走馬灯を見る君へ

accstc

文字の大きさ
27 / 50
第五章 ベルリン ベル スロット

ベルリン ベルスロット 7

しおりを挟む

「走馬灯を見る君へ……何だか不思議な響ね。 一体誰の事を言っているのかしら? それに何だかユーノらしく無い様に思えるけど」

「さぁな、こればっかりは考えた本人に聞いてみないとわかならいけど俺の解釈で言えば」

 ノアは急に口を閉ざす。 出口は目の前だ、一体どうしたのだろうと不思議に思う。

「ベル、少し下がってくれるか?」

「えぇ」

 ノアの言う通りに私は少し後ろに下がる。
 ノアはゆっくりと出口に近づき用意した小型爆弾を二つ取り付ける。

「ベルもう少し下がろう、巻き込まれない様にね。 あと耳も塞いで置いて」 
 ノアと私はもう少しだけ来た道を戻った、ノアは私を背中に隠すように立ち取り付けた爆弾を爆発させた。
 
 扉は激しい音と共に前方へ大きく跳ね上がる、そしてその向こう側には入ってきた時とは比べ物にならない程明るかった。
 
「まさか扉を爆発させるとはねぇ……。
 もしかして扉に仕掛けた罠に気付いたのか?? 出来れば大人しく捕まえたかったけどやっぱそう簡単には行かないか。 
 流石ノア君だね、とりあえず出て来なよ。 大丈夫! すぐに撃ち殺したりなんて事はしないから!」

 外から男の声が聞こえる。 この声にはは聞き覚えがある、ロンだ。
 
 もしかしてロンは私達を待ち伏せしていたのだろうか? 
 だとしたら状況は最悪だ。 さっきのノアの言葉が事実ならロン以外にも敵がいる状況で戦闘になれば勝つ事はおろか逃げる事も難しいだろう。

「こっちの台詞だよロン。 行こうか、ベル」

 ノアは静かに私の横で呟く。 何故だがその言葉は少し嬉しそうに聞こえた。

「ノア、素直に出ていく事は無いわ! 戻りましょう?? ちる様が居た部屋に戻ればっ」

「大丈夫だよ、ベル。 むしろ作戦通りだ」

 言葉を遮りノアは私の手を引っ張って勢い良く外に出た。 

 外を見渡して私は身が竦む。 私達の前には数え切れない程の人間が、獣人が立ち尽くしていた。

 その中心であり私達の目の前にロンの姿は見えた、だけどロンと私達の距離は想像以上に離れていた。

「ごめんね、ノア君。 俺一人じゃ勝てないと思ったから援軍を呼ぶ事にしたんだ、随分と長い間探索してたみたいだけど探し物は見つかったかい? いや、それは不可能か。 大方諦めて帰ってきたって所だろ? まぁその時間のお陰で援軍が到着出来たんだ、助かったよ」

