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麻薬の力
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飲み込んだ直後は何の変化もなかった。しかし数秒経てばそれは始まった。
体温が上がる。頭がスッキリする。力が、魔力が溢れる。そして気分が高揚した。ずっと頭に渦巻いていたもやもやは綺麗さっぱり消え失せた。
「あはははっ!なるほど、これは、これはすごい……!」
訳もなく笑ってしまう。たった数秒。それだけでハマる理由が分かる。
「殿下、すごいですよ!私、今なら何でも出来る気分です……!」
今の私に不可能などない。そんな気分になった。世界が輝いている。魔力がどんどん溢れて来る。そして、何もかもが敵に見える。ユリウス殿下ですら、今にも私を攻撃して来るんじゃないか、と思える。
すごい、すごいや。これは実際に使ってみないと分からない。
「すごいだろう?どうだ?俺たちと来ればお前にもわけてやる。その代わり、その力を俺たちのために使え」
男達がギラギラとした目で私を見ていた。
ああ、それはきっと楽しい人生なのだろう。圧倒的な力を振りかざし人の上に立ち、その力で人を堕落せしめる。麻薬という名の力は私が思っていたよりも強大だった。
この力に溺れてしまえば楽だ。この力を手にすれば何でも出来る。だけどそれは私のしたいことじゃない。
「残念ながら、わたくしのこの力はもう誰のために使うか決まっておりますの!」
私の魔法は国に、命は殿下に、そして人生は民に。もう全て捧げてあるのだ。この男達に分け与えるものは何もない。
体内の成分を分析する。これだけでどのような成分があるのか、何がどんな効果をもたらしているのかが分かる。光属性の魔法の便利なところ。
使って分かる。これは存在していいものではないと。これは、絶対に持ち帰ってはならないものだと。
ユリウス殿下に視線を向ける。殿下は真っ黒な何かに包まれていて、その表情がよく見えなかった。
手の持った麻薬を見つめる。こんなものあってはならない。なくなってしまえばいい。全て。
「全てーー」
麻薬がボロボロと崩れ始める。男達のパイプからも煙が消え、葉っぱが消え……。
「なに……っ!」
「おい、なんだこれは!」
「こっちもだ……!」
「全部消えていく……くそっ!」
魔力を、魔法をどこまでも広げていく。使う端から魔力は溢れ出てくるので、本当に今の私には何でもできた。
視界の端で殿下が動くのが見えた。明らかに私を警戒しているのが分かった。
大丈夫ですよ、と笑いかける。私は麻薬に溺れたりしない。怒りのままに魔法は使わない。理性を失ってはいない。ただ、存在してはいけないものを、人々を苦しめるものを滅ぼしているだけ。
数秒後、私の魔力は全てに行き渡った。もうこの麻薬は存在していない。この街に、国に、世界に。魔法を解く。そして目の前の男達に再び治癒魔法をかけた。どうせ次の麻薬はもうない。放っておいても薬が切れたら苦しむだろう。だけどその数時間すらも悪事に使うことはできるから。
男達が目の前で苦しみ出す。それを見下ろす心はとても静かだった。
まだ私の中に麻薬は残っている。
「エレナ」
ゆっくりと振り返る。殿下は臨戦態勢だ。私を睨み、いつでも魔法が使えるようにしている。
「そう怖い顔をしないでくださいませ。わたくしは正気ですよ?」
微笑みかけるが、殿下は表情を全く緩めない。魔力にも全く隙がない。
「君は今普通じゃない。頼むから早く戻ってくれ」
失礼だな。私は私だ。確かに魔力は普通じゃないけど、精神は普通。何でそんなに警戒されるのだろう。
……仕方ない。
ため息をつく。魔力が溢れるのだ。便利だからもう少しこのままで、と思っていたが。
自分に治癒魔法をかける。体内の麻薬の成分は全て消え去り、途端に体が重くなった。立っていられなくて座り込むと、ユリウス殿下はすぐに駆け寄ってきた。その顔はいつも通り柔らかい。
「大丈夫かい?」
「ええ、少し体がだるいですが、他の方のように苦しむことはありません」
「1回目だからね。辛いのは何回も繰り返した後だよ」
ああ、なるほど。
「……最高で、最悪な気分でした」
「そうだろうね。僕も生きた心地がしなかったよ」
薬の抜けた今なら分かる。私は確かに普通じゃなかった。目の前のこと以外の全てがどうでもよく、細かいことなど気にもならなかった。だから今周囲を囲んでいる人たちの気配にも気が付かなかった。
殿下の様子からして今囲まれたわけではないのだろう。ずっと様子を見られていたのかもしれない。
でも残念。あなた達が欲しいものはもう既に存在しないものになったのよ。私達を襲ったって無駄。
少しだけ気配が減った。このまま主人の元へ帰ってくれたらありがたい。
意識がだんだんと薄れていく。魔力が空っぽだ。ここで倒れても迷惑じゃないかな。やっぱりもう少しあのままでいた方がよかったかな。
