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私のドレス
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部屋へ戻ると、大きな箱が置いてあった。アリアがすぐに「ドレスが届きました」と私を見る。
明日のパーティーで着るドレス。手配したのはユリウス殿下で、私はじっとしてサイズを測られただけ。
だからデザインも色も知らない。
「エレナ、開けてみようよ」
「ええ」
本当ならユリウス殿下に先にお礼を言うべきなんだろうけど、騎士団の訓練中には遠くから眺めていたのを確認した。でもそれを最後に姿を見ていない。終わった頃にはいなくなっていたので、どこかへ出掛けているのだろう。まあいい、そんなことで怒るような人ではない。
大きな箱の蓋をクリスが持ち上げる。中に見えたのは赤だった。ピンクでもなく、ワインレッドでもなく、真っ赤。
……はい?これ?間違えてない?
クリスもきょとんとしている。あまりにも予想外の色に、言葉が出なかった。
え、これ、私が着るの?この真っ赤なドレスを?
「……ユリウス殿下、間違えたのかしら?」
「あの完璧な殿下に限ってそれはないでしょ」
クリスがそう言いながらドレスを持ち上げる。ばさりと広がったフリルがたくさんついたスカートはまるで大輪の薔薇だ。
うん、無理。
「……クリス、すぐに出立しましょう」
くるりと後ろを向いた私の肩をクリスがガシリと掴んだ。
「現実逃避はよくないよ」
じゃあどうしろって言うの!?
「こんな派手なドレス着れるわけがないでしょう!これが似合うのはベアトリクス様くらいよ!わたくしには無理!どうしてもパーティーに出ろと言うのならクリスがこれを着てちょうだい」
そうだ、それがいい。私が着たらドレスを着る、というよりドレスに着られるだろう。クリスだったら大丈夫。可愛いから。
「そんなことできるわけないじゃん!私殿下に殺されるよ!?大体私のドレスはヘンドリック様が用意してくれてるし。大丈夫、殿下が選んだんだから!きっとエレナに似合うから!」
ワーワーキャイキャイとクリスと言い合うその横でアリアは深い考えごとをしているようだった。そして落ち着いた声で言った。
「私はエレナ様にとても似合うと思います」
アリアまでそんなことを……!無理だって、笑いものになるだけだって。
「エレナ様が普段好んで着用されるようなデザインや色ではありませんが、このドレスはエレナ様にとてもお似合いだと思われます」
「そうだよ、エレナのために作られたドレスなんだから。似合わないわけがないよ!」
そんなわけないじゃん。
「大丈夫、エレナ。殿下とアリアを信じて」
「ドレスに合わせてお化粧しましょう。絶対に似合います。ご安心くださいませ」
「……本当に?」
これを着ている自分が全く想像できない。似合う未来が全く見えない。しかし着ないわけにはいかなかった。
深いため息を一つ。
……もうユリウス殿下だけにドレスの準備は任せない。
そう決心した。
翌日、ふっと目が覚めた私が一番に目にしたのはユリウス殿下だった。整ったとても綺麗な顔。
まだ寝ぼけている私を見て殿下は柔らかな笑みを浮かべた。
「おはよう」
「……おはよう、ございます」
眠い。まだ半分寝ている。しかし頭は色々と考えていた。
魔法は戻ったのだからもう一緒に寝てくれなくてもいい、とか、今日の予定はどうなるのか、とか、訓練の時に殿下と本気で手合わせしてみたい、とか。
そんないろいろが頭をよぎっていく中で、口に出たのは昨日から気になっていたことだった。
「どれす……」
「うん?ドレスがどうかした?」
「ドレス、高かったでしょう?」
言葉を選ぶほど目は覚めていなかった。
「公金から出るのでしょう?生地もデザインも安いものでよかったのに……」
