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第7章 シャル リー ロッテ
シャル リー ロッテ 5
しおりを挟むベル様の元に集まった私達はユーノとリリィを交えて話し合う事になった。
今迄では考えられなかった状況だ。
リリィは一言も話す事は無かったが、特に文句を言う事もなかった。
「とりあえずは俺達の目的を纏めるべきだと思う。 ベルは一体ちるをどうしたいと考えているんだ?」
「私はちる様に消えて欲しく無いと考えている。 出来る事ならこのままずっとこの世界にいて欲しい。
……だけど、他でも無いちる様自身がが消える事を望んでいるなら、それを邪魔する権利は私には無い。 その願いは叶えなきゃいけない事なんだと思う」
「私の気持ちも同じです。 ちる様の願いは叶えて差し上げるべきです。 それが私に出来るちる様への恩返しでもありますから」
ユーノがベル様の言葉に頷きながら返す。
今となってはユーノの言葉に反論する者はここにはいないだろう。 私もちる様の願いを叶える事に異議なんてなかった。
「でも誰にも気付かれず、全てをなかった事にして勝手に消える事だけは認めないわ。 それだけは何がなんでも阻止したい。 ユーノ、貴方のお願いを私も聞くわ。 貴方も最初からこれが目的だったって事でしょう?」
「……すいません、ベルお嬢様。 ずっと騙していた事、今ここで謝罪致します」
再度頭を下げてユーノが言う。
「そ、それは別に良いわ! でもどうして最初から教えてくれなかったの? こんなやり方をしなくても最初から教えてくれたらいくらでも協力してたわ!」
「いいえ、私はどうしてもベルお嬢様を追い込む必要があったのです。 理由は今ここでは言えませんが、とても重要な事だったのです。 この男、ノアをこの場に連れて来てくる為には」
ユーノはノアに視線を向けた。
私もユーノの言っている事には少し納得してしまう。 確かにあの絶望的な状況で無い限り私はノアを召喚する事はなかっただろうから。
「ノアを? そう、さっきユーノが言っていた『鍵の役目』と言うのはやっぱりノアの事だったのね」
「はい、そもそもあの鍵になんの力もありません。 あれは文字通り只の鍵であって、ちる様をどうにか出来るものではありません、精々あのパソコンを動かすのに使えるくらいの代物です。 」
「ちっ」
リリィから小さい舌打ちが聞こえた。
どうやらこの話は初耳らしい。
「一体どうしてそんな鍵を作ったの? リリィや部下達を騙してまで」
「本来の目的は私と同じ精神系の能力者を探す為です。 ちる様の計画の一部を阻止する為にはそういった力が必要不可欠でしたから」
「精神系の能力者? それがノアだって言うの?」
「ええ、間違えないでしょう。 まぁ勿論全て私の思い込みの可能性もありますがね。 先程の仕返しではありませんが……まぁここから先は本人に直接聞いた方が良いでしょう。 この男の、ノアの策の全てをね」
ユーノは僅かに口角を上げてノアを見つめる。
「まぁ、そうなるよな。 ユーノが話すより俺が話した方が説得力があるだろうからね」
同じセリフをノアがユーノに返す。
その言葉に私の気持ちは昂っていた。
ノアの種明かしとやらがようやく始まる事に。
「ユーノの言う通り俺の能力は精神系ってことになるかな」
「そう! やっぱりノアも特別な能力を持っていたのね! 一体どんな能力なの?」
ベル様が何処か嬉しそうにノアに尋ねる。
いつだったかベル様がノアも能力持ちだと言っていた事があった、その予想が当たった事が少し嬉しいのだろう。
「そんな大した能力じゃ無いさ。 他者の心の中を覗く、とびっきり下衆い能力だからね」
「た、他者の心の中を覗く??」
頭を傾けながらベル様が返す。
私もベル様と同じく頭を捻る、心の中を覗くと言うのは些か抽象的では無いだろうか?
心を覗く、それは思考を読むって事なのだろう? それとも他者の感情を読み取るのだろうか?
