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第7章 シャル リー ロッテ 

シャル リー ロッテ 3

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「遅かったですね」

 長い階段を降り終えた先でリリィーがこちらに目を向ける事なく呟く。

 ノアは小さく悪かったと答えた後リリィーの元へと向かい、その隣にいたベル様は特にこちらに反応する事はなく、そのままずっと前を見たまま立ちつくしていた。

「……まぁ良いでしょう。 準備は良いでしょうか?」

「あぁ、勿論」

「そうですか。 では、参りましょうか」

 リリィーはそのまま目の前の大きな扉をゆっくりと開け、振り返らずに先に進みそれにベル様とノアが続く。
 
 私は三人の一歩後ろを歩きながらその扉の奥に足を踏み入れた。
 
 その部屋に入った瞬間私の目に一番最初に映ったのは、大きなガラスに囲まれ様々な機械と配線で身を締め付けられるように佇むちる様の姿だった。

「ちる様!!」

 ベル様と声を合わせて気付けば私はちる様の元へ走り出していた。

 目の前にちる様がいる、その事で私の頭はいっぱいになっていたのだ。

「……お久しぶりです、ベルお嬢様」

「ユ、ユーノ!」

 ベル様と私の足を止めるように目の前にユーノが姿を表した。

「そこを退きなさい! ユーノ!!」

「残念ながらそれは出来ません。 今はまだ貴方に邪魔をされる訳には行かないのです」

「聞いていなかったの? 私はそこを退きなさいって言ったのよ?」

 ベル様の言葉に怒りが滲む、このままではユーノに殴りかかってしまうだろうと思い私は急いでベル様の手を掴んだ。

 もし戦いになればこちらが負けるのは明らかだ。 それほどの戦力差が私達とユーノの間にはある。

「落ち着けよベル」

 一触即発の空気を読んでかノアがベル様とユーノの間に立ち塞がって両手を上げ、その視線をユーノに向ける。

「初めまして、お前がユーノか? まさか本当に他者の能力を受け付けないとはな。 ちる以外に俺の能力が使えなかったのはお前が初めてだよ」

「ちる? 貴方もしかしてちる様を呼び捨てしているんですか?」

「ん? まぁな。 何か問題でも?」

「……いえ、別に。 この場にいると言う事は貴方がノアと言う訳ですか?」

「聞かなくてもわかっているんじゃないのか、お前は何でも知っていそうだからな」

「わかってませんよ。 私には貴方の様な力はありませんからね」

「そいつは悪かったな。 じゃあ、自己紹介が先か、俺の名前はノアだ。 ノア・デ・ステファーノ、よろしくな」

「これは御丁寧にありがとうございます。 私はユーノ。 ユーノ・ユーストリア、以後お見知り置きを」

 ノアとユーノは互いに挨拶を交わし手を取り合う。
 
 そんな光景を間近で見ていたベル様が私の隣で怒りに身を震わせていた。
 このままでは今にも突撃しそうだと思い、私はノアに話を進める様に促す。

「ノア様、ここが貴方の言う最終決戦の場所なのでしょうか? もしそうなのでしたらこの状況を説明して貰いたいのですが?」 

「そうだな。 そうしたいのは山々だけど、どうせなら俺から話すよりは本人から直接聞いた方が良いかもな。 なぁ、ユーノ?」

 どこか元気なくノアは答え、ユーノに視線を戻す。
「そうですね。 ここに呼んだのは私の方ですし、貴方が話すより私の方が説得力がありますからね」

 ノアからの視線を受け取った後、ユーノは後ろで1人佇むリリィーに声を掛ける。

「リリィー、少し席を外して貰えないだろうか?」

「無理ね」

 ユーノの言葉にリリィーは不快感を隠す事なく即答した。

「命令だと言ってもか?」

「ええ、そもそも元々私は貴方の部下ではありませんし、それにこの者達をここに連れてきたのは貴方に頼まれたからではありません、あくまで私自身の目的の為ですから」

 リリィーがゆっくりと鞘から剣を抜いて続ける。

「もし私をここから追い出したいのなら力ずくで動かすしかありませんよ?」

 その仕草がどこか美しく私は目を奪われた。 
 さっきまで一言も話していなかったリリィーが一瞬で空間を支配していく。 
 その殺気にリリィーが本気を出せば私なんていつでも殺せるのだと改めて気付かされた。