ユリウス殿下はくすくすと可笑そうに笑った。眠くて目を閉じる。このままもう一度寝てしまいたい。
「君はそう言うと思っていたよ」
柔らかくて少し低い声が心地いい。深く息を吐くと同時に体が重くなっていく。
「大丈夫だよ、僕のお金から出したから。僕があのドレスを着ている君を見たかったんだ」
ああ、そう、殿下が見たくて……。
そのまま私は再び眠りについた。
次に目を覚ました時も殿下はまだそこにいた。手に持っている何かを眺めている。よく見ると私の携帯だった。角度を変えてじっくりと見ていた。
今度は先ほどとは違い、ちゃんと起きていた。
「おはようございます」
「うん、おはよう」
二度目の挨拶をする。殿下は私に視線を向けず、携帯を眺めている。
「先程はすみませんでした。寝ぼけていました」
ああいう時の不思議。寝ぼけている自覚がなく、むしろ頭の中はすっきりしている気がした。
贈ってもらったドレスの値段のことを口にするのはとても失礼だった。お金の出どころがどこでも、殿下が私のことを考えて選んでくれたのは確かなのに。
殿下は「うん」と私の謝罪を受け止めた。
沈黙。まだ起き上がる気になれなくて、横になったまま座っている殿下を見上げる。
「今日はゆっくりだね。訓練はいいのかい?」
「……今日はお休みの日にします」
たまにはサボってもいいだろう。ああ、クリスは行っているかな。後で文句を言われるかもしれない。
「それ、面白いですか?」
その質問でようやく殿下が私を見た。確か小物入れに入れていたはず。出してきたのだろうか。もしかするとずっと気になっていたのかもしれない。
「これは何?」
何と聞かれても私はそんなによく知らない。
「携帯電話です。以前お話ししたインターネットを見たり、遠くにいる人と話をしたりすることができます」
原理なんかは知らない。これをこの世界で再現しろと言われてもできない。
「わたくしがあの日話していたのは、今は異世界で私として生きている本物のエレナです。一年に一度、あの日だけ、エレナ相手に使えるようです」
私の知っていることなんてその程度。殿下はふーん、と携帯を私に渡した。
「ずいぶん便利な世界だったんだね」
便利?まあそういう点では便利だったかもしれない。だけど、
「便利というのでしたらこの世界も負けていません。あちらの世界には魔法は存在しませんから」
「ああ、そういえばそう言っていたね」
手の中の携帯を魔法で浮かし、小物入れにしまう。こんなこともあっちの世界ではできない。
どうやら殿下はこれ以上の説明を求めないらしい。それは助かる。知らないことを聞かれたって何も言えないし。
私は控えめに伸びをして起き上がった。
明日のパーティーで着るドレス。手配したのはユリウス殿下で、私はじっとしてサイズを測られただけ。
だからデザインも色も知らない。
「エレナ、開けてみようよ」
「ええ」
本当ならユリウス殿下に先にお礼を言うべきなんだろうけど、騎士団の訓練中には遠くから眺めていたのを確認した。でもそれを最後に姿を見ていない。終わった頃にはいなくなっていたので、どこかへ出掛けているのだろう。まあいい、そんなことで怒るような人ではない。
大きな箱の蓋をクリスが持ち上げる。中に見えたのは赤だった。ピンクでもなく、ワインレッドでもなく、真っ赤。
……はい?これ?間違えてない?
クリスもきょとんとしている。あまりにも予想外の色に、言葉が出なかった。
え、これ、私が着るの?この真っ赤なドレスを?
「……ユリウス殿下、間違えたのかしら?」
「あの完璧な殿下に限ってそれはないでしょ」
クリスがそう言いながらドレスを持ち上げる。ばさりと広がったフリルがたくさんついたスカートはまるで大輪の薔薇だ。
うん、無理。
「……クリス、すぐに出立しましょう」
くるりと後ろを向いた私の肩をクリスがガシリと掴んだ。
「現実逃避はよくないよ」
じゃあどうしろって言うの!?
