 そしてその階毎に一定の間隔で扉が敷き詰められている、その扉一枚一枚が部屋になっている可能性は低いと思うけどこの光景はなんだが異様な物に思える。


「ここからどうするの? 流石に虱潰しに全ての扉を探す時間はないし」

「あぁ、まずは最初に言ってた約束の人物に会いに行く。 だから取り敢えず待ち合わせの場所に向かうとしようか」


 そう言うとノアは右周りに進み出した。 置いて行かれない様に私も後を追う、その足取りが今まで違って軽い事に私は気付く。 
 
 ノアが約束していた人物、それが誰なのかを知る事が出来る。 私の気持ちは恐怖よりも好奇心の方が強くなっていたのだ。

「ここだ」 

 ノアは足を止めて扉の前に立つ。 先程私達が出てきた道がちょうど後ろに見えた、つまりこの場所でホールを半周した事になる、結構歩いたと思ったけどまだ半分だったんだ事に少し驚く。

「この扉を開けるの?」

「あぁ、ここで間違えないと思う」

 ここに来てノアの顔に陰りが見えた、扉に添えている手も言葉も少しだけ震えていた。
 私はノアの手の上に自分の手を乗せた。

「行きましょうノア」

 ノアは私の目を見た後、小さく頷いた。 少しだけ笑っていた様にも見えたけどはっきりとはわからなかった。

 私達は一緒に扉を開けた、思っていたよりずっと扉は軽く簡単に開く事が出来た。

「ありがとうな、ベル」

 ノアは今度はこちらを見る事なく言う、私達が開いた扉の奥にあったのは下へと続く階段だった。

「こ、この先で良いの? でも地下にはもう一人見張りがいるってさっきみのるって人が言っていなかった?」

「そう、もう一人いる。 俺が会いに行こうとしている奴がな、さぁ行こうか」
 
 扉から手を離した後、同時にノアは私の手を握る。
 そしてそのままゆっくりと私を引っ張りながら地下への階段を降っていった。 
 
 階段は思っていたよりもずっと深く下に続いていた、時間にしたらきっともう三十分程になるだろう。 

 その間ノアは私の手を離す事はなく、私も自分から何かを言う事も無かった。

「やっと着いたな」

 ノアの言葉を聞いて私は顔をあげる。 目の前にはさっきの扉とは比べ物にならない程大きく頑丈そうな扉があった、そしてその扉の前には一人の男が立っていた。

 最後の段差を降りてノアはその男の元へと向かう。

 その足音に男もこちらに視線を向けた。 まだ少し距離はあったけど男が笑みを浮かべている事はわかった。
 
「まさか本当にこんな所まで来るとはね。 てっきり冗談だと思ったけど、しかも女連れとは」

 男は軽く手拍子しながらノアへ話しかける。
 その声を聞いた瞬間、私は激しい嫌悪感に包まれた。 さっきのロンやみのるの時には感じなかった気持ちを。

「そう言う約束だったしな」

「くくっ、面白い男だ。 あの情報だけでここまで来れたのはお前が初めてだよ、俺との約束って事は勿論あれもあるんだろうな?」

 そう言って男はノアの前に手を出す、ノアは何も言わずに荷物から私が渡したお金を取り出し男に渡した。

「確認する」

 お金を受け取った男は丁寧にその額を数え始めた、そして全てを数え終えた後、首を横に振って受け取ったお金を地面に投げ捨てる。

「全然足りてないだろ。 お前話聞いていたのか?」

 怒りを滲ませながら男は言う、だけどその言葉には怒り以上に嬉々とした感情が込められているようだ。

「足りない? お前の要求通りの額の筈だけど??」

 ノアはあっけらかんに答えた。

「桁が一つ足りねぇんだよ!」

 男は先程よりも大きな声を出し、そのまま続けて言う。

「全然足りない、これじゃ約束は守れないな。 俺との約束を果たしたいならちゃんと言われた通りの金額を出さなきゃなぁ、それが出来ないなら」

 言葉を止めて男はノアから私の方に視線を変えた。

「その女を差し出せ、それで差額分をチャラにしてやるよ。 そしたらこの先に進ませてやる。 それがお前の目的なんだろう?」

 不適に笑みを溢して言う、その視線に私は吐き気を催す。 こんなに人を気持ち悪いと感じたのは初めてだ。

「はぁー、本当馬鹿なんだな」

 ノアはその場で聞こえるように大きく溜息を吐いて言う。

「あん?」

 男は不機嫌そうに眉を顰めてノアに視線を戻す。

「良いからその金で我慢しとけ、そしてさっさとそこを開けろ」

 強気の言葉でノアが返す。

 ノアの醸し出す空気が一変する、それに応えるように男の態度も先程までとは全く異なっていた。

「お前、本気で俺の事を舐めてのか? 久々の面白い奴だと思ったけど只のイカれ野郎だったって事か。 まぁ俺も久々に血が見たいし、そうだな……お前ここで殺す事にするわ」

 そう言って男は身構える。 その殺気に私は少し後退りしてしまう。 本気だ、この男は本気でノアを殺そうとしている。 

 男の佇まいに隙は無い、この男が強い事はその姿で十分にわかった。

「お前が俺を殺す? 笑えない冗談だな。 お前の方こそ俺を舐めてるのか? そこから一歩でも動いてみろ。 死ぬのはお前になるぞ」

 男の殺気を意にも介さずノアは言う。 気が付けば私はまた一歩後ろへ下がっていた。 怖かったのだ、目の前の男よりも私の隣に立つノアの事が。

「ベル、もう一歩下がっててくれるか? すぐ終わらせるから」

 ノアは私の方に目をむけて微笑む、その瞬間、男が猛スピードでノアの元へ向かってきたのが見えた。


「ノア! 後ろ!!」

 
 ノアが振り返った瞬間には男は既に手に持った刀を振り下ろしていた。



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