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隠しごと
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夜、クリスが自室へ戻った後、私はお茶を飲みながらユリウス殿下を見た。殿下もカップに口をつける。
「何か隠してますよね?」
無駄な探りは入れず、はっきりとそう言うと、殿下はまるで私がそう言い出すことを知っていたかのように表情ひとつ変えず言った。
「嘘はついてないよ。君相手に嘘は通用しないからね」
そう、私には嘘は通用しない。光属性を持っているおかげですぐに分かるから。でもそうじゃない。そんな言葉で誤魔化されるとでも思ったのだろうか。残念ながら私はそこまで馬鹿ではない。
「何か隠してますよね?」
もう一度同じ言葉を発する。殿下はため息ついた。
「誤魔化されてくれたら嬉しかったんだけどね」
「どうして全てを教えてくれないんですか?」
一緒に行くのだから情報は全て欲しい。必要なことを知らないと、何をしたらいいかも分からないし、何をしてはいけないのかも分からない。
ユリウス殿下は微笑む。
……ああ、そういうことか。分かってしまった。
「私も置いて行くおつもりですか」
殿下は微笑むだけ。肯定も否定もしない。最初から、あの会議の時から殿下は私と一緒に行く気はなかったのだ。思えば陛下は殿下にしか「任せる」と言わなかった。カイだって殿下に「よろしく」と言っただけだ。
最初から、皆そのつもりで。
「一緒に行くって言ったではありませんか」
少しして殿下は「うん」と言う。
「どうしてです?足手まといにはなりません」
「足手まといになるから置いて行くんじゃないよ」
「ではなぜ……!」
一緒に行くと言ったのに。連れて行く気がないのなら最初から駄目だと言えばよかったのに。裏切られたような気がした。
ユリウス殿下はいつものように微笑む。困ったように。
冷静に、と自分に言い聞かせるが感情が湧き上がり、言葉が溢れた。
「殿下はいつもそれです。私が責めれば笑うばかり。私をわがままを言う子供だとでも思っているんですか?小さい子供だとでも思っているんですか?どうして何も言ってくれないのです?」
思えばそれはユリウス殿下だけじゃない。ヘンドリックお兄様やヨハン、陛下。最近ではカイやレオンやマクシミリアン、ベアトリクスでさえも。皆が私の知らないところで何かしている。誰も話してくれない。
クリスが集める情報にもない。きっと私やクリスに入る情報は制限されている。ユリウス殿下によって。
「どうして皆私に大事なことを教えてくれないのです?私とクリスはいつも何も知らないまま」
「エレナ」
ユリウス殿下が私を呼ぶ。口をつぐんで少し待ってみたが、言葉は続かない。
「……殿下が私のことを大事にしてくれていることは知っています。だけどそれしか知りません。殿下の気持ちや考えは話してくれないと分かりません。ちゃんと言葉にしてくれないと私は分かりません」
私たちはお互いに分かり合えている方だとは思う。それでも私は殿下の全ては分からないし、殿下だって私の全ては知らない。
「その為の言葉でしょう?いくら同じ時を過ごしても、同じものを見ても、言葉なしで分かりあうことは不可能なんです。例えどんなに想いあっていても、あなたはあなただし、私は私でしかないのですから」
真っ直ぐに殿下を見つめる。殿下は少し驚いたような表情を浮かべ、もう一度微笑んだ。今度は少し悲しそうだった。
「……困ったな。反論の余地もない」
私がこうして責めることは予想外だったのだろうか。殿下は珍しく言葉を探しているようだった。
「エレナ、君とクリスは綺麗すぎる」
私は言葉を挟まず、ただ黙って聞く。
「だから暗いことは知って欲しくない。変わって欲しくない」
「皆そう思っているんだよ」と殿下は言った。その『皆』がどこまでを指しているのかは分からない。だけど納得がいくわけがなかった。
「変わらないものなんてありませんよ、ユリウス殿下」
「そうだね」
「私は私です。子供でもなければあなたの保護対象でもない。私の意志で行動します。一緒に行くと口約束だけして置いて行く?それはあまりにずるいと思いませんか?」
私はユリウス殿下に守られているのかもしれない。だけど守って欲しいなんて思っていないし、なんなら私だって殿下を守りたい。だから一緒に行きたい。
「……君の言葉は心に刺さる」
いつもより切り口は鋭めだったかもしれない。心に刺さってくれないと話は進まないから。
「殿下、私はあなたの助けになりたい。殿下が私を大切に思うよう、私も殿下が大切なのです。だから教えてください」
「君の手は綺麗なままだ。変わらないで欲しい」
それはどういう意味だろうか。誰も殺しいてない、ということか。それとも悪いことをしていないということか。どちらにしても私に言えることは一つだけ。
「変わりませんよ。何を知っても私は私で、他の誰にもなりません。殿下は私を愛してくれるのではないのですか?」
「うん、愛しているよ」
「だけど私の変化もまるごとは愛してくれないのですか?」
この言葉は自意識過剰すぎるだろうか。ユリウス殿下は笑った。私の方へゆっくり近づく殿下を目で追う。殿下は私の正面に立った。
「愛するよ。君がどう変わろうと愛する。君が何人その手にかけようとも、志を忘れてしまおうとも、この国の敵にまわっても、僕だけはずっと君を愛している」
そっと抱き寄せられ、額に口づけをされた。声、言葉、行動、仕草。その全てから私への愛情が感じられる。殿下の言葉は嘘ではない。
