ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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実験

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見た目には変わらない。それは少し時間が経っても同じだった。


「どう?何か違う?」


クリスはじっと自分の体を見下ろして言った。


「なんか体が軽い気がする!」


ああ、効果は出ているようだ。

クリスがくるくるとまわる。機嫌がとても良さそうだ。


「あははは、なんか楽しいかも……!」


隣の殿下が「はずれだな」と呟くのが聞こえた。


「ベアトリクス、魔力に変化はあるかしら?」


ベアトリクスは変わらない表情で頷いた。


「魔力の変質はありません。量が少し増えましたが、1.5倍にもなっていない程度に見えますわ」


うん、なんとなく分かる。基本的にいつものクリスとそう変わらない。気配も同じだし、いつもよりも少しテンションが高いくらい。


「エレナー!ほんと、これたのしーね!」

「そうでしょう」


他に言葉が出てこなくてそう言っておく。ユリウス殿下は「ちなみに」と私を見た。


「あの薬の強さはどの程度かい?」

「先日わたくしが摂取した物の二割ほど弱めに作ってあります」

「強く作ることも可能かい?」

「ええ」


クリスが魔法を使う気配がした。と、同時に突風が吹いた。


「きゃあっ!」

「うわ!」


ベアトリクスがさっと座り込み、カイとリリーが風に倒れる。私もふらついたが、殿下が支えてくれてなんとか立っていられた。


「魔法の威力はいつもの比じゃなさそうね」

「魔力の消費もほとんどないようですわ」


ベアトリクスの言葉に頷く。魔力の消費が少ないわけではない。魔力がどんどん湧いてくるから、そう見えるだけだろう。


「分かった。もういいよ」


ユリウス殿下がそう言ったのを聞き、私はその場からクリスへと治癒魔法をかけた。クリスの動きがピタッと止まる。


「もう終わり?」

「ええ、楽しかったでしょう?」


クリスがケロリとした顔でこちらへ歩いて来た。私はあの後ヘロヘロだったというのに。


「うん。すごいね、あんな大きい魔法使ったのに、魔力が半分くらいしか減ってないよ」

「ちなみになんだけど、皆の魔力は見えた?」


声を落としてそう聞く。ユリウス殿下とベアトリクスには聞こえたのだろう。二人がクリスを見た。


「え?ううん、そんなのは全然」


嘘はついていないだろう。本当に見えなかったのだ。それならあの時の私が殿下に見た黒いあれは魔力じゃなかったのだろうか。

ユリウス殿下は何も言わずに前に出た。


「じゃあ次は僕だね。エレナ、もしもの時は頼むよ」


その『もしも』は起こらないように願いたい。殿下が暴れるような事があれは私だって魔法を使う隙もないかもしれない。

ユリウス殿下は皆の中心に立った。私は一応クリスとベアトリクスの前に立つ。殿下には勝てるわけがないけど、私には攻撃をしてこないと信じて。

殿下は薬を飲んだ。少し経ってものすごい魔力を感じる。

なんか体がびりびりする気がする。殿下が正気を保ってくれないとこれはやばそう。

不意に腕を掴まれた。見ると、ベアトリクスが縋るように私の腕を持ち、震えている。他の皆も顔色が悪い。かろうじて立っているといった感じだ。


「ベアトリクス、何が見えますの?」


真っ青な顔をして震えるベアトリクスをできるだけ後ろに庇うようにして聞くが、ベアトリクスは答えなかった。いや、答えられなかった。恐怖で声が出ないようだ。


「クリス、どう思う?」

「……ほんとに私が飲んだのと同じ薬?」


比較的平気な顔をしているクリスは、笑うしかないと言うように引きつった笑みを浮かべた。

同じ薬のはずなんだけど。一緒に作ったし。

「魔王だよ」とクリスは呟いた。思わず笑ってしまったが、笑い事ではないかもしれない。


「ユリウス殿下」


殿下を呼んでみる。皆がギョッとした顔で私を見た。皆が皆、下手に刺激するな、とでも言いたそうだ。だってどうなってるか分からないし。

殿下はゆっくり私の方を見る。その表情はいつも通りだった。


「ご気分はいかがですか?」

「……気を抜くと我を忘れてしまいそうだよ」


あらら、それは大変だ。念のため、皆の前に結界を張って、殿下の方へ近付く。


「エ、エレナ!それはやばい……!」


クリスが私の手首を掴んで止めた。と同時に更なる魔力が襲ってきた。クリスが思わずと言ったように手を離した。


「僕のエレナに触れるな」


わお、いつにも増しての独占欲だ。ちょっと止めて欲しい。鋭い眼光でクリスを睨む殿下。ため息をついて近寄ると、殿下は微笑んでいた。


「あの時の殿下のお気持ちはよく分かりましたわ」


私が麻薬を食べた時、殿下はすごく警戒していた。なんでそんなに、と思ったが今理解した。


「怖くないのかい?」

「ええ、まあ。何を飲もうとユリウス殿下はユリウス殿下ですし」


ユリウス殿下は柔らかな笑みを浮かべた。表情と魔力のギャップがすごい。


「ごめんね、魔力が制御できなくて。抑えるので精一杯だよ」


殿下に制御できないというのはものすごい大変なことだ。クリスの時はそうでもなかったみたいだけど、元の魔力量が関係しているのか、効き目は個人差があるのか。


「魔力は見えますか?」


殿下は目を細めて私を見た。


「意識してみれば見えるね。君は微かに光っている」


ベアトリクスは以前、私の魔力は金色だと言った。光っている、というのは少し違う気がするが、間違いでもないのかもしれない。


「多分ベアトリクスほどはっきりは見えてないね」

「そうですか」


実験はもういいのだろうか。向こうのほうでカイがぐったりとしているのが見える。殿下の魔力にあてられたのだろう。ベアトリクスも限界そうだ。


「どうしますか?魔法使ってみます?」


せっかく薬を飲んだのだ。試してみるのもいいかもしれない。その場合は使う魔法に気をつけて欲しいけど。

殿下は首を振った。


「今魔法を使ったら王都がなくなってしまいそうだからね」


サラッと恐ろしいことを言う殿下に、私は言葉が出てこなかった。
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