 ロンは私達に聞こえる様に大きな声を出す。

「ノアさん、すいません。 でもこれもノアさんの為なんです! 無駄な抵抗はしないでください! ノアさん一人じゃもうどうしようもありませんから!」

 姿こそ見えないが今度はみのるの声が聞こえた。 みのるの言う通りだ、確かにこの状況をノアと私でどうにか出来る訳が無い、私はロンとみのるの事を甘く見ていた。 

 そしてその絶望を上乗せする様に一人の女の子が聞こえた。 その声は私にとって一番聞きたく無かった女の声だった。 

「ベル様、お久しぶりです。 それにしてもやはり貴方は素晴らしい! まさかここに乗り込んでくるなんて私も驚きです。 一体どうやってこの場所を?」

「リリィー……」

 ロンの後ろから現れたリリィーはこちらまでゆっくりと歩きながら私に言う。 

 最悪だ、まさかよりによってこの女を呼ぶなんて。 自分の身体が小刻みに震えているのがわかる。 

 そんな私の心情を悟ってか、ノアが私の手を握り潰すくらいに強く握った。 

「ベル、大丈夫。 俺を信じて」

 ノアは私に微笑みながら静かにそう言い、リリィーの元へと私を引っ張って歩いていく。

 お互いに歩みを止める事はなく遂に私達の距離はこの間会話した時よりもずっと近くなっていた。

「あら? 違う男かと思ったら貴方でした。 今日は震えて居ないんですね」

 挑発する様にリリィーが笑う。

「あぁ、前と違って今は俺の方が有利だからな」

「有利?? ふふっ、面白い事を言うのね。 何処かで修行でもしてしら? その割には前とあまり変わって無い様に見えるけど?」

「来るのが遅かったなリリィー、いや、もしかしてわざとか? まるで俺達に時間をくれた様だったな」

「……何が言いたいのですか?」

 リリィーとノアは矢継ぎ早に言葉を交わす。 

「わかっているだろ? まぁとりあえずいつでも話合いには応じるからまた連絡してくれ」

 ノアは顔色を変えずにリリィーの隣を通り抜けようと私を引っ張りながら前に進んだ。 

 その瞬間ノアの前に大きな刀身が振り下ろさせれた。 

 私はリリィーがいつの間にか剣を抜いていた事に気付く。 その動作は早すぎて目の前に振り下ろされるまで全く反応出来ていなかった。

「帰れると思っているんですか? 貴方達はこのままユーノの元へと連れて行きます」

 その声は今まで聞いていた中で一番冷たく感じる。

 私は声が出なかった、一言でも発したら殺さるんじゃないかと思える程、リリィーの殺気は常軌を逸していた。

 そんな中ノアは小さく溜息を吐きリリィーと私にだけ聞こえる声で話す。

「走馬灯を見る君へ。 君ってのはちるの事か? それとも他の誰かか??」

 ノアの言葉にリリィーが表情を変える。 誰の目から見ても驚いている事が分かる程にリリィー目を見開いていた。
 
「貴方一体何故それを?」

「聞いたんだよ、お前達からな。 今ここで俺達を拘束したいならすれば良い、だけどその判断はユーノに聞いた方が良いんじゃ無いか?
 俺達は話し合いにはいつでも応じるって言っているんだ、今日はそれで良いだろ??」

「……貴方がいつでも応じると言う言葉を私が信じると?」

「少なくともお前なら信じるさ」

 ノアは即答で答える。

 リリィーはノアの言葉に少しの間何かを考える様に沈黙し、やがてゆっくりノアの前から刀を退かす。

「そうですね、確かめなきゃいけない事も出来ましたしここは見逃す事にしましょう、貴方ならいつでも殺す事が出来そうですし」

「はは、面白い事言うな。 お前にすぐ殺せない相手なんて居ないだろ? まぁ取り敢えずはありがとうとは言っておくよ。 ベル、家に帰ろうか」

「え? あっ! はい!」

 ノアは本当に楽しそうに笑って言った。 この状況でリリィーが私達を見逃してくれるなんて思いもしていなかった。 
 
 私はノアに促されるままにその後を追っていった。

「その二人を通してあげなさい! 責任は私が取ります!」

 後ろでリリィーが大きな声を上げた。
 その言葉に周りは少し騒ついたが、リリィーの言葉に従わない者はこの場には誰一人として居なかった。 

「悪いなロン、騙して。 あっ、でもサインは本物だから安心して」

 帰り道ロンとすれ違う際、ノアはそう口にする。

「騙したのはお互い様だろノア君。 まぁ直ぐ会う事になるだろうからその時はまた宜しく」

 ロンは小さな声で言葉を返す。 

 ノアは返事をする事は無く歩いて行く。 
 私はロンへ軽く会釈をした、彼を悪く言った事を敵ながら謝りたかったから。
 そしてそのまま私達はロンが呼んだ軍勢の間を抜けて行った。

 
「まだどうなるかはわかんないけど、取り敢えず今日の目的は達成したな。 ベルとシャルのお陰だよ、ありがとう。 さてまた暫く歩かなきゃ行けないな、頑張ろうぜベル」

 少し歩いた所で振り向く事なくノアが話す。 


 ノアは一体何処まで見えているのだろうか? 
 まるで事の顛末まで全てを知っているかの様にも思えた。
 
 ……だけど私はノアに何かを尋ねる事はしなかった。
 

 私から見えるノアの背中は恐怖を拭う様に小刻みに震えていたから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...