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第6章 リリィーアルティメスト

リリィー アルティメスト 6

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「種明かしとは言え手荒な真似になった事は申し訳なく思っているよ。 悪かったな……ロン」

 ノアは手から短剣を離し、未だにテーブルの上で悶えている男に話しかける

 ロン? 確かテイミーの部下であの城を任されているうちの一人がそんな名前だった気がする。

「ちっ本当だぜ、全く。 あーあ、歯が折れちまってるじゃねぇーか」

 悶えていた男はノアの言葉に諦める様に小さな溜息を吐き軽々しく答える。

「それからみのる。 お前結構素早いんだな、まさかあの状況から止めに入れるとはね」

「ノ、ノアさんが本気でロン先輩を殺そうとしていたから焦ったんですよ。 それにしてもボロを出さない為に話さない様にしていたのですが良くわかりましたね?」

 みのると呼ばれたシャルは驚いた様に目を見開いてそう返す。 

「それは悪手だったな、本物のシャルはこう言う時俺の倍は話すよ」

 ノアがシャルに笑顔を向けて話す。 
 
いや、みのるに話している事になるのだろう……それにしても随分と楽しそうに話すのね、まるで友達みたい。

「どう言う事? も、もしかしてシャルが偽物だったの?」

 ベルスロットが声を震わせる。

「あぁ、シャルだけじゃ無くマスターもな。 これがそいつの、テイミーの能力なんだろ?」

「あ、有り得ないわ! 私がシャルを偽物だと気付かない筈が無いもの!!」

「いつものベルなら当然気付いただろうけど、今日は相当緊張していただろ? そこを狙われたって事さ。 まぁ仕方ないよ、相手のお仲間さんも全く気付かなかったみたいだし」

 ノアは視線を私達に向けて見下す様に話す。
 
 確かにノアの言う通りだ、少なくとも私は全く違和感を感じる事なくシャルとマスターを見ていた。 

 店の客が全員テイミーの部下だったのも今なら納得出来る、最初にシャルが店を変えようとした所からテイミーの作戦は始まっていたのだから……ユーノに気に入られるだけの事はある、まさか私まで騙されるとは。

「ふぅー、そこまでわかっているのならもう隠す事は無駄ですね、貴方のおっしゃる通りこれが私の能力です。 他人を別人に変装させる事が出来る、身体つきも声もね。 さて種明かしされた以上、もうこの能力は不要ですね」

 そう言ってテイミーは指を軽く鳴らす。
 同時に店のマスターの姿はロンに、シャルの姿はみのるへと変化していった。

「嘘……」

 ベルスロットがシャルの姿を見て小さく呟き、今までで一番怖い顔をテイミーに向ける。

「本物のシャルを何処へ連れて行ったの!!」

「そう怖い顔をしないでくださいベルお嬢様。 心配なさらずとも貴方が城を出たと同時に解放しましたよ。 今頃はいつものお城のベットで寝ていると思いますよ」

「……ノア」

「あぁ、気になるんだろう? こっちは大丈夫だよ」

「あ、後で話したい事があるわ、絶対に戻ってきて!」

 そう言い残すとベルスロットは駆け足で店を後にする。

「で、此処までがお前のシナリオだろ?」

 ベルスロットが店を出たのを確認した後、ノアはテイミーに話かける。

 その言葉にテイミーは先程までとは打って変わり嬉々とした笑みを浮かべる。

「流石ですね、貴方はまるで未来でも見てきたかの様だ。 その通り、此処までが私のシナリオです、貴方を拘束する為にあのベルの子には退室して頂きたかったのです、彼女を拘束するのは骨が折れますからね。
 まぁ本来なら私自身で種明かしをする予定でしたが」

「良く言うぜ、俺がお前の能力を見破る事も想定の範囲内だろ? 俺の能力を確かめる為に」 

「ふふ、面白い。 貴方本当に面白いですね。 そこまで分かっていながら敢えて私の策動りに動いてくるとは一体何を考えているのですか? 
 この状況で貴方が私達から逃げる方法があるとでも??」

