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「この辺りかな」
ユリウス殿下は急に立ち止まった。この辺りと言われても別に何もないような気がする。普通に大通りの真ん中だ。
「ここがどうかしたのですか?」
「うん、この辺りが街の中心だよ」
そう言われると確かにそうかもしれない。街を囲む壁がどの方向を見ても大体同じ距離だ。だとして何をすると言うのだろうか。
じっと殿下の次の行動を待っていると、殿下は微笑んで私を見た。
「この街全てを範囲に、治癒魔法をかけることはできるかい?」
それはできるか、と聞かれた訳ではないのだろう。殿下は出来ることを知っているはず。
「出来ますが流石に魔力がなくなってしまいます」
確かに治癒魔法をまた全体にかけたら薬に溺れる人たちは動けなくなるだろう。だけど私も動けなくなるのは得策ではない気がする。
殿下は「大丈夫だよ」と笑う。その手に持っていたのは魔法薬だった。
確かに飲めば魔力は回復する。しかしそれは陛下にしか作ることができず、魔法で管理されているはず。陛下ですら不正に持ち出すことはできない、と言っていたものだ。そういえば殿下は前にも一度盗み出したことがあったはず。
「もしかして忘れ物をしたとおっしゃっていたのは……」
「うん、これだよ」
やっぱり。
「陛下はご存知なのですか?」
「いいや、父上に言っても持ち出すことができないんだから、言う必要はないでしょ?」
そうじゃない……!頼んで出してもらったのかって意味じゃない!私は殿下が持ち出したことは知っているのかって聞いたんだ!
あーあ、きっと昨日はお城で大騒ぎだっただろうなぁ……。ほんと、どうやって持ち出してるんだか。気にはなるけど知りたくはないので、何も聞かない。
とりあえずそれがあるなら安心だ。まずいから飲みたくはないけど。
この街の全てを私の魔力で覆って……治癒魔法。
「終わりました」
魔力切れでクラクラするのを我慢してそう言うと、殿下はすぐに私に魔法薬を手渡した。迷わずそれを飲み干す。
「……うぇ」
目を閉じて口を押さえ、吐きそうなのを堪える。不味すぎる。まじで。苦いし臭いし変なピリピリもあるし。この世で一番まずい物は何だと聞かれると、私は迷わずこれだと答えるだろう。いや、これを飲んだことのある人は必ずこれと答えるだろう。
「……味の改良を提案します」
ようやく口の中が落ち着き、そう言うとユリウス殿下はくすくすと笑った。
「次は裏通りへ?」
「うん、行こう」
まだ口の中はしわしわぴりぴり。本当は甘いジュースでも飲めたら最高だが、この街にそういうものは無さそうなので、大人しく後ろをついて行く。
少し歩くと殿下は裏通りへと足を進めた。建物と建物の間の狭い道。2人が並んでぎりぎり通れる道幅。そこに何人もの人たちが倒れていた。
皆麻薬をしていた人たちなのか。呻き声の中、私たちは倒れている人たちをどうにか避けて進む。
「おい、お貴族様よ」
後ろから声がかけられた。下品な声。振り向くとニタニタとした顔の男が5人。その手にはパイプが握られていた。そこから出る煙は変な匂いがする。
……あれが麻薬?