「んー、確かにちょっとわかりにくかったかもな。 勝手に答えるなら、思考も読むし感情も読み取れるよ」
「「え?」」
私とベル様は同じタイミングで声を上げた。
「二人とも同じ事を考えていたからな。 まとめて質問に答えさせてもらったよ」
「う、嘘よ! ノアは心の声が聞こえるって言うの?」
「あぁ、それが俺の能力だからね」
「信じられません! じゃあノア様はずっと私達の心の声を聞いていたと言うのですか?」
ベル様次いで私はノアに尋ねる。
もしノアの言っている事が本当なら私は今迄とんでもなく失礼な事をしてしまっている。
「そうなるな。 初めて会った日から俺はずっとベルとシャルの心を覗いていた、本当は最後まで自分の能力を明かすつもりは無かったんだけどな」
表情を曇らせ僅かに震えた声でノアは続ける。
「だって気持ち悪いだろ? こんな能力」
痛々しくも思える笑顔をノアは私達に向けた後、黙ってて悪かったと告げ頭を下げた。
他者の心の中を覗く能力、確かにこれがノアの能力なら今迄のノアの行動にも説明がつく。
あのリリィを見つけ出した事、ユーノが部下の四人にしか教えてなかった鍵を読みとった事、会談でテイミーが用意した偽物の私を見破った事。
その他にもあるこの二ヶ月間の全ての謎の答えが相手の思考を読み取った事によるものなのだと納得出来る。
そして同時にノアこの話をしたくなかった事も理解できた。
どんな制約があるかはわからないけど、ノア自身この力に悩んでた時期もあったのだろう。
いや、今なお苦しんでいるのかも知れない。 さっきのノアの表情は、あの笑顔は本当に辛そうなものだったから。
「……謝る必要はないわノア。 それに貴方もその能力で苦労して来たんでしょ? 確かに少し驚いたけど、ノアの能力のお陰で私達は今この場にいる事が出来ている。 だからそんな顔で謝る事はないわ、むしろ貴方は誇るべきなのだから。 ありがとうノア」
頭を下げるノアにベル様は優しく語りかけた。
ノアが能力を黙っていた事を責める訳でも、その力の使い方を蔑む訳でもなくただありがとうと感謝を述べる。
その言葉を直ぐに出せるベル様を私は尊敬する。
私はノアの事を少し気味悪く思ってしまったから。
そしてきっとその事もノアはもう知っているのだ、それはどんなに辛い事なのだろうかと私は想像する。
知らず知らずのうちに聞きたくもない自分に対する善意も悪意も言葉と言うフィルターを介さずに否応なしに伝えられる。
私がノアの立場だったらきっと耐えられない。
ノアがどうしてあんな森の奥で過ごしていたのか、その理由がようやくわかった。
今、感じているこの気持ちも全てノアには伝わっている、それでも私もノアには言わないといけない事がある、言葉にして言わないといけない大事な事が。
「ノア様、きっともう伝わっている事かも知れませんが私からも言わせてください。 私をこの場に連れて来てくれた事、ちる様の為に出来る事がまだあると言う事を教えて下さってありがとうございます。 そして本当に申し訳ありませんでした」
私は深々と頭を下げた。
私がノアをこの時代に呼んだせいで知らず知らずのうちにノアを深く傷付けていた、その事を私は謝らなくてはいけない。
「ありがとうベル、シャル。 俺を許してくれて」
頭を上げたノアは額に汗を流しながら小さく呟いた。
ノアが抱いていた恐怖や不安がその汗に滲んでいるように私には見えた。
「ま、まぁ私は何となくわかってたしね! ノアが何かしらの能力を持っているだろうと思って色々考えていたから想像の範囲内よ」
「……ベル様」
重くなった空気を払拭するように話すベル様だったが、その言葉が嘘である事はノアの力がない私にもわかる。
隣にいるノアに目を向けると案の定、笑いを堪えながらベル様から視線を外していた。
「と、とりあえずノアの能力はわかったわ。 それでユーノはどうしてノアのこの能力を必要だと判断したのかしら?」
「それも俺から説明するよ。 おそらくユーノと俺の考えている事は一緒だろうからね」
「そうなの? ユーノ?」
「ええ、おそらくは同じでしょう」
「そう、じゃあ早速教えてもらえるかしら?」
ベル様の言葉にノアは呼吸を整えて答えた。
「俺はちるを人間にしたいと考えている」
「……へっ?」
ノアの言葉に私は面食らう。
少し情けない声を上げていたベル様も気持ちは同じだろうと推測できた。
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