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クリスの役目
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「エレナ!!」
部屋に戻った私に何かがぶつかってきた。あまりの衝撃で後ろにたたらを踏み、そのまま倒れそうになる。
やば……!
「クリス、危ないよ」
そんな声と共に背中を支えられた。ユリウス殿下は全く焦るそぶりを見せていない。クリスが部屋にいることを知っていたのだと分かった。
「ごめん、エレナ、ちょっと勢いがつきすぎて」
へへ、と笑ったクリス。ちょっとどころじゃなかった気がするが、そこは何も言わないでおいてあげよう。
「先に入ったのが殿下だったら殿下に抱き着いていたの?」
少し気になってそう聞くとクリスはまさか、と首をブンブン振った。
「ちゃんと確認して飛び付いてるから安心して!殿下に抱きつくことは絶対ないから!」
『絶対』を強調するクリスに、ユリウス殿下はデコピンをした。
「エレナにも抱き付かないで欲しいね」
「それはちょっと無理ですね」
へへへ、と笑うクリスを横目に殿下は椅子へと座った。当たり前のように私の部屋にいるのはなぜなのだろう。果たして殿下は自分の部屋を一日に何分使っているのだろう。
まあいいけどね。クリスだって寝るとき以外はここにいるし。
「それより、聞いたよ。どこか行くんだって?」
「ええ、早いのね」
「つい今カイに聞いたの」
なるほど。
「出発はいつ?」
出発。私は何も聞いていない。殿下に視線を向けると、殿下は「明日だよ」と言った。
明日。思ったよりも早い。いや、今日と言われないだけマシなのだろうか。
「え、早っ!早く準備しないと……」
焦った様子のクリスは「何がいるかな」と呟く。もしかしなくても一緒に来るつもりだ。
ユリウス殿下を見る。殿下は何も言わない。
「クリス?危ないのよ?今回はわたくしたち二人で行ってくるわ」
「それさ、私詳しいことあんまり聞いてないし、よく分かんないんだけど、何がそんなに危ないの?」
予想外の言葉だった。答えようとして口を開き、だけどその答えを私は持っていないことに気が付いた。確かに何がそんなに危険なのだろうか。
殿下と私がいれば大体のことはできる。基本的に魔法で全てすむのだから。
ユリウス殿下が私たちを見る。今目の前にいるのがヘンドリックお兄様だったら、「そんなことも知らずに行くと言い出したのか」と言われそうだがユリウス殿下はそんなことは言わない。
「分からないんだよ」
「え?」
私も椅子に座ると、クリスも残った一つに座った。三人でテーブルを囲む。
「麻薬ってさ、体よりも脳に影響するものだから、相手の行動が読めないんだ。魔法を使っても怯まない可能性もあるし、魔法を見破られたと言う話すらある。それが本当なら僕の魔法を使っても無駄だからね」
魔法を見破られる?見て破る?それはまるでベアトリクスの目のようだ。それを麻薬で?
「その情報の信憑性は?」
「アメリア嬢から聞いた話だ。確実ではないけど噂だと断定するにもできない。実際あり得ない話ではないしね」
そんなこと到底信じられない。だって麻薬がそんな作用をもたらすなら、それはとても価値のあるものになるじゃないか。
「信じられないでしょ。だから、分からないんだよ。実際に行ってみないと危険さも分からない。分からないと言うことが一番危険なんだ」
「えー、でも分からないからって命の危険があるってちょっと尚早すぎません?」
私もクリスと同感。ユリウス殿下は「うん」と頷く。
「老人達は臆病だからね」
「ふーん」
分からないということが一番危険。確かにそうかもしれない。魔法が役に立たない相手ほど困るものはない。ここ最近魔法に頼らず戦う訓練をしているが、だからこそよく知っている。魔法を使わずに戦うヴェルナー様やクルトお兄様は本当にすごい。私にはきっと何年経っても不可能だ。
「ああそうそう、クリスは連れて行かないよ」
「えー!なんでですか!?」
クリスが不満そうに殿下を見た。正直安心した。
「魔法で勝てる相手じゃない場合、僕は二人も守る自信がないから」
「珍しく弱気ですね」
そう言うと殿下は微笑んだ。他に何も言わずに。どこか違和感を覚えた。理由はわからない。
「クリスには頼みたいことがあるから残ってもらう」
口を尖らせるクリスに、殿下は構わず続けた。
「あの件に関わった人間を全て捕縛してほしい。リストは作ってある。証拠を見つけ次第捕縛。証拠がない場合は捏造しても構わない」
あの件。それはきっとあの双子の件。聞きたいことはたくさんあるが、私は何も言わない。
「随分と焦っているみたいですね」
クリスの言葉に、ユリウス殿下は私をチラッと見た。
「事情が変わったんだ」
「そうらしいですね」
クリスが頷いた。どうやら一緒に来ないことには納得したようだ。クリスが私を見る。
「一緒には行けないけど気を付けてね。絶対帰って来てね」
「ええ、分かっているわ」
「いざとなったら殿下を囮にしてでも帰ってくるんだよ」
いや、流石にそれは……。皇子を囮にして逃げる嫁ってどうなのよ。できるわけがない。だけどきっとクリスは本気なのだと思う。
「努力するわ」
そう言うと、クリスは笑った。その笑顔が少し悲しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか。やはり置いて行かれることに何か思うところがあるのか。私は何も聞けなかった。
部屋に戻った私に何かがぶつかってきた。あまりの衝撃で後ろにたたらを踏み、そのまま倒れそうになる。
やば……!