「別に逃げるつもりはないさ。 そうだな、強いて言うならただ聞きたかっただけかもな」

「聞きたかっただけ?」

「あぁ、お前が俺の能力を何だと思っているのかをな、もう答えは出ているんだろ?? 今度はお前が種明かしをする番って訳だ、お互い自分のでは無く他人の能力だけどな」

 ノアは何処か満足げに椅子に深く腰掛ける。

「良いでしょう、貴方と話す事はこれで最後になるかも知れませんからね」

 テイミーはそう言うと目を瞑り何かを考える様に黙った。

 トラとニクスはそんなテイミーに悔しそうな視線を向けていた。
 この状況が全てテイミーの計画通りな事が少し気に食わない様だ。 
 
 まぁ確かにこのまま行けば間違えなくノアを拘束できるだろう。 
 彼等がノアを拘束する事を躊躇した最大の理由はベルスロットの存在があったからだ。
 私は別にベルスロットが居ても問題は無いのだけど、テイミー達は元々ベルスロットの下に仕えていた事もあってか、彼女を捕らえる事に三人共少し抵抗があるみたいだ。 それはこの間の戦いでも分かっていた。
 だからこそ彼女をこの場から退室させたのだろう。

 そしてそれと同時にノアの能力を推し量ろうとした……良くもまぁこんなに色々考えれるもんだと素直に感心する。

 だけどそのお陰で私もノアの能力に見当がついた。 
 ノアはトラやニクスの能力を見破り、今この場でテイミーの能力さえ見破ったのだ、考えられるのはそう多くは無い。

「貴方の能力はその類稀なる洞察力でしょう」 
 
 テイミーは穏やか口調で話し始めた。

「貴方には物事の真偽や善悪そして相手の能力までも読み取る事が出来る。
 その力でトラやニクスそして私の能力を完璧に読み切り、更には我々が決めたコードも読み取った。 
 ……貴方の前では合言葉やパスワードは全て意味の無いものとなる。 それが貴方の能力だ」

 テイミーの答えは私が考えにも近かったが決定的に違う部分がある。
 私はノアの能力はもう一段階上のものだと想像している。


「まさかここまでとはな」

 対面に座るノアが先程のテイミーを真似てか同じ様なトーンで声を出す。

「ニクス!!」

 ノアの言葉が終わると同時にテイミーが叫ぶ。

「分かっているわよ」

 ニクスはテイミーの言葉にすぐ様反応を見せ右手を僅かに動かしてテーブルを叩く。
 その瞬間今までノアが座っていた椅子はその形を変え、ノアを拘束する。

「死んだら困るからね、顔だけは出しといてあげる」

「あぁー、やっと終わったかぁ! こんな小物相手に無駄に時間を使ったなー、疲れたぜぇ」

 ニクスの言葉にトラが立ち上がり身体を伸ばす。

「あんたは何もして無いでしょうが!」

「馬鹿が、座ってるだけが一番疲れんだよ! うざったい話ばっかりしやがって、後少しで寝る所だったぜ。 さっさとこいつ連れて帰ろうぜ? こんな事してると身体が鈍っちまって仕方ないな、リリィー帰ったら勝負しようぜ!」

 トラが大きな声を上げながら私に目を向ける。 
 私はトラの事は無視してノアに視線を向ける、ノアは表情を崩す事なく何かを待っている様に口を噤む。

「最初から条件とやらを教えて頂ければこんな事しなくて良かったのですが、貴方に暴れられるとトラやニクスが勢い余って殺してしまう可能性もありますからね。
 ここは安全に拘束させていただく事にしました。 因みにその椅子はニクスの能力で造られた物なのです、貴方の能力でも多数の能力を同時に見破る事は難しいと言った事でしょうか? 一度あの場所に仕掛けられたニクスの能力を見破ったわりにはあっけなかったですね。
 それともどうせ逃げられないなら抵抗するだけ無駄だと考えたのでしょうか??」