「でしたら隠していることを全て教えてください。私は知る必要があります」
殿下から体を離し、はっきりと言うと殿下は「降参だよ」と微笑んだ。
「何か隠してますよね?」
無駄な探りは入れず、はっきりとそう言うと、殿下はまるで私がそう言い出すことを知っていたかのように表情ひとつ変えず言った。
「嘘はついてないよ。君相手に嘘は通用しないからね」
そう、私には嘘は通用しない。光属性を持っているおかげですぐに分かるから。でもそうじゃない。そんな言葉で誤魔化されるとでも思ったのだろうか。残念ながら私はそこまで馬鹿ではない。
「何か隠してますよね?」
もう一度同じ言葉を発する。殿下はため息ついた。
「誤魔化されてくれたら嬉しかったんだけどね」
「どうして全てを教えてくれないんですか?」
一緒に行くのだから情報は全て欲しい。必要なことを知らないと、何をしたらいいかも分からないし、何をしてはいけないのかも分からない。
ユリウス殿下は微笑む。
……ああ、そういうことか。分かってしまった。
「私も置いて行くおつもりですか」
殿下は微笑むだけ。肯定も否定もしない。最初から、あの会議の時から殿下は私と一緒に行く気はなかったのだ。思えば陛下は殿下にしか「任せる」と言わなかった。カイだって殿下に「よろしく」と言っただけだ。
最初から、皆そのつもりで。
「一緒に行くって言ったではありませんか」
少しして殿下は「うん」と言う。
「どうしてです?足手まといにはなりません」
「足手まといになるから置いて行くんじゃないよ」
「ではなぜ……!」
一緒に行くと言ったのに。連れて行く気がないのなら最初から駄目だと言えばよかったのに。裏切られたような気がした。
ユリウス殿下はいつものように微笑む。困ったように。
冷静に、と自分に言い聞かせるが感情が湧き上がり、言葉が溢れた。
「殿下はいつもそれです。私が責めれば笑うばかり。私をわがままを言う子供だとでも思っているんですか?小さい子供だとでも思っているんですか?どうして何も言ってくれないのです?」
思えばそれはユリウス殿下だけじゃない。ヘンドリックお兄様やヨハン、陛下。最近ではカイやレオンやマクシミリアン、ベアトリクスでさえも。皆が私の知らないところで何かしている。誰も話してくれない。
クリスが集める情報にもない。きっと私やクリスに入る情報は制限されている。ユリウス殿下によって。
「どうして皆私に大事なことを教えてくれないのです?私とクリスはいつも何も知らないまま」
「エレナ」
ユリウス殿下が私を呼ぶ。口をつぐんで少し待ってみたが、言葉は続かない。
「……殿下が私のことを大事にしてくれていることは知っています。だけどそれしか知りません。殿下の気持ちや考えは話してくれないと分かりません。ちゃんと言葉にしてくれないと私は分かりません」
私たちはお互いに分かり合えている方だとは思う。それでも私は殿下の全ては分からないし、殿下だって私の全ては知らない。
「その為の言葉でしょう?いくら同じ時を過ごしても、同じものを見ても、言葉なしで分かりあうことは不可能なんです。例えどんなに想いあっていても、あなたはあなただし、私は私でしかないのですから」
真っ直ぐに殿下を見つめる。殿下は少し驚いたような表情を浮かべ、もう一度微笑んだ。今度は少し悲しそうだった。
「……困ったな。反論の余地もない」
私がこうして責めることは予想外だったのだろうか。殿下は珍しく言葉を探しているようだった。
「エレナ、君とクリスは綺麗すぎる」
私は言葉を挟まず、ただ黙って聞く。
「だから暗いことは知って欲しくない。変わって欲しくない」
「皆そう思っているんだよ」と殿下は言った。その『皆』がどこまでを指しているのかは分からない。だけど納得がいくわけがなかった。
「変わらないものなんてありませんよ、ユリウス殿下」
「そうだね」
「私は私です。子供でもなければあなたの保護対象でもない。私の意志で行動します。一緒に行くと口約束だけして置いて行く?それはあまりにずるいと思いませんか?」
私はユリウス殿下に守られているのかもしれない。だけど守って欲しいなんて思っていないし、なんなら私だって殿下を守りたい。だから一緒に行きたい。
「……君の言葉は心に刺さる」
いつもより切り口は鋭めだったかもしれない。心に刺さってくれないと話は進まないから。
「殿下、私はあなたの助けになりたい。殿下が私を大切に思うよう、私も殿下が大切なのです。だから教えてください」
「君の手は綺麗なままだ。変わらないで欲しい」
それはどういう意味だろうか。誰も殺しいてない、ということか。それとも悪いことをしていないということか。どちらにしても私に言えることは一つだけ。
「変わりませんよ。何を知っても私は私で、他の誰にもなりません。殿下は私を愛してくれるのではないのですか?」
「うん、愛しているよ」
「だけど私の変化もまるごとは愛してくれないのですか?」
この言葉は自意識過剰すぎるだろうか。ユリウス殿下は笑った。私の方へゆっくり近づく殿下を目で追う。殿下は私の正面に立った。
「愛するよ。君がどう変わろうと愛する。君が何人その手にかけようとも、志を忘れてしまおうとも、この国の敵にまわっても、僕だけはずっと君を愛している」
そっと抱き寄せられ、額に口づけをされた。声、言葉、行動、仕草。その全てから私への愛情が感じられる。殿下の言葉は嘘ではない。
「でしたら隠していることを全て教えてください。私は知る必要があります」
殿下から体を離し、はっきりと言うと殿下は「降参だよ」と微笑んだ。
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