58 / 118
麻薬の力
しおりを挟む
飲み込んだ直後は何の変化もなかった。しかし数秒経てばそれは始まった。
体温が上がる。頭がスッキリする。力が、魔力が溢れる。そして気分が高揚した。ずっと頭に渦巻いていたもやもやは綺麗さっぱり消え失せた。
「あはははっ!なるほど、これは、これはすごい……!」
訳もなく笑ってしまう。たった数秒。それだけでハマる理由が分かる。
「殿下、すごいですよ!私、今なら何でも出来る気分です……!」
今の私に不可能などない。そんな気分になった。世界が輝いている。魔力がどんどん溢れて来る。そして、何もかもが敵に見える。ユリウス殿下ですら、今にも私を攻撃して来るんじゃないか、と思える。
すごい、すごいや。これは実際に使ってみないと分からない。
「すごいだろう?どうだ?俺たちと来ればお前にもわけてやる。その代わり、その力を俺たちのために使え」
男達がギラギラとした目で私を見ていた。
ああ、それはきっと楽しい人生なのだろう。圧倒的な力を振りかざし人の上に立ち、その力で人を堕落せしめる。麻薬という名の力は私が思っていたよりも強大だった。
この力に溺れてしまえば楽だ。この力を手にすれば何でも出来る。だけどそれは私のしたいことじゃない。
「残念ながら、わたくしのこの力はもう誰のために使うか決まっておりますの!」
私の魔法は国に、命は殿下に、そして人生は民に。もう全て捧げてあるのだ。この男達に分け与えるものは何もない。
体内の成分を分析する。これだけでどのような成分があるのか、何がどんな効果をもたらしているのかが分かる。光属性の魔法の便利なところ。
使って分かる。これは存在していいものではないと。これは、絶対に持ち帰ってはならないものだと。
ユリウス殿下に視線を向ける。殿下は真っ黒な何かに包まれていて、その表情がよく見えなかった。
手の持った麻薬を見つめる。こんなものあってはならない。なくなってしまえばいい。全て。
「全てーー」
麻薬がボロボロと崩れ始める。男達のパイプからも煙が消え、葉っぱが消え……。
「なに……っ!」
「おい、なんだこれは!」
「こっちもだ……!」
「全部消えていく……くそっ!」
魔力を、魔法をどこまでも広げていく。使う端から魔力は溢れ出てくるので、本当に今の私には何でもできた。
視界の端で殿下が動くのが見えた。明らかに私を警戒しているのが分かった。
大丈夫ですよ、と笑いかける。私は麻薬に溺れたりしない。怒りのままに魔法は使わない。理性を失ってはいない。ただ、存在してはいけないものを、人々を苦しめるものを滅ぼしているだけ。
数秒後、私の魔力は全てに行き渡った。もうこの麻薬は存在していない。この街に、国に、世界に。魔法を解く。そして目の前の男達に再び治癒魔法をかけた。どうせ次の麻薬はもうない。放っておいても薬が切れたら苦しむだろう。だけどその数時間すらも悪事に使うことはできるから。
男達が目の前で苦しみ出す。それを見下ろす心はとても静かだった。
まだ私の中に麻薬は残っている。
「エレナ」
ゆっくりと振り返る。殿下は臨戦態勢だ。私を睨み、いつでも魔法が使えるようにしている。
「そう怖い顔をしないでくださいませ。わたくしは正気ですよ?」
微笑みかけるが、殿下は表情を全く緩めない。魔力にも全く隙がない。
「君は今普通じゃない。頼むから早く戻ってくれ」
失礼だな。私は私だ。確かに魔力は普通じゃないけど、精神は普通。何でそんなに警戒されるのだろう。
……仕方ない。
ため息をつく。魔力が溢れるのだ。便利だからもう少しこのままで、と思っていたが。
自分に治癒魔法をかける。体内の麻薬の成分は全て消え去り、途端に体が重くなった。立っていられなくて座り込むと、ユリウス殿下はすぐに駆け寄ってきた。その顔はいつも通り柔らかい。
「大丈夫かい?」
「ええ、少し体がだるいですが、他の方のように苦しむことはありません」
「1回目だからね。辛いのは何回も繰り返した後だよ」
ああ、なるほど。
「……最高で、最悪な気分でした」
「そうだろうね。僕も生きた心地がしなかったよ」
薬の抜けた今なら分かる。私は確かに普通じゃなかった。目の前のこと以外の全てがどうでもよく、細かいことなど気にもならなかった。だから今周囲を囲んでいる人たちの気配にも気が付かなかった。
殿下の様子からして今囲まれたわけではないのだろう。ずっと様子を見られていたのかもしれない。
でも残念。あなた達が欲しいものはもう既に存在しないものになったのよ。私達を襲ったって無駄。
少しだけ気配が減った。このまま主人の元へ帰ってくれたらありがたい。
意識がだんだんと薄れていく。魔力が空っぽだ。ここで倒れても迷惑じゃないかな。やっぱりもう少しあのままでいた方がよかったかな。
「それはやめて欲しいな」
口に出ていたのか、ユリウス殿下がそう言って笑った。
