ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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怒りの殿下

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少しの間、目を合わせることもなく無言で踊る。この人は私とラルフが踊っていたのをどう思っただろうか。それともラルフが私を誘うことを知っていたのだろうか。

こうしてユリウス殿下とダンスをするのは初めてだ。殿下はにこりともしない。

つまらなさそうなその顔を見る。ユリウス殿下がダンスを好きではないことはすぐに分かった。誰よりも上手なんだけどな。


「……もう終わったのですか?」

「うん、大体分かったから」


もう何年も一緒にいるから分かる。

こうして何かあると匂わせておいて何も言わないのは、私が何を聞いても教える気がない時だ。教えるつもりがないから、隠しもしない。決定的なところ以外は。

言わないけど察しろということ。それならそれで完璧に隠してくれたらいいのに、と言ったことがある。

殿下曰く「完璧に隠しすぎたら君は勝手に無茶をするから」とのことだ。まあつまりは、少し見せることで何かあるから勝手な行動はするな、と牽制しているのだ。

……まあいいけどね。

不自然にならないようにグレーテが難しいと言っていたステップに変える。ユリウス殿下は微かに嫌な顔をした。

殿下の余裕の顔を崩すことができて嬉しい。

……ああ、さっき私が間違えた時、ラルフが笑ったのもこんな気持ちだったのかもしれない。

ふふっと笑いが溢れた。ユリウス殿下はすぐに合わせてきて、そして不満そうな顔をした。


「他の男のこと考えてるでしょ」

「わたくしのそばを離れた殿下が悪いのですわ」


好きではないのに完璧に踊る殿下に少し腹が立ったのでそう言うと、「そうだね」と頷かれた。

いや、あの、そこで同意されても困るんだけど。

ため息を吐きそうになるのを我慢した時、ぞわっと鳥肌が立ち、ステップが踏めなくやった。反射的にバッと殿下を見上げる。殿下も踊るのを止めて私の後ろを睨んでいた。

魔力での威圧。

これは防ぎようがない。慣れている私ですらこれなのだから、普通の貴族にはかなりキツイだろう。

案の定、皆足を止めている。いや、動けないのだろう。足を震わせてなんとか立っている人、座り込んでいる人、気を失っている人までいる。近い人ほど被害は大きい。離れたところにいる人たちも異変を感じ、会場がざわめき始める。

せっかくのパーティーだというのに……殿下をここまで怒らせるなんて、相手は誰で、何をしたのだろうか。

振り向こうとした時だった。


「見るな」


短い言葉が私を止めた。殿下の視線が私へと移る。威圧が止んだ。


「君は知らなくていい」


……ああ、そうですか。

どうせ振り返ったとしても皆倒れていてその誰かを特定することなどできない。


「ではわたくしは一足先にお部屋に戻らせていただきますね」


どうせパーティーはもう続けられない。今気になるのはカイたちだ。そう近くはないけど、こんな魔力に晒されては生まれたばかりのレイラ様は危険だ。

ユリウス殿下の返事を待たずに、横をすり抜けると、すぐにクリスが寄って来た。


「あー、吐きそう」


小さな声で言うクリスは結構近いところにいたのだろう。本当に顔色が悪い。


「何あれ、災害じゃん」


私にしか聞こえなかっただろうその言葉に、笑ってしまいそうになった。確かに。災害は災害でも人災だけど。


「殿下、リリー様」


二人の姿を見つけて近寄ると、カイは笑顔を浮かべた。かなり無理しているのが分かる。


「これはやはり兄上が?」

「ええ」


リリーが治癒魔法をカイへとかける。少しカイの顔色が良くなった。しかし被害は精神的な部分が大きい。治癒魔法で完全に治るものではない。

さて、私たちの周りにいた貴族たちは何人が明日、普通に歩くことができるだろうか。迷惑な話だ。


「レイラ様は大丈夫ですか?」

「ええ、あの子は少し前に乳母が会場から連れて出ましたので」


リリーの言葉にほっと息をつく。よかった。


「エレナは兄上と踊っていたのだろう?なぜけろっとしているのだ?」

「わたくしは少々耐性がありますので」


威圧ではなく殿下の魔力に。他人の魔力に晒されるということは結構キツい。その点で私は有利なのだ。ずっと一緒にいるから。

以前だったら、魔力云々ではなく恐怖に足がすくんで動けなかっただろうけど。


「誰かは知らないが何をしたのだ。よりにもよってあの兄上を相手に……」


呆れるように言ったそれは独り言のようだった。

私も同感。それに殿下はもう少し加減をして欲しい。


「わたくしは部屋に戻ります。どうも、原因の一つにわたくしも関わっておりそうですので」

「関わっていそうではなく、間違いなく関係あるだろうね。兄上があそこまでするのはエレナが関わった時だけだろう。さっさと離れた方がいい。ここにいるとさらなる被害をおこしかねないからね」


はは、と乾いた笑いが出た。やっぱりそうですよね。

頭を下げてクリスと二人で会場を出た。背後はまだ騒がしい。


「先程の方は本当にラルフ様だったのかしら?」


未だに信じられなくてクリスに聞くと、クリスは頷いた。


「うん、私も信じられなくてヘンドリック様とベアトリクス様に確認したよ。正真正銘、本物みたい」


なんとまあ、人とは変わるものだびっくり。

隣を歩くクリスは片手で口元を押さえている。今すぐに吐きそうと言う訳ではなさそうだが、気持ち悪いのは治らないみたい。


「クリス、大丈夫?治癒魔法しましょうか?気分が悪いのくらいは治るわよ」

「うー……お願い」


クリスに少し触れて光魔法を使う。クリスがこうなるほどの魔力を真正面から受けた張本人は、果たして無事なのか。

少しだけすっきりした顔のクリスがため息をつく。


「あの人に喧嘩売るなんて、どこの馬鹿なの、ほんと!」


自分も被害を受けたからだろう。クリスはプンプンと怒っていた。
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