ユリウス殿下は動かない。先程まで私の前を歩いていたので、今は後ろにいる。私は無言で彼らに治癒魔法をかける。しかし男達はその瞬間、パイプを口に含み、ゆっくりと吸った。
「そうか、これはお前らの仕業か」
1人の男は粉薬を口へと注いだ。あれも麻薬。
「お前達は売人だろう?それを僕達にも売ってもらいたい」
「ああ、いいぜ」
先頭の男がポケットから植物を取り出した。あれを加工して粉薬なりパイプなりにしているのか。
ということはあの加工前の状態で手に入れることができたらいい。
「なーんてな!」
男達はギャハハ、と笑う。
「はいそうですか、って渡すとでも思ったか?いくら金を積まれたって売らねえよ!」
殿下が何も言わないということは私の好きなようにしていいということだろう。それなりに喧嘩慣れしてそうな相手ではあるが、所詮はただの人。奪い取るのは簡単そうだ。
「……おい!!」
急に怒鳴られて男達を見ると、その顔は明らかに怒っていた。
「話聞いてんのか、女ぁ!」
なるほど、全く反応をしない私たちが気に入らないらしい。
「考え事をしていたので聞いていません。すみません」
ぶち、と何かが切れたことは見てるだけで分かった。男達が下卑た笑いを引っ込め、急に真顔になった。かと思えば先頭の男が飛びかかってきた。
お、ちょうどいい。ひらりと避けると同時に男が手に持っていたままの麻薬を取る。よし、回収成功。
男は私が避けたことでよろよろとバランスを崩し、なんとかそれを持ち直した。そして私が麻薬を持っていることを見てさらに怒りを深くする。
「殿下、これは本物ですか?」
あまりに簡単に手に入りすぎて、本物だとは思えない。しかしその私の言葉は更に彼らを怒らせたようだ。
今度は2人が走って来る。振りかぶった拳が当たる前に避け、相手の足を蹴ると1人が転んだ。もう1人は背負い投げ。
実戦で戦う時はいつも剣か魔法だけどたまにはこれもいいかもしれない。ストレス解消になる。
ユリウス殿下が私が持った植物を取り、眺める。
「うん、本物だね」
へえ、本物なんだ。てっきりその辺の草を囮として出したのかと思っていたけど。この人たちお馬鹿なのかな。
返されたそれをもう一度見る。
「これってこのまま食べても効くんですか?」
葉っぱを一つちぎる。麻薬というものには少し興味があった。どうしてこうもハマる人がいるのか。中毒性があるというがそれは一体どんな感じなのか。百聞は一見にしかず、だろう。
男が倒れたまま、笑う。
「はっ!食ってみろ。一口でも食えばお前も俺たちの仲間入りだ。もう日の当たる場所では生きられねえぜ」
へぇ、なるほど。ちぎった葉っぱを口へと運ぶ。それが口へ届く前に私の手は止められた。
「エレナ、それは駄目だよ」
殿下だった。殿下が私の手を掴んで止めている。困ったような笑みを浮かべて。
「大丈夫ですよ」
そう言ってその手を半ば無理矢理ほどく。しかし殿下は引かなかった。
「駄目だ」
珍しいな、と思った。そしてこれの危険性を再確認した。ユリウス殿下が私に対してこんなにも厳しい目をするなんて。
仕方がないので軽い魔法を使って攻撃をする。殿下は驚きを隠せない様子で私から離れた。
半分は好奇心。半分は必要性。成分の分析は実際に体内に入れた方が早いのだ。それからこの麻薬がどのような効果を持つのかも確認しておきたい。
私は葉を口に入れ、しっかりと噛み締めた。
ユリウス殿下は急に立ち止まった。この辺りと言われても別に何もないような気がする。普通に大通りの真ん中だ。
「ここがどうかしたのですか?」
「うん、この辺りが街の中心だよ」
そう言われると確かにそうかもしれない。街を囲む壁がどの方向を見ても大体同じ距離だ。だとして何をすると言うのだろうか。
じっと殿下の次の行動を待っていると、殿下は微笑んで私を見た。
「この街全てを範囲に、治癒魔法をかけることはできるかい?」
それはできるか、と聞かれた訳ではないのだろう。殿下は出来ることを知っているはず。
「出来ますが流石に魔力がなくなってしまいます」
確かに治癒魔法をまた全体にかけたら薬に溺れる人たちは動けなくなるだろう。だけど私も動けなくなるのは得策ではない気がする。
殿下は「大丈夫だよ」と笑う。その手に持っていたのは魔法薬だった。
確かに飲めば魔力は回復する。しかしそれは陛下にしか作ることができず、魔法で管理されているはず。陛下ですら不正に持ち出すことはできない、と言っていたものだ。そういえば殿下は前にも一度盗み出したことがあったはず。
「もしかして忘れ物をしたとおっしゃっていたのは……」
「うん、これだよ」
やっぱり。
「陛下はご存知なのですか?」
「いいや、父上に言っても持ち出すことができないんだから、言う必要はないでしょ?」
そうじゃない……!頼んで出してもらったのかって意味じゃない!私は殿下が持ち出したことは知っているのかって聞いたんだ!