「それはやめて欲しいな」
口に出ていたのか、ユリウス殿下がそう言って笑った。
体温が上がる。頭がスッキリする。力が、魔力が溢れる。そして気分が高揚した。ずっと頭に渦巻いていたもやもやは綺麗さっぱり消え失せた。
「あはははっ!なるほど、これは、これはすごい……!」
訳もなく笑ってしまう。たった数秒。それだけでハマる理由が分かる。
「殿下、すごいですよ!私、今なら何でも出来る気分です……!」
今の私に不可能などない。そんな気分になった。世界が輝いている。魔力がどんどん溢れて来る。そして、何もかもが敵に見える。ユリウス殿下ですら、今にも私を攻撃して来るんじゃないか、と思える。
すごい、すごいや。これは実際に使ってみないと分からない。
「すごいだろう?どうだ?俺たちと来ればお前にもわけてやる。その代わり、その力を俺たちのために使え」
男達がギラギラとした目で私を見ていた。
ああ、それはきっと楽しい人生なのだろう。圧倒的な力を振りかざし人の上に立ち、その力で人を堕落せしめる。麻薬という名の力は私が思っていたよりも強大だった。
この力に溺れてしまえば楽だ。この力を手にすれば何でも出来る。だけどそれは私のしたいことじゃない。
「残念ながら、わたくしのこの力はもう誰のために使うか決まっておりますの!」
私の魔法は国に、命は殿下に、そして人生は民に。もう全て捧げてあるのだ。この男達に分け与えるものは何もない。
体内の成分を分析する。これだけでどのような成分があるのか、何がどんな効果をもたらしているのかが分かる。光属性の魔法の便利なところ。
使って分かる。これは存在していいものではないと。これは、絶対に持ち帰ってはならないものだと。
ユリウス殿下に視線を向ける。殿下は真っ黒な何かに包まれていて、その表情がよく見えなかった。
手の持った麻薬を見つめる。こんなものあってはならない。なくなってしまえばいい。全て。
「全てーー」
麻薬がボロボロと崩れ始める。男達のパイプからも煙が消え、葉っぱが消え……。
「なに……っ!」
「おい、なんだこれは!」
「こっちもだ……!」
「全部消えていく……くそっ!」
魔力を、魔法をどこまでも広げていく。使う端から魔力は溢れ出てくるので、本当に今の私には何でもできた。
視界の端で殿下が動くのが見えた。明らかに私を警戒しているのが分かった。
大丈夫ですよ、と笑いかける。私は麻薬に溺れたりしない。怒りのままに魔法は使わない。理性を失ってはいない。ただ、存在してはいけないものを、人々を苦しめるものを滅ぼしているだけ。
数秒後、私の魔力は全てに行き渡った。もうこの麻薬は存在していない。この街に、国に、世界に。魔法を解く。そして目の前の男達に再び治癒魔法をかけた。どうせ次の麻薬はもうない。放っておいても薬が切れたら苦しむだろう。だけどその数時間すらも悪事に使うことはできるから。
男達が目の前で苦しみ出す。それを見下ろす心はとても静かだった。
まだ私の中に麻薬は残っている。
「エレナ」
ゆっくりと振り返る。殿下は臨戦態勢だ。私を睨み、いつでも魔法が使えるようにしている。
「そう怖い顔をしないでくださいませ。わたくしは正気ですよ?」
微笑みかけるが、殿下は表情を全く緩めない。魔力にも全く隙がない。
「君は今普通じゃない。頼むから早く戻ってくれ」
失礼だな。私は私だ。確かに魔力は普通じゃないけど、精神は普通。何でそんなに警戒されるのだろう。
……仕方ない。
ため息をつく。魔力が溢れるのだ。便利だからもう少しこのままで、と思っていたが。
自分に治癒魔法をかける。体内の麻薬の成分は全て消え去り、途端に体が重くなった。立っていられなくて座り込むと、ユリウス殿下はすぐに駆け寄ってきた。その顔はいつも通り柔らかい。
「大丈夫かい?」
「ええ、少し体がだるいですが、他の方のように苦しむことはありません」
「1回目だからね。辛いのは何回も繰り返した後だよ」
ああ、なるほど。
「……最高で、最悪な気分でした」
「そうだろうね。僕も生きた心地がしなかったよ」
薬の抜けた今なら分かる。私は確かに普通じゃなかった。目の前のこと以外の全てがどうでもよく、細かいことなど気にもならなかった。だから今周囲を囲んでいる人たちの気配にも気が付かなかった。
殿下の様子からして今囲まれたわけではないのだろう。ずっと様子を見られていたのかもしれない。
でも残念。あなた達が欲しいものはもう既に存在しないものになったのよ。私達を襲ったって無駄。
少しだけ気配が減った。このまま主人の元へ帰ってくれたらありがたい。
意識がだんだんと薄れていく。魔力が空っぽだ。ここで倒れても迷惑じゃないかな。やっぱりもう少しあのままでいた方がよかったかな。
「それはやめて欲しいな」
口に出ていたのか、ユリウス殿下がそう言って笑った。
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