「……ふー、わかったよ。 ここにいてくれて構わない、お前と殺し合うつもりは無いからな。 だけど俺の話が終わるまでは暴れないでくれよ?」

「ええ、勿論。 それは約束します」

 ユーノの言葉にリリィは構えを解く。 

 正直言ってリリィがここまでの化け物だとは思っていなかった。
 よくもこんな女をユーノは従えているなと感心してしまう。

「話し合いは終わったかしら? ユーノ、貴方がどうして私達の前に姿を見せたのかは分からないけど、今もこうしてちる様を拘束している所を見ると貴方の目的は変わってないって事で間違いないのよね??」

 今までのやり取りを意に返さずベル様はユーノに問いかける。

「何処から話そうか少し迷ってましたがベル様が質問してくださるのなら私はその質問に答えましょう。 勿論答えはイエスです。 
 私はこのままちる様をこの世界から消します、その目的は今も変わっていません」

 真剣な表情と落ち着いた声でユーノは答える。 
 その瞳には一切の迷いも感じられなかった。

「……そう、残念ね。 じゃあ何の為に貴方はここに来たのかしら? 私達を殺す為に来たって事で良いのかしら?」

「いえ、もし私が本気でベル様達を殺すつもりならこんな遠回りの方法は取りませんよ。 それ自体はさほど難しい事ではありませんから。
 今日ここに来てもらったのはお願いがあったからです」

「はっ! お願い?? もしかして私達が変えた鍵とやらを返して欲しいって事かしら? だとしたらそれは出来ないわ! ちる様を消そうとしている奴なんかに教えるわけっ」

「いいえ、それはもう良いのです。 鍵としての役目はもう十分に果たしましたから。 私がお願いしたい事はそんな事ではありません」

 ベル様の言葉を遮ってユーノは私達に真っ直ぐ向き合い姿勢を変えて続ける。

「私に力を貸して欲しいのです。 ちる様をこの世界から消す為に」

 背中を丸め頭の先をこちらに向けてユーノは話す。 

「「なっ!!」」

 その姿を見た瞬間、私の心は大きく脈打った。
 ユーノが私達に頭を下げる、こんな事は有り得ないと思っていたからだ。

 一体ユーノは何を考えてるのか?
 
 頭を下げたくらいで私達が、ベル様やノアがユーノの提案を飲む事なんて有り得ないのは知っている筈だ。 

 なのにどうしてユーノは私達に態々協力して欲しいなどと言うのだろうか。 

 私の脳に夢の中で見たちる様の悲しげな表情がよぎる。

 ……もしかしてユーノの本当の目的はっ。

「い、いい加減にして!! 私にちる様を消す手伝いをして欲しいですって? 一体なんの冗談のつもり? 何がお願いよ! 馬鹿にしないで!!」

 ベル様が感情を爆発させて声を上げた。

 だけど、その言葉には何処か迷いが見える、きっとベル様も私と同じ可能性に思い至ったのだろう。 
 でもそれを、それだけは認めたくない。 
 そんな気持ちがベル様から痛いほど伝わってきた。

「ノア!! これが貴方の言う最終決戦なの? ユーノに頭を下げさせて私達を納得させる事が貴方のやりたかった事なの? 答えて!!」

 ベル様はノアに鋭い視線を向けた、その視線をノアは真っ直ぐ見つめ返してまるで懺悔する様に小さく答えた。

「あぁ、これが俺の描いてたシナリオだ。 そして付け加えるなら俺はユーノの頼みを聞こうと思っている」

 ノアがそう答えた瞬間、部屋に乾いた打撃音が響いた。

 ノアの頬は叙々に赤みを帯び、それに感染する様にベル様の手も赤くなっていく。

「ず、ずっとこの為に行動してたの? い、いつから知っていたのよ! ノア!!」

 目を赤くして今にも泣きだしそうな声を響かせる。

 いつから知っていたのよ。 この言葉がベル様の頭の中を代弁する。

 そう、私達はもう知っているのだ。

 ノアは理由もなく私達を裏切る人じゃない事も、ノアがちる様をどれだけ慕っていたかも、そしてその為に今迄どれ程の苦労をしてきたかという事も。 
 そんなノアがユーノの提案に、ちる様をこの世界から消すと言う案に乗ったのだ……考えられる事はもう一つしかないではないか。

