ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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真夜中のサンドイッチ

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目を開けると周りは薄暗かった。夕方かな、とぼんやり思ったが、まだ眠たい。殿下がそこに座っている。


「起きたかい?」


起きてない。返事をせず、ただ見つめていると殿下は微笑んだ。目がしぱしぱする。


「お腹が空いたら何か準備するよ」


ああ、もう晩御飯の時間か。この数日で体重がかなり減った気がする。ずっと食欲がなかったから。食べないと。そう思ったが眠気には勝てなかった。

まだ寝たい。殿下だって昨夜は寝てないんだから、少し寝たらいいのに。

手を伸ばすと、殿下は不思議そうにしながらもこちらへ手を伸ばした。その手を握り、引っ張る。ベッドへと倒れ込んだ殿下は驚いたような顔をしていた。相変わらずかっこいい顔だ。

殿下の腕の中に潜り込むと、あたたかくてもうダメだった。



パタン、という扉の音にはっとして目を開けると、真っ暗で何も見えなかった。今誰かがいた気がする。

ユリウス殿下の腕から抜け出し、体を起こしたが人の気配はない。


「何か置いていってくれたみたいだね」


殿下の声だった。いつから起きていたのだろうか。私が起きる前からか。暗い中では分からなかった。

部屋の中が薄暗くなる。殿下が明かりの魔法陣を起動したようだ。室内が見える程度の暗さ。急に明るくなると眩しいので助かる。

お腹が空いている。時計を見ると真夜中だった。確か寝たのはお昼過ぎくらい。シャワーを浴びて、お昼ご飯を待っている間に寝てしまったようだ。朝ご飯から後、何も食べていない私はもうすっかり胃が空っぽだ。


「寝過ぎてしまいました。すみません」

「魔力がほとんどなかったんだから仕方ないよ。だけど流石、もうほとんど回復しているね」


ああ、だから体が軽いのか。頭もすっきりしている。ユリウス殿下が起き上がり、机のほうを見た。そこにはサンドイッチが置かれている。


「食べましょう」


いっぱい寝たので、あとは食べたら完全復活だ。

殿下が魔法でいれてくれたお茶を飲み、私はサンドイッチに手を伸ばした。私の大好きなハムのサンドイッチだった。


「ところで、殿下」


食べながら喋るのは行儀が悪いけど許してもらおう。私は静かな食事の時間というのは苦手だ。だからいつもはクリスが喋ってくれて助かっている。


「わたくし、言わないといけないことがございますの」


実はずっと言おうか迷っていた。このことは他の貴族には絶対に言えない。あの街では誰が聞いているか分からなかったけど、ここだったら大丈夫だろう。


「あの麻薬ですが、成分の分析をした結果、薬草を数十種類合わせると同じ効果の物が作れる事が分かりました。このお城にあるものだけですぐに作る事ができます」

「……それはまた、厄介な情報だね」


殿下は苦笑した。他に言葉が出なかったのだろう。困っているように見えるのはなぜだろうか。作用を弱めて作れば結構使える物になりそうなのに。

ユリウス殿下はサンドイッチを皿に置き、ため息をついた。便利だ、と喜んでくれるかと思ったが、どうやら困らせてしまったようだ。


「ユリウス殿下が駄目だと言うなら作りませんよ?」

「うん、まあ……そうだね」


歯切れの悪い返事だ。珍しい。何かを考えるように黙り込んだ殿下を、私はサンドイッチを齧りながら見る。

いつの間にか部屋は完全に明るくなっていた。


「君があれを摂取した時、なんの魔法を使ったか、自分で分かるかい?」


あの時の魔法というと、麻薬を消したあれだろう。私はただあれは存在してはいけないものだと思っただけで、何の魔法かなんて知らない。


「いいえ。使ったことのない魔法だったとしか」


私の知らない魔法だったのは確実。それ以上のことは知らない。


「少し確かめたい事があるから、明日にでも2.3個作ってくれるかい?」


殿下がそう言うなら拒否する理由はない。「分かりました」と頷くと、殿下はサンドイッチを食べた。


「麻薬の作用が現れている時、どんな感じだった?あれは正気だった?」

「ええ、魔力が溢れて力が湧いて、頭がすっきりしてました。気分が高揚してはいましたが、冷静であったと思います」


実際周りのことはよく見えたし、感情に振り回されるような魔法の使い方でもなかったと思う。多分。

殿下からはどう見えたのだろう。聞こうと思ったが、私が言葉を発する前に殿下が口を開いた。


「それなら良かったよ」


それはどう見ても「良かった」と言う顔ではなかった。

……私何かやらかしたんだろうな。

側から見ていた自分がどんなだったのか、聞くのも怖いし知りたくもないので私は口を閉じて、お茶を啜った。

お腹が満たされたらまた眠たくなってきた。
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