走馬灯を見る君へ

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第五章 ベルリン ベル スロット

ベルリン ベルスロット 6

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 私は思わず目を瞑っていた。 
 
 避けれるタイミングじゃ無いかった、ノアが私に気を取られた一瞬の隙を相手は逃さなかったのだ。 
 ……私のせいだ。

「ベル、もう目を開けても大丈夫だよ」

「え?」

 ノアの声に私は急いで目を開ける。
 
 目の前に居た筈の男は横たわり、その上にノアが乗っかっていた。
 男の喉元にはノアのナイフが突き付けられる。

「お、お前一体何者だよ」

 顔を青ざめさせながら男はノアに言う。

「ただの人間だよ。 ちょっとお遊びが過ぎたな、だからこんな事になるんだよ。 次から気をつける事だな。 
 ……いや、次なんてないか」

 ノアは冷たく言い放ち男の喉元にナイフを押し当てる。

「おい、待て早まるな。 さっきの事なら謝る、ちょっとした冗談だったんだ! それに俺が居なきゃこの先には行けないぞ! それはわかっているだろ? 
 約束する! 今見逃してくれたら絶対に中に入れてやる! 
 お前もちる様を一目見たいからここまで来たんだろう??
 それに俺はユーノに直接この場所を任されてるんだ! 俺を殺したらおまえだってただではすまされなっ」

「黙れ、どうせそれも嘘なんだろ? お前との約束はもう信じない、さっきも言っただろ? あの場から一歩でも動いたら死ぬのはお前だってな」

 ノアは笑いながらナイフを一度上げ勢い良く振り下ろした。

「なんてな!! っておいおい」
 
 横から気の抜けたノアの声がした、その言葉を聞いて私はゆっくりと視線を戻した。

 ナイフは男の顔のギリギリで止まっており、首にナイフを押し付けた赤い痕は残っていたものの血は出ていなかった。

「こ、殺さなかったんですか?」

 恐る恐るノアへと尋ねる。

「殺さないさ。 そんな事したらちるに怒られるからな、それにしてもまさかこんな事で気絶しちゃうとはな。 今迄こんな目にあった事が無かったんだろうな」

 笑いながらノアはそう口にする。 男の意識は確かに飛んでいた、でも私が同じ立場でもこうなっていただろう。 あの時のノアの殺気は、あの表情は本気で殺すようにしか見えなかったから。

「まぁ、眠っててくれるならそれはそれで好都合か。 さてと、じゃあ最後の仕上げと行こうか」

 ノアは男の胸あたりを触りそこから一つの鍵を取り出した。 だけどその鍵は目の前の大きな扉の鍵には見えない。

「これで良し! ベルまだ歩けるか?」

 荷物からだしたロープで男を縛り上げてノアは言う。

「それは大丈夫だけど……ここから何処かへ行くの?」

「戻るんだよ、あの階段をな」

 ノアは指を階段に向ける。

「戻るの? この扉の奥に用があるんじゃ無いの?」

「この奥には行かない、いや正確には行けないんだ。 ここはユーノしか開けられないから」

「でもさっきの男はこの奥に連れて行けるって言っていたわよ?」

「それも嘘だよ、この男もこの奥には入った事がないさ」

「も、もしかしてこの奥に?」

「……あぁ、この扉の奥にちるはいる。 この男が俺達を連れて行こうとした場所はこの内部を外から見れる唯一の場所、だから一目会わしてやるって言ったんだ」

 ちる様がこの扉の奥に居る、その言葉に私の心は大きく鼓動する。 
 遂にここまで来たんだ、ちる様が閉じ込められている部屋の前まで。

「その男の持っている鍵、その鍵の部屋まで行けばここを開けられるのね?」

「ベル、さっきも言ったけどここは開けられない。 それに俺達の今の目的はここを開ける事じゃないだろ??
 だけどそのうちここも開けさせるさ。 それ迄もう少し待っててくれるか?」

 ノアは申し訳なさそうに私を見た。 

 ……自分の愚かさが嫌になる、きっとノアも呆れている事だろう。 
 ここまでおんぶに抱っこでノアに連れてきてもらっておいて、邪魔ばかりしかしない私の事を。

「ごめんなさいノア。 本当にダメね私は」

「仕方ないさ、さっきも言ったけどベルがちるを助けたいって気持ちは分かっているからな。 行こうか?」

 ノアは優しく私の手を握り階段へと歩き出す。 初めて会った時からノアには頼りっぱなしだ、そんなノアを疑っている事をとても恥ずかしくなる。 全てが終わったら改めて謝罪と感謝を伝えようと私は強く思った。
 