「最初からさ。 この世界に来た時、ベルやシャルから話を聞いた時から俺にはどうしても納得できない事があったから」

 その言葉の続きは私がさっきようやく思い出したものだった。 

「ユーノがどんなにすごい奴でもやっぱりちるが捕まるなんて有り得ないんだ」

「そ、そんなのわかんないじゃない! ユーノにはまだ何か秘密があるかも知れないし!」

 零れ落ちる涙を隠す事なくベル様は必死にノアに食い下がる。 

 その光景に私は胸が締め付けられた。 

 どうしてもっと早く気付く事が出来なかったんだろうと、私だけが知っているちる様のあの表情をどうして今まで気に留めなかったのだろうと深く後悔する。 

 ……私はずっと見て見ぬ振りをしていたのだ。

「有り得ないよ、ベル。 ちるはこの世界の神様なんだろ? 拘束なんて出来る訳ないんだ」

「……」

「万に一つちるを拘束にするのに成功したとしても、ユーノが本気で自分の野望の為にちるを消すなら、ベルやシャルにちるを捉えた事を気付かれたりはしなかっただろう、幾らでも隠し通せた筈だからな。
 そして何よりベル達と戦った後で2人を自由にもしないだろう、少なくとも邪魔できない様には手を打つさ。
 ……つまり俺がこの世界に来れた事自体がユーノが本気じゃなかった証拠って事になる」

「……」

「それにちるの能力を使ってちるを消すなんて一体誰が思い付く? 思いついたとして一体どうやってそれを実現する?
 その答えを持っているのはユーノじゃない、それはっ」

「やめて!! 聞きたくない……それ以上はもう何も言わないで」 

 ベル様は大声でノアの話を遮った。
 そしてその気持ちは、その痛みは私にも突き刺さる。 
 
 ノアが今言った事は全部心の何処かで不思議に思ってきた事だったから。 
 私達はいつの間にか自分の都合の良い様に全ての謎を歪曲していただけだったのだ。

「……いいや、ベル。 ちゃんと言葉に出して認めなきゃ俺達は先に進めない。
 今迄ずっとベルとシャルを騙してきた俺が言える事じゃないけど、これからが俺達の始まりなんだから」

「始まり? ふふ、おかしな事を言うのねノア、終わりの間違いでしょう??」 

「いいや、まだ終わりじゃない」

「終わりなのよ!! 言葉にして認めろですって? そんな事になんの意味があるのよ! 結果は何も変わらないわ! ちる様が消えてしまう事実はね!!」

「確かにちるが消える事は変えられないかも知れない。 だけどまだ俺達には出来る事が、やらなきゃいけない事があるんじゃないか?」

「やらなきゃいけない事って何よ!!
 今の私達に出来る事なんてもう何も無いじゃない!!」

 ノアの言葉にベル様は声を荒らげる。
 その表情には生気はなく憔悴していた。
 
 ……ベル様の言う通りだ、私達に現状をどうにかする事は出来ない。 
 最早さっきまでとは状況が一変しているのだ、ユーノの邪魔をする権利はもう私達にはないのだから。
 いや、そもそもそんな権利は最初から無かったのだ。

「ノア様、もう辞めて下さい。 今まで気付かなかった私達が悪いのです。 これ以上もう話す事は無いでしょう」

「……本当にそうなのか?」

「え?」

「ベル、シャル。 本当にこれで良いのか? ここまで来て……諦めるのか?」 

 ノアの声色が僅かに変わる。 
 

 ……私達の態度に少し怒っている?
 一体ノアは何が言いたいのだろうか?
 諦める? 何を? ちる様を助ける事を? それとも他の何かを? 

 深呼吸をして呼吸を整え、私はもう一度思考を巡らせる。


 ユーノは私達に力を貸して欲しいとお願いしてそれをノアも了承した。 
 だけどよく考えればこれは変だ、元々ユーノは私達の手を借りなくてもちる様を消す事が出来た筈なのだから。 
 一体何故、態々ユーノは私達を呼び出してまで頭を下げる必要があったのだろうか?
 ちる様をこの世界から消し去る為に協力して欲しい……ユーノはそう言い、ノアはこれからが始まりだと言った。

「……そういう事ですか」

「シャル?」

 なんて周りくどい言い方をするんだと私はノアを恨めしく思う。 
 だけど同時に感謝もしなければならないだろう。 
 この答えを出すのは確かにベル様じゃなきゃいけないのだから。 


 だとすれば私はベル様の従者らしく振る舞おう。
 それが今の私の役目なのだから。
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