体温が上がる。頭がスッキリする。力が、魔力が溢れる。そして気分が高揚した。ずっと頭に渦巻いていたもやもやは綺麗さっぱり消え失せた。
「あはははっ!なるほど、これは、これはすごい……!」
訳もなく笑ってしまう。たった数秒。それだけでハマる理由が分かる。
「殿下、すごいですよ!私、今なら何でも出来る気分です……!」
今の私に不可能などない。そんな気分になった。世界が輝いている。魔力がどんどん溢れて来る。そして、何もかもが敵に見える。ユリウス殿下ですら、今にも私を攻撃して来るんじゃないか、と思える。
すごい、すごいや。これは実際に使ってみないと分からない。
「すごいだろう?どうだ?俺たちと来ればお前にもわけてやる。その代わり、その力を俺たちのために使え」
男達がギラギラとした目で私を見ていた。
ああ、それはきっと楽しい人生なのだろう。圧倒的な力を振りかざし人の上に立ち、その力で人を堕落せしめる。麻薬という名の力は私が思っていたよりも強大だった。
この力に溺れてしまえば楽だ。この力を手にすれば何でも出来る。だけどそれは私のしたいことじゃない。
「残念ながら、わたくしのこの力はもう誰のために使うか決まっておりますの!」
私の魔法は国に、命は殿下に、そして人生は民に。もう全て捧げてあるのだ。この男達に分け与えるものは何もない。
体内の成分を分析する。これだけでどのような成分があるのか、何がどんな効果をもたらしているのかが分かる。光属性の魔法の便利なところ。
使って分かる。これは存在していいものではないと。これは、絶対に持ち帰ってはならないものだと。
ユリウス殿下に視線を向ける。殿下は真っ黒な何かに包まれていて、その表情がよく見えなかった。
手の持った麻薬を見つめる。こんなものあってはならない。なくなってしまえばいい。全て。
「全てーー」
麻薬がボロボロと崩れ始める。男達のパイプからも煙が消え、葉っぱが消え……。
「なに……っ!」
「おい、なんだこれは!」
「こっちもだ……!」
「全部消えていく……くそっ!」
魔力を、魔法をどこまでも広げていく。使う端から魔力は溢れ出てくるので、本当に今の私には何でもできた。
視界の端で殿下が動くのが見えた。明らかに私を警戒しているのが分かった。
大丈夫ですよ、と笑いかける。私は麻薬に溺れたりしない。怒りのままに魔法は使わない。理性を失ってはいない。ただ、存在してはいけないものを、人々を苦しめるものを滅ぼしているだけ。
数秒後、私の魔力は全てに行き渡った。もうこの麻薬は存在していない。この街に、国に、世界に。魔法を解く。そして目の前の男達に再び治癒魔法をかけた。どうせ次の麻薬はもうない。放っておいても薬が切れたら苦しむだろう。だけどその数時間すらも悪事に使うことはできるから。
男達が目の前で苦しみ出す。それを見下ろす心はとても静かだった。
まだ私の中に麻薬は残っている。
「エレナ」
ゆっくりと振り返る。殿下は臨戦態勢だ。私を睨み、いつでも魔法が使えるようにしている。
「そう怖い顔をしないでくださいませ。わたくしは正気ですよ?」
微笑みかけるが、殿下は表情を全く緩めない。魔力にも全く隙がない。
「君は今普通じゃない。頼むから早く戻ってくれ」
失礼だな。私は私だ。確かに魔力は普通じゃないけど、精神は普通。何でそんなに警戒されるのだろう。
……仕方ない。
ため息をつく。魔力が溢れるのだ。便利だからもう少しこのままで、と思っていたが。
自分に治癒魔法をかける。体内の麻薬の成分は全て消え去り、途端に体が重くなった。立っていられなくて座り込むと、ユリウス殿下はすぐに駆け寄ってきた。その顔はいつも通り柔らかい。
「大丈夫かい?」
「ええ、少し体がだるいですが、他の方のように苦しむことはありません」
「1回目だからね。辛いのは何回も繰り返した後だよ」
ああ、なるほど。
「……最高で、最悪な気分でした」
「そうだろうね。僕も生きた心地がしなかったよ」
薬の抜けた今なら分かる。私は確かに普通じゃなかった。目の前のこと以外の全てがどうでもよく、細かいことなど気にもならなかった。だから今周囲を囲んでいる人たちの気配にも気が付かなかった。
殿下の様子からして今囲まれたわけではないのだろう。ずっと様子を見られていたのかもしれない。
でも残念。あなた達が欲しいものはもう既に存在しないものになったのよ。私達を襲ったって無駄。
少しだけ気配が減った。このまま主人の元へ帰ってくれたらありがたい。
意識がだんだんと薄れていく。魔力が空っぽだ。ここで倒れても迷惑じゃないかな。やっぱりもう少しあのままでいた方がよかったかな。
「それはやめて欲しいな」
口に出ていたのか、ユリウス殿下がそう言って笑った。
0
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる