走馬灯を見る君へ

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第7章 シャル リー ロッテ 

シャル リー ロッテ 4

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「……ノア様が言葉に出して認めろとベル様に迫るなら、代わりに私が言いましょう! 
 ノア様がこの世界に来て直ぐに気付いた事にこの場でようやく気付いたこの私が得意げに話して差し上げますとも!」

 ノアへ言葉を返さないベル様に代わり私は出来るだけ声を張って答えた。

「シャル、どうしたの一体? 今更そんな事しても無駄だわ」

「いいえ、ベル様。 はっきりと言葉にしておくべきなのです! 
 ユーノがちる様を消そうとしていたんじゃない……ちる様がユーノに頼んで自身の存在をこの世界から消そうとしていたんだと!!
 この世界から消える事、それはちる様自身の望みだった……そうでしょ? ユーノ!!」

 ユーノを指差し私は大声で叫んだ。

 声に出すと自分の不甲斐なさをより一層痛感する。 
 私達がずっと敵視していた男、ユーノは敵なんかじゃなかったんだ。
 むしろ私達がユーノの敵だったんだと今更気付く。

「……その通りですシャルさん。 私はちる様に頼まれてこの場にいます。
 そしてその願いは今や叶いつつあるのです、約一ヶ月後にはちる様はこの世界から完全に姿を消す事になるでしょうから」

 頭を下げたままユーノは答える。 表情は見えないがその声にはどこか哀愁が漂っているように感じる。

「……ちる様自身の願い」

 ベル様が弱々しく呟く。

 無理もない、私だって出来ればユーノに否定して欲しかった。 
 何を言っているんだと罵倒された方が楽だったとさえ思う。 
 
 ユーノの言葉はベル様が過ごしてきたこの三ヶ月を無に返すものなのだから……だけど、ベル様にはまだ出来る事がある。 
 そしてそれは私には出来ない、ノアにもユーノにも出来ないのだ。
 これはきっとベル様しか出来ない、この国の、世界の王であるベル様にしか。

「ユーノ、ちる様がこの世界から消えたいと願っている。 どうやらそれは認めないといけない事なのでしょう。 
 だけど、私にはまだ少し信じられません。 一体どうやってちる様はこの世界から消えるつもりなのですか?」

 殆ど答えの出ている質問を私はユーノにぶつける。
 きっとこの答えこそがユーノがベル様に頭を下げた理由なのだろうから。

「……シャルさんは私の能力をご存知でしょうか?」

「範囲はわかりませんが特定の『何か』を消し去るものだと認識しています」

「その通りです。 ではご存知だと思いますが、私の力では人や物を消し去ると言った事は出来ません。
 つまり如何に私の力を底上げした所でちる様自身を消し去る事は不可能と言う訳です」

「ええ、だからこそ貴方が消そうとしているのはソフィア様の能力なのでしょう? この世界に神がいると言うソフィア様の能力を消し去る事によってちる様を消滅させる……そうでしょ?」

「流石ですね。 そこまで分かっていたとは。 そうです、それがちる様を消滅させる為の第一歩になります」 

 第一歩。

 その言葉に私は自分の考えが当たっていたのだと理解した。 

 ユーノがちる様に頼まれて消そうとしているのはソフィア様の能力だけではない事を。

「その一歩を踏み出した後、貴方は次に何を消すつもりなのですか?」

 聞きたくのない質問を私はユーノに尋ねる。 
 ちる様が本当にそれを望んだのだとしたら私の心は張り裂けそうになる。

「ソフィア様の能力を消した後、私はちる様に関する全ての記憶を人類、そして獣人から消し去るつもりです」

 ユーノは僅かに声を震わせる。

「……え? ちょっとユーノ! それどう言う事?」

「ベルお嬢様、これがちる様の望みなのです。 あの方は今まで生きてきた自身の軌跡、その存在までもこの世界から消し去ろうとしているのです。
 今を生きる世界中の者達の記憶から完全に居なくなる事でようやくちる様は自身の存在を消す事が出来るのですから」
 
 ユーノの言葉にこの場にいた全員が口を紡ぐ。 

 そうだ、ちょっと考えればわかっていた事だ。
 ソフィア様の能力を消しても、今この世界に生きる者達は既にちる様が神様であると言う認識を共有しているのだ。

 今すぐにこの世界から消えたいとちる様が本気で願っているとしたら、必然的に全ての者の記憶から居なくなる必要がある。 
 それはどう足掻いても変えようも無い事実だった。

 ……だからこそユーノは私達に頭を下げたのだ。

 このどうしようもない状況をユーノもなんとか変えたかったんじゃないだろうか。
 このままちる様の願いを黙って聞く事が本当にちる様の為になるのか、その答えをユーノはベル様に求めたのではないだろうか。 

 頭の中に浮かぶ様々な考えを纏めながら私はベル様の言葉を待つ。

 ……勿論ベル様がどんな答えを出しても私は従うつもりだ。 
 行動を起こし私やノアをここまで導いてくれたのは間違えなくベル様なのだから。
 
 
 暫くの沈黙の後、ベル様がゆっくりと口を開いた。


「どうやら私達はいつの間にかちる様に頼りっぱなしになっていたのね、この世界に生きていながらその責任の全てをちる様に押し付けていた、長い間ずっとね。 
 その事に今更気付くなんてね、こんなのが一国の王として君臨していたのだものちる様が消えたいと願うのも仕方ないわ」

「ベル様……」

「ねぇユーノ。 ちる様はどうして今すぐにでも消える事を望んでいるのかしら? 態々記憶を消さなくたってソフィアお祖母様の力を消しただけでも十分じゃないのかしら? 
 確かに時間はかかるかも知れないけど、能力さえ無くなればいつかきっとちる様の事を神様だって思わない世界が来るはずよ! そうよ、それからだってっ……いや、ごめんなさい、なんでもないわ」

 ベル様は何かを悟ったのか自らの言葉を止めた。

 いつかきっとそんな日が来るかも知れない。 直ぐにでも消えたいと願うちる様に対してそんな曖昧な言葉をベル様は言いたく無かったんだろう。

「……一ヶ月後にちる様に関する記憶が私達の中から消え、同時にちる様の存在もこの世界から消える。 
 そしてそれがちる様の願い……そんなの、そんなのって!」

「絶対に許せないわ!!」

 ベル様は意を決した様に力強く歩き出しユーノの横を通り過ぎてガラス越しにいるちる様に指を差す。

「ちる様! すいませんがその願いを叶えるわけにはいきません!! 
 私は最後まで邪魔を致します! 勝手に私達の記憶から、目の前から消えるですって?? そんな事、例え神様が許しても私は絶対に許しません!!」

 耳が痛くなる程の大声で叫ぶベル様を私は誇りに思う。

 ちる様に対してでさえこの方は自分の意思を曲げる事はないのだ。 
 ベル様に仕えていて良かったと改めて思いながら、ノアと共に私は笑った。

「ははっ、流石ベルだな」

「えぇ、あれでこそベル様です。 それにしても、もしベル様が違う決断をしていたらノア様は一体どうするつもりだったのですか?」

「勿論諦めるつもりだったさ。 俺はこの世界の人間じゃない、言わば部外者だからね。 ベルが諦める時は俺も一緒に全てを諦めるさ、当然だろう?」

「ふふっ、その割には随分と食い下がっていた様に見えましたが?」

「そ、それはまぁお互い様だろう?」

「えぇ、そうですね」

 私とノアは足並みを揃えてベル様の元へ歩く。


 ノアの言った通り、ここからが私達の始まりなのだろう。 

 私達は最初の目的とは真逆の事をこれからしようとしているのだから。
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