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迷い
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「クルトお兄様!」
馬の調整をしているお兄様を後ろから呼ぶと、お兄様は振り返って微笑んだ。
「エレナ様、お好きなものがあったようですね」
はっとして手に持った串焼き肉を見る。両手に2本ずつ。計4本。まあ普通に人数分なのだけど、こうして見ると私が1人で全部食べるみたい……。私そんなに大食いじゃないもん!
「これはお兄様の分です!」
串焼き肉1本と、クリスが持っていたおにぎりを一つ、押し付けるようにお兄様に渡すと、お兄様はふふ、と笑った。
「ありがとう、エレナ」
「……どうして笑うんですか」
何故だか少し恥ずかしくなって、そっぽを向いてそう言うと、お兄様はさらに笑った。
「エレナは変わらないね」
変わらない?そりゃそうだ。成長をすることはあっても変わることはない。だって私、エレナになった時にはもう高校生だったし。既に人格出来上がっていたし。
「まあ、わたくしはわたくしですからね」
よく意味が分からなくてそう言うと、お兄様は笑った。そしてお肉を食べる。
私も香ばしくて少し塩辛いお肉を噛み締める。あー、これこれ、この塩加減が堪らない。
「食べたら出発しましょうか。馬も交換できましたし」
クルトお兄様の視線の先には元気そうな四頭の馬。ブラン達は預けたのだろう。
これを食べたら出発……。
「そのことなんですが、ちょっと気になる話を聞いたんです」
クリスが横から入ってきて、先ほど聞いた話をクルトお兄様にする。クルトお兄様は私を見た。私はお肉をかじる。
「それで、どうするの?」
後ろからそう聞かれ、それと同時に持っていたお肉が取られた。まだ口をつけていない方のお肉。
「……そうですね」
振り返るとユリウス殿下がクリスにおにぎりをもらうところだった。私も空いた方の手でおにぎりを受け取る。
「とりあえず王都へ連絡をしましょう。幸いそう遠くはないので、夕方には誰かが来るでしょう。そしたら、」
「それって、私たちは戻らないってこと?」
私の言葉を遮ってクリスが言う。ズキリと胸が痛んだ。あえてはっきり言わなかったのに。
「あの村を見捨てるってこと?」
クリスが責めるように私を見る。私は視線を逸らさずにはいられなかった。三人の顔が見れない。
「だって、戻っていたら今日中に帰ることはできないわ。それどころか明後日になるかも……」
下を向いたまま、ごにょごにょと小さな声でそう言う。クリスが息を呑む気配がした。
分かってる。私たちが戻るのがベストだと。分かっている。だけど……!
「いいんじゃない?別に僕たちが行かないといけない理由もない。城に報告すればちゃんと対応してもらえる。何も問題はないよ」
「殿下、そういう問題ではないじゃないですか」
ユリウス殿下とクリスの言葉を聞いても私は何も言えなかった。
だって今帰らないとリリーに何があるか……。出産なんて何が起こってもおかしくない。しかもこの世界の医療技術はあっちの世界ほど進んでいないのだ。
何もないかもしれない。でも何かあったら?そんな時に頼ることができるのは、絶対を保証できるのは光魔法だけ。だからもしもの時のために私がそばにいないと……。
「エレナ!すぐに戻るよ!」
クリスに手を取られてもまだ私は動けなかった。
「どこの貴族か分かんないけど、夜の間何もなかったのは奇跡だよ。でも今もそうとは限らない。もしかしたら今頃被害が出てるかも」
「王都から西の街の貴族だよ。名前はラインハルト・フェルマー。伯爵の一人息子で、年齢は26歳」
突然のプロフィールに、私たちは揃ってユリウス殿下を見た。ユリウス殿下は気にせずに続ける。
「会ったことはないけど、話は聞いたことがある。人目のあるところでは驚くほどに無害。どころかどちらかと内気な性格だけど、裏では昔から色々なことをしていたみたいだよ」
「いつの間に、そんなこと……」
情報を集める時間なんて無かった。ついさっきまではその人があの宿にいることも知らなかったはずだ。そこまで知っていてユリウス殿下が放っておくわけないから。
「君達がこれを買っている間遊んでいたわけじゃない。色々な人から色々な話を聞いて、高確率でフェルマー家の息子だと思っただけだ。最初から知っていて隠していたわけじゃないよ」
「……ええ、そんなことは微塵も思っておりませんわ」
この人は正義の味方ではない。だけどいつだって私の味方なのだ。私が許せないことはユリウス殿下だって許さない。少し行動の基準が違うけど。
「そんな人を放っておくなんて殿下らしくないですね。この国にとってよくない人物じゃないんですか?」
クリスの問いにユリウス殿下は頷いた。
「放っておくつもりは最初からない。あちらの方に行くことがあればそのついでに始末するつもりだったよ」
言葉にこそしないが、その続きがあることを私は知っている。『エレナにバレないように』。
私が嫌うのは『命が軽んじられること』。誰かが傷付いたり、人の命が失われることは許せない。それが善人でも悪人でも。
対してユリウス殿下が嫌うのは『国の損失』。ユリウス殿下はただ、この国をよくすることだけを考えている。それは私も望むこと。違うのは命の重さだ。私とユリウス殿下の中で、それはきっと天と地ほどの差がある。殿下は誰かを殺して国が良くなるのであればそれでいいと思っている。そしてその『誰か』は善人も悪人も関係ない。数年前にもう誰も殺さないと約束をしたので、殺しはしないだろう。廃人にはなるかもしれないけど。
戻るか戻らないか。最終的な判断は私がすることになるだろう。三人の視線が私に向く。戻るべきなのは分かっている。それでも私は俯くことしかできなかった。
馬の調整をしているお兄様を後ろから呼ぶと、お兄様は振り返って微笑んだ。
「エレナ様、お好きなものがあったようですね」
はっとして手に持った串焼き肉を見る。両手に2本ずつ。計4本。まあ普通に人数分なのだけど、こうして見ると私が1人で全部食べるみたい……。私そんなに大食いじゃないもん!
