ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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忘れていた特訓

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私の魔法は数日後に戻った。ユリウス殿下の言う通り、魔力の不安定な時期は終わったのだろう。

それでも私は、意図的に魔力や魔法を使わない生活を続けていた。魔法も魔力による身体強化もなしで騎士団の訓練にも毎日参加している。

そもそも今までが魔法に頼り過ぎていたのかもしれない。それに気を抜けば魔法を使ってしまう私。ちょうどいい特訓にもなる。

ユリウス殿下はというと、毎日毎日訓練場の端に立って、そんな私たちを眺めている。何が面白いのだろうか。

しかしそんな毎日のおかげで体力も筋肉もかなりついてきた。油断してついていた贅肉が削ぎ落とされたようだ。2週間後のパーティーで恥をかくことはなさそうで安心。

……2週間後のパーティー?


「……ねえ、クリス。今度のパーティーはクリスもヘンドリックお兄様と一緒に出るのよね?」

「うん、そのつもりだけど?」


私はとても重大なことを忘れていた。


「どうしたの?ドレスは殿下が手配してたよ?」


うん、知ってる。ドレスの心配はしてない。殿下のことだからサイズもちゃんと引き締まった今の体型を想定してオーダーしてあるだろう。


「……クリス、踊れる?」


クリスが口を閉じてパチパチと瞬きをする。

最後のパーティーは学園の卒業パーティー。その前にダンスの練習をしたのが最後だ。それ以来旅に出ていて貴族の世界にいなかった私たちはダンスなど一度も踊っていない。

そっと視線がそらされる。

……ですよね。お仲間がいて少し安心。だからといって状況がよくなるわけではないけど。


「どうしましょう、すっかり忘れていたわ」

「……いいんじゃない?ダンスなんて踊らなくても別に」

「クリスはそうかもしれないけど、わたくしはそうはいかないのよ」


私だって一応皇族。曲が始まれば皆よりも先に踊らなければならない。そういう決まりだから。

にっこりと笑顔を浮かべてクリスの肩をガシッと掴む。悪いけど逃がすつもりはないよ。


「クリス、一緒に特訓しましょう」



というわけで、私は真っ先にある人を訪ねた。ダンスのことで頼るなら一人しかいない。


「グレーテ様」


そう呼びかけるとグレーテ様は、私の顔を見て、そして驚きと焦りの表情を浮かべた。


「エ、エレナ様……!グレーテとお呼びくださいませ」


あ、そっか。今はもう私の方が身分が高いんだよね。

グレーテは私がまだ学校に入る前、十歳にもならない頃に、私にダンスを教えてくれた人だ。お城の抱えている教師の一人で、ダンスに関してはこの国一の実力を持っているらしい。

つい以前のように呼んでしまったが、今の私が様をつけて呼ぶのはグレーテには迷惑な話だろう。


「ごめんなさい、グレーテ。ついあの頃のように呼んでしまいました。……お久しぶりです」


もう十三、四年が経つ。当時三十代だったグレーテももう五十歳近いのではないだろうが。……それは余計なお世話だな。

グレーテは私の言葉に柔らかな笑みを浮かべた。


「ええ、お久しぶりです、エレナ様。エレナ様が殿下と結婚されたとお聞きして、もう一度お会いできることをとても楽しみにしておりました」


私がただの伯爵令嬢だった時からとても優しくしてくれた。ダンスはもちろん、色々なことを教えてもらったし、色々な話もした。

私も会いたかった。会えて嬉しい。

笑顔を浮かべてグレーテを見る。グレーテは言葉通り、とても嬉しそうだ。迷惑じゃなさそうでよかった。


「グレーテ、突然のことで申し訳ないのですが、わたくしとクリスにもう一度ダンスを教えてくださらないかしら?」

「ええ、喜んで」


ああ、よかった。最高の教師を手に入れた。


「ありがとうございます。2週間後のパーティーに間に合わせたいのだけど……」


隣でクリスがとても嫌そうなオーラを放っている。今更ダンスの練習などしたくないのだろう。まあとは言っても一度習ったことを思い出すだけ。そう難しいことではないだろう。

今は時間がないことが一番の問題だ。


「多少スパルタになっても構いません。叩き込んでくださいませ」


そう言うと、グレーテは「お任せください」と微笑んだ。



しかしグレーテは優しかった。とても丁寧で、全くと言っていいほど覚えていない私たちに苛立ちをカケラも見せることなく教えてくれた。

褒めて伸ばすタイプの指導。気分の良くなった私たちはグングン上達し、そして本当にパーティーに間に合わせることができたのだ。

この国一というのは本当だったのだ。


「ありがとうございました。グレーテのおかげで明日のパーティーでは恥をかかずにすみそうですわ」

「いいえ、お二人の努力の結果ですわ。最後に新しくお教えしたステップはとても難しいものですが、お二人のお相手でしたら一緒に踊ることもできるでしょう。どうぞ、楽しんで踊ってきてくださいませ」


待て待て待て、その言い方だとあのステップは出来ない人が多いみたいじゃないか。かなり頑張って覚えたステップなのに、知らなくてもいいの!?

あああ、頑張って損した……。

いや、違う。せっかく教えてくれたし、せっかく覚えたんだ。損なんてことはない!グレーテの言った通り、楽しんで踊ろう!


「時間を空けたらまた忘れてしまうかもしれませんが、その時も、もう一度教えてくださいますか?」


また旅に出たら忘れるかもしれない。できるだけ頑張って覚えておこうとは思ってあるけど。


「ええ、もちろんです。何度でも」


ああ、グレーテめっちゃ優しい……。グレーテに教えてもらったダンス。明日のパーティー頑張るぞ!
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