「その質問にはさっきも答えたろ? 逃げるつもりなんて元々無いのさ」
 
 ノアは表情を変える事なくテイミーの問いに答える。

「そうですか……ではこのままリリィー様の能力で貴方を気絶させ、トラの能力で貴方の気配を消しながら移動します。
 貴方は今、決してコードを言う事はないと考えているでしょうが、私達の拷問に耐えれる事は無いでしょう」

「全員の能力を活用してくれる訳か、光栄だな。 だけどなんで態々説明するんだ? しかも親切に俺の心配までしてくれているしな」 

「言っても言わなくても同じ事でしょう。 貴方はこれからの事を分かっているみたいですし、そこからさらにもう一歩先を見据えている感じさえする。 
 ですが流石に私達の元へ連れて行かれればそこからは貴方の思う様には行かないでしょう。 貴方につける隙は無いと思いますから」

「結局何が言いたいんだお前は?」

「少し周りくどかったですね、単刀直入に言えば私は貴方が気に入ったのです。
 貴方の能力はとても魅力的だ、拷問で廃人にするには勿体ないと感じているのです。 
 なので貴方が今、この場でコードを私達に返してくれるなら私は貴方を見逃しても良いと思っています。 勿論私の元で働いてくれるのでしたらですがね。 あぁ、後貴方の条件とやらも出来る限り叶えますよ、どうでしょうか? 悪い話では無いと思いますが?」 

「テイミー、あんたこんな奴を部下にしたいの?」

「本当だぜ、こんなの何処にでもいるだろ? さっさと連れて帰ろうぜ?」 

 トラとニクスが驚いた様にテイミーに言う。
 
 私はテイミーの提案は良い物だと思う。 ノアが乗るかどうかはわからないが、この男はそれなりに優秀だ。 

 それにノアの条件とやらも気になる……結局この男の目的は分からず仕舞いなのだから。

「確かに悪い話では無いかもな。 俺の条件を飲んでくれるならそれも良いかも知れないな」

 ノアは小さな声でテイミーに答えた。

「そうでしょう? ではその条件を教えてもらえますか?」 

 テイミーは予想通りの答えに満面の笑みを浮かべる。
 
 これで全部テイミーの計画通りに進んだ事になる、まぁそれはそれで良い。
 この勝負はテイミーの勝ちだ。

 私は思わず小さく溜息をついていまい、テイミー達に聞こえたかと少し不安になったが、誰にも聞こえてはいなかった。 
 私よりも大きな溜息を溢すノアに掻き消されていたのだから。

「はぁー、何回も言わせないでくれ。 俺にとっての交渉はもっとフェアな物だと言っているだろ? 
 それなのにこの状況で俺が話すと本気で思っているのか? それにお前が俺を気に入っただと?
 良くもまぁそこまで嘘を重ねられるもんだな、お前が俺を仲間にしたいと思っていない事くらい能力を使わなくても分かる。
 お前はただ自信がないんだろ?」

 呆れた様に放つノアの言葉はテイミーの顔から笑みを消し去る。

「……自信がないだと? 勘違いするなよ、この負け犬が!
 今なお交渉気分で居るのはお前だけだ。 今やお前の運命は俺の手の中にある事を忘れるな!」

「あぁ、俺が本当にお前らの拷問で口を割るかかどうか不安なんだろ? だからわざとらしく拷問の恐ろしさを煽って俺がより楽な方に逃げる様に誘導しようとした。 だがそれは悪手だったな、いや俺の能力を知りながら心理戦を仕掛けるなんて悪手どころか愚の骨頂だな」

 そう言い切った後ノアは大きな声で笑った。 
 
 テイミーの怒りが膨れ上がるのを私は感じる。
 今の状況でテイミーを煽る事に一体何の意味があるのだろうか? 


 未だ高らかに笑うノアに私は寒気がした。
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