「クリス、危ないよ」
そんな声と共に背中を支えられた。ユリウス殿下は全く焦るそぶりを見せていない。クリスが部屋にいることを知っていたのだと分かった。
「ごめん、エレナ、ちょっと勢いがつきすぎて」
へへ、と笑ったクリス。ちょっとどころじゃなかった気がするが、そこは何も言わないでおいてあげよう。
「先に入ったのが殿下だったら殿下に抱き着いていたの?」
少し気になってそう聞くとクリスはまさか、と首をブンブン振った。
「ちゃんと確認して飛び付いてるから安心して!殿下に抱きつくことは絶対ないから!」
『絶対』を強調するクリスに、ユリウス殿下はデコピンをした。
「エレナにも抱き付かないで欲しいね」
「それはちょっと無理ですね」
へへへ、と笑うクリスを横目に殿下は椅子へと座った。当たり前のように私の部屋にいるのはなぜなのだろう。果たして殿下は自分の部屋を一日に何分使っているのだろう。
まあいいけどね。クリスだって寝るとき以外はここにいるし。
「それより、聞いたよ。どこか行くんだって?」
「ええ、早いのね」
「つい今カイに聞いたの」
なるほど。
「出発はいつ?」
出発。私は何も聞いていない。殿下に視線を向けると、殿下は「明日だよ」と言った。
明日。思ったよりも早い。いや、今日と言われないだけマシなのだろうか。
「え、早っ!早く準備しないと……」
焦った様子のクリスは「何がいるかな」と呟く。もしかしなくても一緒に来るつもりだ。
ユリウス殿下を見る。殿下は何も言わない。
「クリス?危ないのよ?今回はわたくしたち二人で行ってくるわ」
「それさ、私詳しいことあんまり聞いてないし、よく分かんないんだけど、何がそんなに危ないの?」
予想外の言葉だった。答えようとして口を開き、だけどその答えを私は持っていないことに気が付いた。確かに何がそんなに危険なのだろうか。
殿下と私がいれば大体のことはできる。基本的に魔法で全てすむのだから。
ユリウス殿下が私たちを見る。今目の前にいるのがヘンドリックお兄様だったら、「そんなことも知らずに行くと言い出したのか」と言われそうだがユリウス殿下はそんなことは言わない。
「分からないんだよ」
「え?」
私も椅子に座ると、クリスも残った一つに座った。三人でテーブルを囲む。
「麻薬ってさ、体よりも脳に影響するものだから、相手の行動が読めないんだ。魔法を使っても怯まない可能性もあるし、魔法を見破られたと言う話すらある。それが本当なら僕の魔法を使っても無駄だからね」
魔法を見破られる?見て破る?それはまるでベアトリクスの目のようだ。それを麻薬で?
「その情報の信憑性は?」
「アメリア嬢から聞いた話だ。確実ではないけど噂だと断定するにもできない。実際あり得ない話ではないしね」
そんなこと到底信じられない。だって麻薬がそんな作用をもたらすなら、それはとても価値のあるものになるじゃないか。
「信じられないでしょ。だから、分からないんだよ。実際に行ってみないと危険さも分からない。分からないと言うことが一番危険なんだ」
「えー、でも分からないからって命の危険があるってちょっと尚早すぎません?」
私もクリスと同感。ユリウス殿下は「うん」と頷く。
「老人達は臆病だからね」
「ふーん」
分からないということが一番危険。確かにそうかもしれない。魔法が役に立たない相手ほど困るものはない。ここ最近魔法に頼らず戦う訓練をしているが、だからこそよく知っている。魔法を使わずに戦うヴェルナー様やクルトお兄様は本当にすごい。私にはきっと何年経っても不可能だ。
「ああそうそう、クリスは連れて行かないよ」
「えー!なんでですか!?」
クリスが不満そうに殿下を見た。正直安心した。
「魔法で勝てる相手じゃない場合、僕は二人も守る自信がないから」
「珍しく弱気ですね」
そう言うと殿下は微笑んだ。他に何も言わずに。どこか違和感を覚えた。理由はわからない。
「クリスには頼みたいことがあるから残ってもらう」
口を尖らせるクリスに、殿下は構わず続けた。
「あの件に関わった人間を全て捕縛してほしい。リストは作ってある。証拠を見つけ次第捕縛。証拠がない場合は捏造しても構わない」
あの件。それはきっとあの双子の件。聞きたいことはたくさんあるが、私は何も言わない。
「随分と焦っているみたいですね」
クリスの言葉に、ユリウス殿下は私をチラッと見た。
「事情が変わったんだ」
「そうらしいですね」
クリスが頷いた。どうやら一緒に来ないことには納得したようだ。クリスが私を見る。
「一緒には行けないけど気を付けてね。絶対帰って来てね」
「ええ、分かっているわ」
「いざとなったら殿下を囮にしてでも帰ってくるんだよ」
いや、流石にそれは……。皇子を囮にして逃げる嫁ってどうなのよ。できるわけがない。だけどきっとクリスは本気なのだと思う。
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そう言うと、クリスは笑った。その笑顔が少し悲しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか。やはり置いて行かれることに何か思うところがあるのか。私は何も聞けなかった。
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