ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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皇后陛下とのお茶会

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「お久しぶりですね、エレナ」


目の前で笑う超絶美人。私はただひたすら作った笑顔を浮かべることしかできなかった。


ことの発端は殿下の一言。「母上に会おう」と。そして私は気が付いた。結婚してからも、結婚する前も皇后陛下に挨拶をしていなかったこと。というか、八歳の頃に一度会ったきりだということ。

あろうことか、私はすっかり忘れていたのだ。よくよく思い出してみると私と殿下の婚約パーティーの時は皇后陛下もいたのかもしれない。……いや、やっぱりいなかったかも?

そして殿下がすぐに皇后陛下へ会いたい、という趣旨の魔法を送り、皇后陛下が、カイとリリーも誘ってお茶会をしよう、と言い今日に至る。


「あんなに小さかったエレナが、こんなに綺麗になって……時が経つのは早いものですね」


いえ、あの、お世辞とか大丈夫です。皇后陛下に綺麗と言われても信じられない。隣にはこれまた綺麗なリリーがいるのだ。エレナの顔も悪くはない。整っている方だとは思う。でも周囲がレベチすぎるせいで、見劣りするのだ。

リリーとても自然な笑顔を浮かべていた。もちろん、ユリウス殿下とカイも緊張など全く見えない。つまり、私だけがこんなに緊張しているのである。


「あ、あの、今までご挨拶もせず申し訳ございません……」


小さくなってそう言う私に、皇后陛下は「気にしなくていいのよ」と朗らかに笑った。

以前皇后陛下に会った時はとっても上品で静かな方だな、と思っていたが、こうして見ると意外と快活な方なのかもしれない。少しホッとする。


「ところで、ユリウス。あなたから会いたいと言うのは珍しいわね」


ユリウス殿下は「はい」と頷いた。いつも他人には作り笑いを浮かべる殿下が自然な笑顔だ。こうして見ると本当に親子なのだなと思う。


「少々困ったことが起こりまして、母上に口添えいただけたら、と思います」


そう切り出した殿下はざっくりと事のあらましを話した。


「あらまあ!」


話を聞いた皇后陛下の第一声はそれだった。そして「陛下にはわたくしから言っておくわ」と。なんとも頼もしい方だ。


「エレナ、あなたが各地でしたことは、一つ一つはほんの些細なことかもしれませんが、民達の心に強く残っているようです。あなたはここにいるよりも外に出た方がいいとわたくしは思います」


なんていい人……!

最初は「フラフラして!」と怒られたらどうしようかと不安だったけど杞憂だった。


「……母上はそうやってご自分を正当化されておられるだけでしょう?」 


カイが言った。よく意味が分からない私は首を傾げる。


「わたくしだって遊びに行っているわけではないのよ。ちゃんと仕事をしているもの」


ん?どこへ?なんの話?

話についていけないのは私だけなのだろうか。カイは「この際言わせていただきますけど」と明らかに文句を言う時の声のトーンで言った。


「母上も兄上も出てしまうとその皺寄せが全て父上と私とリリーに来るのです。お願いですからどちらかは残られてください……!」

「あ、あの……?」


隣に座る殿下にこそっと聞くと、殿下は微笑んだ。


「つまりね、母上も僕達も同じようなことをしているんだよ」


私たちと同じようなこと。話の流れ的に皇后陛下もお城にいないってことだよね?

……なるほど、皇后陛下が普段お城にいないから私は会うことがなかったのか。しかし旅先はおろか、王都ですら皇后陛下の話は聞いたことがない。私たちは結構有名人なのに。

考えていると殿下は「母上はお忍びだからね」と微笑んだ。なるほど。


「カイ、お城で上がってきた報告を読むよりも現場に出た方が色々なことが分かるのよ」

「それは分かります。ですが机の上にも仕事はございます」


カイのお小言モードだ。久しぶりに見た。皇后陛下はカイの言葉を聞いているのか聞いていないのか、私を見て微笑んだ。


「エレナ、わたくし達はとても似ていると思わない?」


似ている?机仕事よりも外に出たいところとか?


「ええ……」


なんと言ったらいいか分からず、言葉を濁すが、皇后陛下は全く気にした様子を見せない。


「わたくしたちはきっと、とても仲良くなれると思うの」


それは私だって仲良くできるならそれに越したことはない。だけどどうして急にそんなことを言うのだろう。ユリウス殿下が「嫌な予感がするな」と呟いた。


「エレナ、わたくしと一緒に行きましょう?」


え?皇后陛下と?今のカイの話は?

話についていけない。


「わたくし、戦闘力は全くと言っていいほどないのよ。だから今まで戦闘を必要とする件はあなた達にまわしていたのだけど……」


ん?私たちにまわしていた?

考えて思い当たった。旅の途中でユリウス殿下が急に行き先を変更することが度々あった。そしてそこに行くと、問題の大きさの割に被害が少ない場合が多かった。不思議に思っていたが、あれは皇后陛下が最低限の手だけは打って殿下に行くように指示していたのかもしれない。


「エレナが一緒だととても心強いわ」

「母上、私の話は聞いておられなかったのです?」


カイが不満そうに言い、皇后陛下は微笑みを浮かべた。そしてユリウス殿下を見る。


「ユリウス、あなたが残りなさい。エレナはわたくしに任せてもらって構わないわ」


皇后陛下は笑顔でとんでもないことを言ったのだった。
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