ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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「君は外」


ユリウス殿下に簡潔にそう言われたクリスは「えー!」と不満そうな声を出した。


「ごめんなさい、クリス」


そう言って私は部屋へと入った。床から天井まで、壁にびっしりとある引き出し。その中は全て薬草だ。私が薬作る時に使う部屋。いつもはクリスも一緒に入るが、今回ばかりは見せるわけにはいかない。


「もー、待ってるから早くしてよ」


扉を閉めると部屋の中で殿下と二人きりになる。


「監視はないね。魔法の気配もない」

「では作りましょうか」


絶対に作り方を漏らせない薬。例の麻薬と同じ効果を得る薬を今から作る。

必要な薬草を一つずつ言うと、その度に引き出しが一つ開いて薬草がフワフワと飛んできた。魔法は便利。だけど何よりも、どの薬草がどこにあるかを把握している殿下がすごすぎる。

材料を全て一つの容器へ入れ、魔法を使う。光属性の、薬を作る魔法だ。いつもとは違い、魔力がグングン減っていくのが分かる。出来上がった頃には魔力は半分ほど減っていた。

いつも作る薬は千回分作っても一割ほどの魔力で足りることを考えると、たった三回分しか作っていないこの薬はかなりやばめなことが分かる。


「出来たね。じゃあ行こうか」

「はい」


部屋を出るとクリスが「お疲れ」と一言。そのまま三人で歩き出す。薬は殿下が持っているので、誰かに取られることは万に一つもない。


「今日は何するんです?」


クリスの問いに殿下は言った。「着いたら分かるよ」と。



そして向かった先は王都からだいぶ離れた原っぱだった。窓からは草と少しの木以外のものは何も見えない。

止まった馬車から降りると、そこにはよく知った人たちがいた。

カイとリリー、ベアトリクス、ヘンドリックお兄様、クルトお兄様、ヨハン、ヴェルナー様。

何このメンツ。


「戦争でもするのかな?」


コソコソっとクリスが言う。確かに前の三人以外はこの国でもトップレベルに強い人たちだ。そこに私とユリウス殿下が入れば完璧だろう。


「相手が誰でも何人来ても負ける気がしないわね」


そんなことを話す私たちの横を、ユリウス殿下はすり抜けて前に出た。


「急に呼びつけてすまない。これからすることは他言無用だ」


皆が神妙な顔つきで頷く。私とクリスは顔を見合わせた。あの殿下が『すまない』なんて、謝るなんて。


「例の麻薬だが、先日エレナが消し去ったことは皆も聞いているだろう」


殿下はさっき私が作った薬を取り出した。


「そして、これはあれと同じ効果を持つ薬だ」

「兄上!?それはどういうことですか?」


皆が驚きの表情を浮かべる中、カイが代表して言った。


「エレナが作った。今日はこれの実験をする」


実験って、実際に飲むってことだよね。だからこんな腕利きばっかりを集めたんだな。すごい納得。


「薬は三人分。誰が飲むのです?」


殿下にそう聞くと、殿下は微笑んだ。


「一つは僕。一つは君。もう一つはどうしようか?」


え、私また飲むの?もういいんだけど。

しかし殿下が言い切ったのだ。嫌と言うことは簡単だけど、必要なのかもしれない。


「一昨日皆も感じただろう?あれは麻薬を摂取したエレナの魔力だ」


明らかに驚いているのは三人。ヘンドリックお兄様とヨハンとベアトリクス。クリスは「あー、あれゾワっとしたよね」と、カイとリリーと話している。ヴェルナー様は「何か感じたか?」とクルトお兄様に聞き、クルトお兄様も首を振った。

おお、面白いほど綺麗に分かれている。


「嘘でしょう?あれはエレナ様の魔力じゃ……」


ベアトリクスが愕然として殿下を見ていた。殿下は無言で頷く。

そして沈黙。少ししてヘンドリックお兄様が言った。


「なぜ私達が呼ばれたのかは分かりました。残りの一つはクリスに飲ませましょう」

「ええっ!?私ですか?ヘンドリック様が飲めば良いじゃないですか!」


よく分からないながらもクリスはあまり良くない雰囲気を感じ取っているようだ。


「魔力や魔法に関して私やヨハンではあまり参考にならない。お前くらいがちょうどいい」


確かにヘンドリックお兄様やヨハンは魔力も多いし魔法にも長けている。どちらかと言うとこちら寄りだ。その点、クリスは人よりは魔法を使うことはできるが、『魔法が得意な一般人』レベルだ。王都でも探せば何十人か見つかるだろう。

おそらくこれを飲んだ時の変化、主に魔力の変化を見たいのだろうから、クリスかカイくらいがいいのかもしれない。ヴェルナー様とクルトお兄様は全く魔法が使えないし。


「安心してちょうだい。何かあったらすぐに止めてあげるから」

「……まあいいけどさー」


人選が終わった。殿下は頷き、クリスへと一つ手渡す。


「なんか怖いんだけど」


そう言うクリスに私は言う。


「大丈夫よ。どちらかと言えば楽しいから」


あの時の気分の高揚感はすごかった。他にはない癖になりそうな感じ。きっとクリスは楽しむ事ができるだろう。


「はい、離れて」


殿下の言葉に、クリスを囲んで皆が一定の距離を取って囲んだ。カイとリリーはすこし離れた場所に。ベアトリクスは私と殿下のそばに。あとの四人は一定間隔に。


「じゃあ飲みますよー」


クリスはそう宣言して一気に飲み干した。
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