「これはお兄様の分です!」
串焼き肉1本と、クリスが持っていたおにぎりを一つ、押し付けるようにお兄様に渡すと、お兄様はふふ、と笑った。
「ありがとう、エレナ」
「……どうして笑うんですか」
何故だか少し恥ずかしくなって、そっぽを向いてそう言うと、お兄様はさらに笑った。
「エレナは変わらないね」
変わらない?そりゃそうだ。成長をすることはあっても変わることはない。だって私、エレナになった時にはもう高校生だったし。既に人格出来上がっていたし。
「まあ、わたくしはわたくしですからね」
よく意味が分からなくてそう言うと、お兄様は笑った。そしてお肉を食べる。
私も香ばしくて少し塩辛いお肉を噛み締める。あー、これこれ、この塩加減が堪らない。
「食べたら出発しましょうか。馬も交換できましたし」
クルトお兄様の視線の先には元気そうな四頭の馬。ブラン達は預けたのだろう。
これを食べたら出発……。
「そのことなんですが、ちょっと気になる話を聞いたんです」
クリスが横から入ってきて、先ほど聞いた話をクルトお兄様にする。クルトお兄様は私を見た。私はお肉をかじる。
「それで、どうするの?」
後ろからそう聞かれ、それと同時に持っていたお肉が取られた。まだ口をつけていない方のお肉。
「……そうですね」
振り返るとユリウス殿下がクリスにおにぎりをもらうところだった。私も空いた方の手でおにぎりを受け取る。
「とりあえず王都へ連絡をしましょう。幸いそう遠くはないので、夕方には誰かが来るでしょう。そしたら、」
「それって、私たちは戻らないってこと?」
私の言葉を遮ってクリスが言う。ズキリと胸が痛んだ。あえてはっきり言わなかったのに。
「あの村を見捨てるってこと?」
クリスが責めるように私を見る。私は視線を逸らさずにはいられなかった。三人の顔が見れない。
「だって、戻っていたら今日中に帰ることはできないわ。それどころか明後日になるかも……」
下を向いたまま、ごにょごにょと小さな声でそう言う。クリスが息を呑む気配がした。
分かってる。私たちが戻るのがベストだと。分かっている。だけど……!
「いいんじゃない?別に僕たちが行かないといけない理由もない。城に報告すればちゃんと対応してもらえる。何も問題はないよ」
「殿下、そういう問題ではないじゃないですか」
ユリウス殿下とクリスの言葉を聞いても私は何も言えなかった。
だって今帰らないとリリーに何があるか……。出産なんて何が起こってもおかしくない。しかもこの世界の医療技術はあっちの世界ほど進んでいないのだ。
何もないかもしれない。でも何かあったら?そんな時に頼ることができるのは、絶対を保証できるのは光魔法だけ。だからもしもの時のために私がそばにいないと……。
「エレナ!すぐに戻るよ!」
クリスに手を取られてもまだ私は動けなかった。
「どこの貴族か分かんないけど、夜の間何もなかったのは奇跡だよ。でも今もそうとは限らない。もしかしたら今頃被害が出てるかも」
「王都から西の街の貴族だよ。名前はラインハルト・フェルマー。伯爵の一人息子で、年齢は26歳」
突然のプロフィールに、私たちは揃ってユリウス殿下を見た。ユリウス殿下は気にせずに続ける。
「会ったことはないけど、話は聞いたことがある。人目のあるところでは驚くほどに無害。どころかどちらかと内気な性格だけど、裏では昔から色々なことをしていたみたいだよ」
「いつの間に、そんなこと……」
情報を集める時間なんて無かった。ついさっきまではその人があの宿にいることも知らなかったはずだ。そこまで知っていてユリウス殿下が放っておくわけないから。
「君達がこれを買っている間遊んでいたわけじゃない。色々な人から色々な話を聞いて、高確率でフェルマー家の息子だと思っただけだ。最初から知っていて隠していたわけじゃないよ」
「……ええ、そんなことは微塵も思っておりませんわ」
この人は正義の味方ではない。だけどいつだって私の味方なのだ。私が許せないことはユリウス殿下だって許さない。少し行動の基準が違うけど。
「そんな人を放っておくなんて殿下らしくないですね。この国にとってよくない人物じゃないんですか?」
クリスの問いにユリウス殿下は頷いた。
「放っておくつもりは最初からない。あちらの方に行くことがあればそのついでに始末するつもりだったよ」
言葉にこそしないが、その続きがあることを私は知っている。『エレナにバレないように』。
私が嫌うのは『命が軽んじられること』。誰かが傷付いたり、人の命が失われることは許せない。それが善人でも悪人でも。
対してユリウス殿下が嫌うのは『国の損失』。ユリウス殿下はただ、この国をよくすることだけを考えている。それは私も望むこと。違うのは命の重さだ。私とユリウス殿下の中で、それはきっと天と地ほどの差がある。殿下は誰かを殺して国が良くなるのであればそれでいいと思っている。そしてその『誰か』は善人も悪人も関係ない。数年前にもう誰も殺さないと約束をしたので、殺しはしないだろう。廃人にはなるかもしれないけど。
戻るか戻らないか。最終的な判断は私がすることになるだろう。三人の視線が私に向く。戻るべきなのは分かっている。それでも私は俯くことしかできなかった。
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