 私達は再び長い階段を登り始めた。 
歩いている最中、今回の事で色々気になった事があったので、ノアが言いたく無さそうな話題は避けつつ聞いてみる事にした。
 
「ノアがさっきの男に言ってたお遊びってのはなんの事?」

「ん? あーあれか、あの男はな、ちるを使ってちょっとした小遣い稼ぎしてたんだよ」

「小遣い稼ぎ??」

「ああ、この国は広いし多勢の人間や獣人が生活している。 その中にはちるの事を好きだったりそれどころか命を救ってもらった奴だって少なくないだろ??
 そう言った者達からちるを最後に一目会わせてやるって条件を出してお金を稼いでいたのさ」

「そんな事を? でもそんな事したらこの居場所だってばれるんじゃ?」

「この森まで目隠しでもすれば何処に連れてこられたかなんてわかりはしないよ」

「た、確かにそうね。 それにしても今度はお金の為って訳ね。
 ……本当に色々な人間が居るのね、私はまだ理解が全然足りてなかったって事か、偉そうに言ってたけど王としては失格ね」

「悲観する事でもないさ、人が人を理解する事なんて一生掛けても難しい事だからな。 心の中で何を考えているかなんて誰にもわからない事なんだから」

「……ノアがあんなに強いなんて知らなかったしね」

「はは、まぁな」

 ノアは笑いながら言った。

「ねぇ? ノアがあんなに強いんだからわざわざロンやみのるにサインなんて渡さなくても良かったんじゃないの?? 無理矢理この場所に入る事だってノアになら出来たと思うのだけど?」

「いや、それは得策じゃない。 ロンはさっきの男よりも数倍は強いよ。 俺でも勝てるかギリギリなのに援軍でも呼ばれた日には勝ち目は無いだろう」

「ロンが? そんな風には見えなかったけど??」

「さっきベルが言っただろ? 俺が強い様に見えなかったって。 それと同じだよ」

「そうなのね……まぁそれが事実なら確かに戦う事は得策じゃ無いわね」 

「まぁ勿論詳しくはわかないけどな、ただそう思ったってだけだから」
 
 話しているうちに私達は階段を上り終えていた、妙な安堵感からか下る時よりも辛くは無かった。

「やっと出口か。 何だかこの階段を登っている時は未来に来ている感じはしないな、もっと進化してても良いだろ? 俺の時代でもこんな長い階段は無かったぞ」

 腰を伸ばしてノアは言う。

「ふふ、言われてみればそうよね。 私もこんなに長いのは初めてだもの」

「だろ? ユーノはなんでこんな作りにしたんだろうな? 俺にとってはそれが一番の謎だよ本当」

 ノアはぶつぶつとずっとユーノに文句を言っている、歩くのは良いけど階段は嫌いなんだ。 文句を言うその姿に少し可笑しくなる。
 
「それでその鍵は一体何処に使うの?」

 タイミングを見計らい私はノアへ聞いた。

「ここだよ」

「え?」

 ノアは今私達が出て来た扉を指した。

「ここ? ここは今出て来た所よ?」

「あぁ、まぁ見てて」

 ノアは今出て来た扉を閉めて鍵穴に鍵を差し込み回した、そしてゆっくりともう一度扉を開ける。

「なっ!」

 ノアは満面の笑みを浮かべ私に言った、その笑顔はまるで少年の様だった。
 
 でもノアが笑顔になるのも無理はない、もう一度開けた扉の奥は先程までとは全く違うものになっていたのだから。

「凄い、本当に別の場所に繋がっている!」

 私の目の前には今までで、一番大きな空間が広がっており、そしてその至る所に無数の機械が張り巡らせていた。

「良かった、どうやら辿り着いたみたいだな」

 ノアが胸を撫で下ろして言う、自信満々に見えたけどノアにも不安はあったのだと、私は少し安堵した。

「ベル、俺はこれからやるべき事を済ませてくる。 ベルは一目見てきた方が良いんじゃないか?」

 ノアは私の肩に手を置きもう一つの手である方向を指す。 一目見る、その言葉だけでその方向に誰がいるのかを推測するのには十分だった。

「ノ、ノアは? ノアは良いの??」

「俺にはやる事があるしそれに今はまだ良い」

 そう言い残しノアは無数に散らばる機械の方へと足を進めた。

「ノア! 直ぐに行くわ! ちょっとだけ待ってて!」

 ノアは振り向く事なく片手を上げた、その姿を見ると同時に私は駆け出した。 
 
「……ち、ちる様」

 ノアの示した先は部屋の中心部であり透明な水槽の様なものが大きく聳え立っていた、私はその中を隈無く探す、中身は透き通っていたけど何かしらの液体が入っている事はわかった、この透明な壁は壊す事が可能なのかどうかを考えているといちばん下に微かにちる様の姿を見つけた。

