ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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帰還

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自分の気持ちに気付いたからと言って、「私はあなたのことが好きなので他の女の人と話さないでください」なんて言えるわけがない。

というか、他の女の人と話していることが嫌なんじゃなく、私のことは避けてるのに、他の人と楽しそうに話しているのが嫌。

……だとしても今更「好きです」なんて言えない。

まあいいわ。それに気がついただけでも一歩前進。

って、そんなことを言っている場合じゃない。それが原因で魔法が使えないのなら解決するしかないのだ。

……とりあえず後回し。クリスのことが先だ。何も連絡がない。いい知らせも悪い知らせも。魔法の一つや二つ飛ばしてくれるかと思っていたんだけど。


コンコンと扉が叩かれる。

ああ、アリアか。呼ぶのをすっかり忘れていた。


「どうぞ」


私の声に応えて扉が開く。顔を出したのはアリアではなかった。


「帰ったよ、エレナ」


……え?は?


「クリス……!」


一瞬理解ができなかった。だっていきなりだったから。驚きと嬉しさで抱きつくと、クリスは「ごめんね」と背中を撫でてくれた。

どばっと涙が溢れる。


「ごめん、ごめんなさい。置いて行って、ごめんなさい……!」

「エレナが謝らないでよ。心配かけちゃったね、無事だよ」


少し離れてクリスを眺める。確かにスカートが汚れたり少し破れたりはしてるけど、怪我はなさそうだし、乱暴された形跡もない。

はー、と息をついて床に座り込んだ。安心して力が抜けた。


「よかった、本当によかった……!」

「何回も『無事だよ、心配しないでね』って魔法飛ばしたんだけど、届いてなかったみたいだね。寝不足な顔してる」


そんなの来てない。あれは魔法を使えない相手にでも届くはず。つまり、私の言うことを聞かない魔力がブロックしていたと考えるのが一番あり得そうだ。


「一睡もできなかったわ」


そう言って笑うと、クリスも笑った。

開いたままの扉からヘンドリックお兄様が入ってきた。涼しい顔で汚れひとつついていない。

続いてヨハンとクルトお兄様も。


「皆さま、ご無事なようですね。よかったです」

「久しぶりだね、エレナちゃん。おかえり」


ヨハンが微笑む。相変わらずの美形パワーだ。

あー、この世界には男も女も美人しかいないのか。そう考えるとエレナって本当にモブだったんだな。


「お久しぶりです、ヨハン様。面倒ごとと共に帰って参りました。申し訳ありません」


ヘンドリックお兄様に言われた嫌味を口に出すと、ヨハンは「エレナちゃんとクリスらしいよ」と笑った。

ん?それどう言う意味?

すこし引っかかったが気にしない。お兄様と違い、ヨハンの言葉は嫌味じゃないだろうから。事実だし。


「クルトお兄様も、ずっと移動でお疲れでしょう?本日はもう大丈夫ですので、おうちに帰って休んでくださいませ」

「いや、こんな時にエレナのそばを離れるわけには……」


こんな時、と言うのは私の魔法が使えない時、というのか、ほぼ護衛のような存在のユリウス殿下がそばにいない時、というのか。

どちらにしてもその二つの解決は同時だろう。


「大丈夫です。わたくしが魔法が使えないことは限られた人しか知りません。お城から出るつもりもありません。ですから、休んでください」


これでクルトお兄様に倒れられたら私は本当に申し訳ないから。

クルトお兄様は小さく頷いた。


「では何かあったらすぐに呼んでください、エレナ様」

「ええ、約束しましょう」


私がそう言うと、クルトお兄様は頭を下げて歩いていった。疲れていることも、眠いことも見るだけで分かった。

だってクルトお兄様は魔法が使えず、本当に自分の身一つで戦っているのだから。私と一緒に帰ってきて、すぐにとんぼ返り。疲れないわけがない。


「とりあえず陛下のところへ行こうか。無事なことは伝えているけど心配されてられるだろうから」


あ、私も陛下に帰ってから顔を見せてない。挨拶をしておかないと。


四人で陛下の執務室へ行くと、宰相であるお父様もいた。まだ朝早いというのに働き者だ。


「エレナ、クリス、帰還いたしました」


膝をついて挨拶をすると、陛下はすぐに立つように言った。いくつかねぎらいの言葉があり、私たちの無事を喜ぶ言葉があり、そして最後に聞かれた。


「昨日の朝帰ってきたユリウスの機嫌がすこぶる悪かったが、エレナ、そなた心当たりはあるか?」


そう聞きながら、陛下は原因が私にあると確信しているのだろう。そんなこと言われたって……。

私は苦笑いを浮かべるしかできなかった。


「なきにしもあらず、と言ったところでしょうか」


陛下はふっと笑った。


「機嫌の悪いユリウスは散々見てきたが、あそこまでというのは中々ない。そなたには悪いが、早めになんとかしてもらえると助かる」


それは私だってそう。


「……できるものならしておりますわ。お約束はできかねます」


私の生意気な言葉に陛下は「それもそうだ」と笑った。


「しかし、そなたが目を潤ませて謝ればユリウスの機嫌は治るのではないか?」


いや、まあ、それはそうかもしれない。試してみる価値はありそうだ。だが、


「あいにく、わたくしはそう器用ではありませんで」

「確かにな」

「もしなにかありましたら、お力添えお願いいたしますね、お義父様?」


陛下の後ろで、お父様がむせた。あ、やば、後で怒られるかも。

しかし陛下は笑う。


「そなた、ユリウスに似てきたな」

「ええ、ずっと一緒におりましたので」


笑顔でそう言うと、陛下は「そっちの方がよい」と言った。どうやら少し気に入ったらしい。今までは少し距離を取りすぎていたのかもしれないなと思った。

……陛下の後ろから睨んでくる実の父はとりあえず気付かないふりをしておいた。
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