ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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帰省

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馬車が止まる。はやる気持ちを抑えてゆっくりと降りると、目の前には懐かしい我が家があった。

変わっていない。六年前と同じまま。

玄関の前にはお義母様と、妹のカミラ、そしてその夫のマクシミリアンも揃って出迎えてくれた。使用人も皆そこにいる。

お義母様は本当の母ではない。私の本当の母は亡くなっていて、私は知らない。そしてカミラも、母親の違う妹だ。それでも私はお義母様とも、カミラともとても仲が良かった。

馬車を降りた私に、皆が一様に頭を下げる。そして頭を上げたお義母様はとても上品な微笑みを浮かべていた。私が帰ったことを喜んでくれているようだ。


「ただいま戻りました、お義母様」


本来なら皇室へ嫁いだ私はこうして実家に帰ることはしてはならないらしい。だけど、お義母様には会いたいし、お城へ呼びつけるようなこともしたくなかった。


「おかえりなさい、エレナ」


嬉しかった。こうして名前を呼んでくれたのが。今までと変わらない態度が。

ユリウス殿下と結婚して、たくさんの人がその表情を垂れた頭に隠した。それは学生時代に仲の良かった子だったり、お世話になった人だったり。「エレナ」から「エレナ様」になり、素直な笑顔は見れなくなった。本心は見えなくなった。

ここへ帰って来てそういう態度を取られるとかなり凹んでいただろう。正直、かなり緊張していた。


「おかえりなさいませ、お姉さま」


続いてカミラが笑った。花が開くような、とても可愛らしい笑顔だった。これだ、これが見たかった。以前と変わらない家族と会いたかった。涙が出そうだった。ぐっと堪えて笑った私の顔は少し変だったかもしれない。



「まあ!本当にマクシミリアン様が婿入りされたのですか!」


カップから口を離し、私は驚きに声を上げた。

婚約を結んでいた2人が結婚をした知らせは旅先で受け取っていた。マクシミリアンが婿入りするつもりだっていうのも前から聞いていた。でも本当にそうなるとは思わなかった。

侯爵家の次男であるマクシミリアンが伯爵家のうちに婿入りということは、身分が下がったと言うことだ。よく許しが出たなと思う。

私の考えを読んだようにマクシミリアンは言った。


「うちには、兄もその子供もいるからね」


ああ、そうなんだ。とはならない。だからって息子を婿に出すなんて信じれない。

なんと言っていいのか迷っていると、マクシミリアンはカミラへ視線を向ける、そして私を見て笑った。


「僕が言ったんだよ。義父上のご実家には跡取りがいないんだろう?」


カミラも頷く。


「マクシミリアン様が跡を継いでくださるそうです」


お父様の弟であるフィリップ叔父様が今は本家の当主。しかし結婚もしておらず子供といない今、本家は跡取りがいない。


「……小耳に挟んではおりましたが」


兄が2人いるのだ。1人はお父様の跡を、1人がフィリップ叔父様の跡を継げはいいのに、と思っていた。


「ええ、わたくしもそう思っておりましたが、どうも上のお兄様にそのようなおつもりがないようですので」


はは、と乾いた笑いがこぼれた。なるほど、ヘンドリックお兄様らしい。どうせ今だって魔法省に引きこもって研究三昧の日々だろう。今後もそのつもりなのか。

ということはこの家はクルトお兄様が?お兄様の婚約者のエミリア様は確か、明るくてハキハキした方だったはず。お義母様とうまくいくかはちょっと不安だが、悪いことにはならないだろう。


「そんなわけで僕たちは義姉弟となったんだ、もう様はいらないよ。マクシミリアンと呼んでくれるかな、お義姉さん?」


思わず笑ってしまった。確かにその通りだ。


「ええ、そうですね。改めてよろしくお願いします、マクシミリアン」


もう十年以上「マクシミリアン様」と呼んでいたのだ。呼び捨てにするのはとてもむず痒い。

2人が嬉しそうに笑う。まあ嬉しいならいいけどね。

少しの間3人で話をして、もうお城に帰る時間になってしまった。


「わたくしもう帰らないといけません。お義母様へ挨拶をして戻りますわ」


マクシミリアンとはお城でも合うだろうが、次にカミラに会えるのはいつになるだろうか。他の貴族の目もあるので、そう簡単に何度もここへ帰って来るわけにはいかない。

ああ、来月のパーティーの時には会えるか。カミラは少し寂しそうに、だけど笑った。


「お姉さまとお話ができてとても嬉しかったです。ありがとうございました」

「それはわたくしの方よ。二人とも忙しいのに時間をとってくれてありがとう」


そして私はお義母様へ挨拶をし、家を後にした。馬車に乗り込んで深く息を吐く。

楽しかった。楽しかったけど疲れた。お義母様は私に礼儀作法を教えてくれた人だ。最近の私は怒られるようなことしかしていない。

言葉遣いも仕草も、行動も。お義母様を前にしたらすごく緊張した。

ああ、しまったな。来月のパーティーに向けて、もう一度礼儀作法を叩き込んでもらうべきだっただろうか。いや、やめておこう。お義母様は厳しすぎる。

アリアが「お疲れですか?」と聞いてくる。うん、まあお疲れではある。だけど、


「楽しかったわ。とても」

「それは良かったです」


アリアが微笑んだ。

そうだ、私聞きたいことあったんだ」


「ねえ、アリア。クルトお兄様が結婚なさらないのは、やっぱりわたくしのせいよね」


クルトお兄様もその婚約者のエミリア様ももうすでに24歳。結婚どころか、子供が数人いてもおかしくない年齢である。

それなのに私が連れ回したせいで一緒にいることもできず、結婚もできなかったのだろう。

アリアは「そうですね」と頷く。

ですよね……ああ、エミリア様にとても申し訳ない。


「ですが、エレナ様について行くとおっしゃったのはクルト様です。もちろん、エミリア様ともお話をされた上で決定されたのではないかと、私は思いますよ」

「……そう、そうかもしれないわね」


確かに。そう言われたらそうかもしれない。別に私はついて来てなんて頼んでないし。いや、もちろん、クルトお兄様が一緒にいてくれたおかげですごく助かったけどね。


「一、二ヶ月くらいでまた出発しようかと思っていたけれど、もう少し長めにここにいようかしらね」


少なくともクルトお兄様が結婚するまでは。ああ、それからクリスとヘンドリックお兄様もそろそろ結婚しておかないといけないだろうな。

クリスが実は男だったと言っても、世間的には女だ。ヘンドリックお兄様はもう27歳。そろそろ結婚しないと2人の仲が怪しまれるだろう。

アリアは微笑む。


「ええ、それがよろしいかと」


とても嬉しそうに見えた。
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