 ここからでは遠すぎてはっきりとは見えなかったがその身体にはいくつかの拘束具がつけられていた。 こんなに近くに居るのに私にはどうすることも出来ない、それがとても辛かった。 

 私は壁を叩きつけて声を出す、聞こえる事は無いかもしれないけどそれでも言わずにはいられなかった。

「ち、ちる様! 必ず、必ずお助けします! ですからもう少し待っていて下さい! 必ず私が……いえ、シャルとノアがお助けに参ります!」

 私は振り返り直ぐにノアの元へと向かった。

 こんな時に人の名前しか出さない自分が情けないと思う、だけどそれが事実なんだ。 私は結局ちる様を救う為に何もしていない。 自分がちる様を救うなんて言える立場じゃ無い、その事をちる様を目の前にしてようやく理解した。
 
「もう良いのか?」

 ノアは何なのかもよくわからない様な機械を操作していながら私に話しかけた。

「えぇ、もう良いの。 でもノアの言う通りちる様の姿を一目見る事が出来たわ、ありがとう。 今は何をしているの? 邪魔しない方が良いかしら?」

「もう終わるから大丈夫だよ。 それにベルを待っていたんだ、これからちるの力を使用する為の鍵を書き換えるからな」

「でもあの四人が持っている鍵を私達は持っていないわ? 前の鍵が生きているのに新しく設定出来る物なの?」

「それは大丈夫だ、鍵はもう全部揃っているから。 それにその鍵を使って俺はこのロックを解除したんだ、今迷っているのは次の鍵を何にするかって所なんだけどまぁ何でも良いか、ベルなんか案あるか?」

「え? ちょっと待って? ノア、そんな物をいつの間に? リリィーと会ったのだってつい最近の事なのに!」

 ノアの言葉に私は驚きを隠せなかった。 
 そもそもノアの言う鍵が何なのかさえ私は知らないのだ、そんな物をノアはいつの間に手に入れたんだろうか?

「全員に会っただろ? その時に奪ったのさ。 ベルのお陰だよ」

 会った時? ますます分からない、恐らくはノアの能力に関係する事なんだろうけどそれでも全く見当がつかなかった。

「ここまで来れたのは間違えなくベルのお陰だ。 だから新しい鍵はベルが決めてくれ」

 ノアは操作を止めて私を見る。

「その、鍵ってのは一体何なの?」

「言葉さ。 ユーノは四人と同じ言葉を共有しそれをちるの力を使用する際のパスワードにしたんだ。 そのパスワードを俺は書き換える、そしてそれをベルに決めて欲しい」
 
 同じ言葉を共有しそれをパスワードにする、ユーノがそんな事をするなんて思えなかった。 だけどノアの表情は真剣でその目は私を真っ直ぐ見据えている。
 そんなノアに私は求められている答えを言った。

「願いの先にある未来」

「わかった、急いで書き換える。 少し待っててくれ」

 自分でもなんでその言葉が出て来たかは分からない、深くは考えていなかった。 ただ一瞬頭に出てきた言葉を口にした。

「終わったよ」

「もう? これで終わり?」

「あぁ、今回の目的はこれで終わりだ、まぁ大変なのはこれからだけどね。 帰ろうか?」

「えぇ、そうね」
 
 ノアはそのままきた道を戻り部屋を後にした、色々な事があって頭が追い付かないけど私も直ぐにノアの後を追って部屋を出る。

 ノアは特に話す事もなくゆっくりとその部屋の扉を閉めた。

 私達は来た道をそのまま戻っていった、みのるとの約束の三十分はもう随分と前に過ぎていたがあの二人が探しにきている感じは無かった。
 
「ユーノはさぁ、何て言葉を鍵に設定したの?」

 帰り道、長い一本道で私はノアへ話しかけた。 純粋にその言葉が何だったのかを私は知りたかった。
 
「走馬灯を見る君へ」
 
 ノアは静かにそう答えた。
 
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