ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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ダンスの誘い

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飲み物をチビチビ飲み、たまに食べ、クリスやベアトリクス、カミラと話をする。そんなふうに過ごしていたら、音楽が鳴り始めた。


「あ、ダンスの時間だね」


クリスが私を見る。確かに踊らないといけない。だけどユリウス殿下はまだいないのだ。さっきから向こうのほうにたまに見えるので会場にはいるみたいだけど……。

周りの人たちがチラチラと見て来る。ずっと近くに殿下がいないことを気にするような声も聞こえている。それがダンスが始まっても戻ってこないとなれば、誰だって気になるだろう。

会場の真ん中が空いて、カイとリリーが踊り出すのが見えた。


「わたくしはどうすればいいのかしらね」


ため息が出た。確かに適当に過ごしてもらっていいと言われた。冷たい態度をとるかもしれないとも言われた。しかし側にいないなど言われていない。

どうするもなにも、相手がいないとダンスはできないか。結構頑張って練習したんだけどな……。

クリスが何か言おうと口を開いたが、結局言葉にならずに、視線を逸らした。別に気を遣ってもらなくてもいいんだけど。

誰もが私の方を気にしたまま、身分の高い順に踊り始める。しかしベアトリクスは相変わらず私の隣にいる。


「ベアトリクス、わたくしのことは気にせず、どうぞ踊って来てちょうだい」


レオンはすぐそこにいるのだ。私に付き合ってここに立っている必要はない。しかしベアトリクスは何も言わず、動きもしなかった。

私に対しての義理を通したいのだろうか。頑固な性格だ。この感じではずっとここにいるだろう。


「……わたくしはエレナ様の相談役。主人をおいて自分だけ踊りに行くなんてできないわ」


立場的にはそうなのかもしれないけど、あまり気にしてもらいたくはないんだけどな。

なんて考えていると、一人の男性が私の前に立った。そして跪く。驚きに一歩下がってしまうが、その人は気にしない。


「不躾なことなことは重々承知で申します。私と踊っていただけませんか?」


……いや、誰?不躾とかそれ以前の話だと思うんだけど。

あまりにも予想外の展開に、咄嗟に言葉が出なかった。周りの人たちもざわつき始める。

どうしたらいいのか分からなくて、クリスを見る。クリスはその男性をじっと見て、何かに気が付いたのか、あり得ないとでも言いたそうな表情を浮かべた。

すっごい注目の的のなか、その人はただ頭を下げていた。こんな大勢が見る中で断るのはかなり勇気がいる。いや、それは誘う方だろう。

まあパートナーがいる人をダンスに誘うのはマナー違反ではあるけど、絶対にだめってほどではないし……。

後ろにいるヘンドリックお兄様に視線を向けると、お兄様は無言で頷いた。ということは危ない人物ではないだろう。


「ええ、喜んで」


どうせユリウス殿下はここにいない。少し踊るくらいいいだろう。その手を取ってさっと踊り出す。

踊りながらもう一度顔を確認。穏やかな微笑みを浮かべている。年齢は同じくらいだろう。服装的に身分も高い方。そしてどこかで見たことがあるような気がする。


「あのお二人って……」

「ローマン侯爵のご子息とエレナ様が……?」


はいぃ!?なんだって!?

ヒソヒソと聞こえた声を拾い、ぎょっとする。ステップが崩れそうになった。

ローマン家って、あの?つまりこの人は……。

ラルフ・ローマン。私の元婚約者だ。あまりに世間知らずで傲慢でお馬鹿で、手が負えなかったラルフ。私を馬鹿にして見下していたラルフ。最終的には学校の卒業パーティーで、公衆の面前で婚約破棄をされた私。

今目の前のこの普通そうな人があのラルフだと言うのか。それはあまりにも私の知っているラルフとかけ離れていた。

あり得ない。あのラルフはダンスなんて踊れない。


「驚かせてしまいましたね、申し訳ありません」


あり得ない。あのラルフは謝ることなんて知らない。


「エレナ様、ずっとお会いして謝罪をしたいと思っておりました」


あり得ない。あのラルフは死んでも私を「エレナ様」と呼ばない。反省なんてしない。


「私は何も知らず、幼稚な子供でした。あなたはいつも呆れてられた」


懐かしそうに目を細めるラルフ。私はついていけない。


「大変失礼なことをし、言いました。申し訳ございませんでした」


あまりの驚きに、私は言葉を発するどころか、表情を動かすこともできなかった。ただ足だけは動いていた。

沈黙が続き、言葉が出たのは二曲目が始まってからだった。先程と違うステップを踏みながら、私は掠れた声で聞いた。


「本物、でしょうか?」

「ええ、紛れもなく」


確かに嘘はついていなかった。信じ難いことに、今ここにいるのは本当にあのラルフなのだった。
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