あーあ、きっと昨日はお城で大騒ぎだっただろうなぁ……。ほんと、どうやって持ち出してるんだか。気にはなるけど知りたくはないので、何も聞かない。
とりあえずそれがあるなら安心だ。まずいから飲みたくはないけど。
この街の全てを私の魔力で覆って……治癒魔法。
「終わりました」
魔力切れでクラクラするのを我慢してそう言うと、殿下はすぐに私に魔法薬を手渡した。迷わずそれを飲み干す。
「……うぇ」
目を閉じて口を押さえ、吐きそうなのを堪える。不味すぎる。まじで。苦いし臭いし変なピリピリもあるし。この世で一番まずい物は何だと聞かれると、私は迷わずこれだと答えるだろう。いや、これを飲んだことのある人は必ずこれと答えるだろう。
「……味の改良を提案します」
ようやく口の中が落ち着き、そう言うとユリウス殿下はくすくすと笑った。
「次は裏通りへ?」
「うん、行こう」
まだ口の中はしわしわぴりぴり。本当は甘いジュースでも飲めたら最高だが、この街にそういうものは無さそうなので、大人しく後ろをついて行く。
少し歩くと殿下は裏通りへと足を進めた。建物と建物の間の狭い道。2人が並んでぎりぎり通れる道幅。そこに何人もの人たちが倒れていた。
皆麻薬をしていた人たちなのか。呻き声の中、私たちは倒れている人たちをどうにか避けて進む。
「おい、お貴族様よ」
後ろから声がかけられた。下品な声。振り向くとニタニタとした顔の男が5人。その手にはパイプが握られていた。そこから出る煙は変な匂いがする。
……あれが麻薬?
ユリウス殿下は動かない。先程まで私の前を歩いていたので、今は後ろにいる。私は無言で彼らに治癒魔法をかける。しかし男達はその瞬間、パイプを口に含み、ゆっくりと吸った。
「そうか、これはお前らの仕業か」
1人の男は粉薬を口へと注いだ。あれも麻薬。
「お前達は売人だろう?それを僕達にも売ってもらいたい」
「ああ、いいぜ」
先頭の男がポケットから植物を取り出した。あれを加工して粉薬なりパイプなりにしているのか。
ということはあの加工前の状態で手に入れることができたらいい。
「なーんてな!」
男達はギャハハ、と笑う。
「はいそうですか、って渡すとでも思ったか?いくら金を積まれたって売らねえよ!」
殿下が何も言わないということは私の好きなようにしていいということだろう。それなりに喧嘩慣れしてそうな相手ではあるが、所詮はただの人。奪い取るのは簡単そうだ。
「……おい!!」
急に怒鳴られて男達を見ると、その顔は明らかに怒っていた。
「話聞いてんのか、女ぁ!」
なるほど、全く反応をしない私たちが気に入らないらしい。
「考え事をしていたので聞いていません。すみません」
ぶち、と何かが切れたことは見てるだけで分かった。男達が下卑た笑いを引っ込め、急に真顔になった。かと思えば先頭の男が飛びかかってきた。
お、ちょうどいい。ひらりと避けると同時に男が手に持っていたままの麻薬を取る。よし、回収成功。
男は私が避けたことでよろよろとバランスを崩し、なんとかそれを持ち直した。そして私が麻薬を持っていることを見てさらに怒りを深くする。
「殿下、これは本物ですか?」
あまりに簡単に手に入りすぎて、本物だとは思えない。しかしその私の言葉は更に彼らを怒らせたようだ。
今度は2人が走って来る。振りかぶった拳が当たる前に避け、相手の足を蹴ると1人が転んだ。もう1人は背負い投げ。
実戦で戦う時はいつも剣か魔法だけどたまにはこれもいいかもしれない。ストレス解消になる。
ユリウス殿下が私が持った植物を取り、眺める。
「うん、本物だね」
へえ、本物なんだ。てっきりその辺の草を囮として出したのかと思っていたけど。この人たちお馬鹿なのかな。
返されたそれをもう一度見る。
「これってこのまま食べても効くんですか?」
葉っぱを一つちぎる。麻薬というものには少し興味があった。どうしてこうもハマる人がいるのか。中毒性があるというがそれは一体どんな感じなのか。百聞は一見にしかず、だろう。
男が倒れたまま、笑う。
「はっ!食ってみろ。一口でも食えばお前も俺たちの仲間入りだ。もう日の当たる場所では生きられねえぜ」
へぇ、なるほど。ちぎった葉っぱを口へと運ぶ。それが口へ届く前に私の手は止められた。
「エレナ、それは駄目だよ」
殿下だった。殿下が私の手を掴んで止めている。困ったような笑みを浮かべて。
「大丈夫ですよ」
そう言ってその手を半ば無理矢理ほどく。しかし殿下は引かなかった。
「駄目だ」
珍しいな、と思った。そしてこれの危険性を再確認した。ユリウス殿下が私に対してこんなにも厳しい目をするなんて。
仕方がないので軽い魔法を使って攻撃をする。殿下は驚きを隠せない様子で私から離れた。
半分は好奇心。半分は必要性。成分の分析は実際に体内に入れた方が早いのだ。それからこの麻薬がどのような効果を持つのかも確認しておきたい。
私は葉を口に入れ、しっかりと噛み締めた。
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