ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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いざ

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フェルマー伯爵家にフェルマー伯爵はいなかった。それどころか、伯爵夫人もその他親族も一人もいない。使用人すらたった数名しかいなかった。

そこにいたのはアメリアのみで、残った使用人も、アメリアのお抱えだけだと言った。フェルマー伯爵をはじめとした他の人間は、私たちがここへ来ると言う知らせを受けて、昨日のうちに逃げ出したそう。ラインハルトに関しては未だに拘束中だけど。

ここに留まらせることができなかった、と頭を下げるアメリアに、ユリウス殿下は笑った。曰く、「逃げるなんて罪を認めたようなものだ」と。私もそう思う。

そんなこんなで、アメリアにもう少し詳しいことを聞き、街中を見てまわった私たちは宿屋の一室にいた。日は既に落ちている。


「何か収穫はありましたか?」


まあ私は何も分からなかったんだけど。だって主要な通りしか歩いてないし。裏通りとか入ってみたかったんだけど止められたし。


「うん、大体分かったよ」


全然分からない。何が分かったのかすら分からない。無言でいると殿下は言った。


「街の中には100人近く。外にはもっと大勢がいる感じだよ」

「100人ですか!?」


貴族の手先の人間の話だろう。街の中に100人とは、想像の3倍は多い。驚く私を見て殿下は可笑そうに笑った。


「本人達の人間性はともかく、家名だけは大きい老人達だからね。汚い金もたくさん持ってるし」


どうして殿下はこうも余裕そうなのだろうか。100人と戦って勝算はあるのだろうか。


「そう不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。君と僕がいれば100人なんて何でもない。そうだろう?」


素直に嬉しかった。頭が良くて魔法が上手で剣も使えて、なんでもできるユリウス殿下。その殿下に認められるのは。いや、認められてるのは知ってたけど。それでも嬉しいものは嬉しいのだ。


「はい、その通りですね」

「よし、じゃあ寝ようか」


殿下の言葉に頷き、ベッドへ潜り込む。当たり前のように同じベッド。いつもよりも狭い。だけどその狭さが今は少し嬉しかった。殿下のあたたかさで悪夢から覚めた時にすぐに現実に戻ることができるから。


「おやすみなさいませ」


そう言いはしたが、今夜もあまり寝れそうな気はしなかった。



翌朝、日の出と共に動き始めた私を見て、殿下は言った。


「また寝れなかった?」

「ええ、まあ……少しだけ」


少しだけ寝ることができた。それを少し曖昧にいったが、殿下は騙されてはくれなかった。


「少しだけ寝れなかった、じゃなさそうだね」


もう4日。ここに鏡はない。私の顔はどうなっているのだろうか。クマが出来てなければいいけど。

そんなことを気にして目の下を触っていると、殿下は言った。


「クマはあるけどそんなに目立たないから大丈夫だよ」

「それならよかったです」


ちゃんと眠れていないというのに体は別に辛くない。眠くなければだるくもない。不思議だ。

ユリウス殿下もベッドから出て着替え始めた。それを見ないようにしながら、昨日着ていた白いワンピースを魔法で洗い、着た。魔法って便利。

着替え終わり、宿屋のおばさんが運んでで来てくれた野菜のスープを食べる。正直、そんなに美味しくない。野菜だって新鮮さはないし、味も薄い。お肉などは入っておらず、栄養素としてもかなり偏っている。これがこの街の現実なのかもしれない。

思えば昨日見た市場にもほとんど物は並んでいなかった。あれは売り切れていた訳ではなかったのかも。

ユリウス殿下は不満など一言も漏らさない。だから私も何も言わずに食べた。これは私の罪でもある。今までこの街のことに気が付かなかった私たちの。


「荷物仕舞うよ」


ご飯を食べると殿下は言った。その言葉に従って荷物を渡す。殿下は魔法で作った空間にポイと入れた。小さな空間だけど、そこに入れておけばいつでもどこでも取り出せるらしい。超便利で、超魔法みたいな魔法。


「じゃあ行こっか」


多分下見は昨日で終わった。つまり今から麻薬を手に入れに行くはず。それなのにいつもと同じ笑顔。強い人はやはり余裕が違う。


「はい」


これからのことは私は何も聞いていない。

……ま、殿下について行けば全てうまく行くでしょ。ユリウス殿下の書いた脚本は変わることなんてないのだから。

私は殿下の後に続いて宿屋を出た。
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