「こんな派手なドレス着れるわけがないでしょう!これが似合うのはベアトリクス様くらいよ!わたくしには無理!どうしてもパーティーに出ろと言うのならクリスがこれを着てちょうだい」
そうだ、それがいい。私が着たらドレスを着る、というよりドレスに着られるだろう。クリスだったら大丈夫。可愛いから。
「そんなことできるわけないじゃん!私殿下に殺されるよ!?大体私のドレスはヘンドリック様が用意してくれてるし。大丈夫、殿下が選んだんだから!きっとエレナに似合うから!」
ワーワーキャイキャイとクリスと言い合うその横でアリアは深い考えごとをしているようだった。そして落ち着いた声で言った。
「私はエレナ様にとても似合うと思います」
アリアまでそんなことを……!無理だって、笑いものになるだけだって。
「エレナ様が普段好んで着用されるようなデザインや色ではありませんが、このドレスはエレナ様にとてもお似合いだと思われます」
「そうだよ、エレナのために作られたドレスなんだから。似合わないわけがないよ!」
そんなわけないじゃん。
「大丈夫、エレナ。殿下とアリアを信じて」
「ドレスに合わせてお化粧しましょう。絶対に似合います。ご安心くださいませ」
「……本当に?」
これを着ている自分が全く想像できない。似合う未来が全く見えない。しかし着ないわけにはいかなかった。
深いため息を一つ。
……もうユリウス殿下だけにドレスの準備は任せない。
そう決心した。
翌日、ふっと目が覚めた私が一番に目にしたのはユリウス殿下だった。整ったとても綺麗な顔。
まだ寝ぼけている私を見て殿下は柔らかな笑みを浮かべた。
「おはよう」
「……おはよう、ございます」
眠い。まだ半分寝ている。しかし頭は色々と考えていた。
魔法は戻ったのだからもう一緒に寝てくれなくてもいい、とか、今日の予定はどうなるのか、とか、訓練の時に殿下と本気で手合わせしてみたい、とか。
そんないろいろが頭をよぎっていく中で、口に出たのは昨日から気になっていたことだった。
「どれす……」
「うん?ドレスがどうかした?」
「ドレス、高かったでしょう?」
言葉を選ぶほど目は覚めていなかった。
「公金から出るのでしょう?生地もデザインも安いものでよかったのに……」
ユリウス殿下はくすくすと可笑そうに笑った。眠くて目を閉じる。このままもう一度寝てしまいたい。
「君はそう言うと思っていたよ」
柔らかくて少し低い声が心地いい。深く息を吐くと同時に体が重くなっていく。
「大丈夫だよ、僕のお金から出したから。僕があのドレスを着ている君を見たかったんだ」
ああ、そう、殿下が見たくて……。
そのまま私は再び眠りについた。
次に目を覚ました時も殿下はまだそこにいた。手に持っている何かを眺めている。よく見ると私の携帯だった。角度を変えてじっくりと見ていた。
今度は先ほどとは違い、ちゃんと起きていた。
「おはようございます」
「うん、おはよう」
二度目の挨拶をする。殿下は私に視線を向けず、携帯を眺めている。
「先程はすみませんでした。寝ぼけていました」
ああいう時の不思議。寝ぼけている自覚がなく、むしろ頭の中はすっきりしている気がした。
贈ってもらったドレスの値段のことを口にするのはとても失礼だった。お金の出どころがどこでも、殿下が私のことを考えて選んでくれたのは確かなのに。
殿下は「うん」と私の謝罪を受け止めた。
沈黙。まだ起き上がる気になれなくて、横になったまま座っている殿下を見上げる。
「今日はゆっくりだね。訓練はいいのかい?」
「……今日はお休みの日にします」
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「それ、面白いですか?」
その質問でようやく殿下が私を見た。確か小物入れに入れていたはず。出してきたのだろうか。もしかするとずっと気になっていたのかもしれない。
「これは何?」
何と聞かれても私はそんなによく知らない。
「携帯電話です。以前お話ししたインターネットを見たり、遠くにいる人と話をしたりすることができます」
原理なんかは知らない。これをこの世界で再現しろと言われてもできない。
「わたくしがあの日話していたのは、今は異世界で私として生きている本物のエレナです。一年に一度、あの日だけ、エレナ相手に使えるようです」
私の知っていることなんてその程度。殿下はふーん、と携帯を私に渡した。
「ずいぶん便利な世界だったんだね」
便利?まあそういう点では便利だったかもしれない。だけど、
「便利というのでしたらこの世界も負けていません。あちらの世界には魔法は存在しませんから」
「ああ、そういえばそう言っていたね」
手の中の携帯を魔法で浮かし、小物入れにしまう。こんなこともあっちの世界ではできない。
どうやら殿下はこれ以上の説明を求めないらしい。それは助かる。知らないことを聞かれたって何も言えないし。
私は控えめに伸びをして起き上がった。
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