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誕生秘話
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「嫌ですよ」
即座に答えたのはユリウス殿下。私は言葉が出てこない。皇后陛下は思っていた以上に変わった方だ。リリーはずっとニコニコしている。皇后陛下の性格を知っているようだ。王都にずっといるリリーは皇后陛下が帰還した時に会っていたのだろうか。
「僕はエレナと離れませんよ」
「あら、わたくしの口添えがないとあなた達は出られないのでしょう?」
うっ……それは困る。でも殿下を置いて行くのも困る。何でも知っている殿下がいたからこそ私たちの旅は成り立っていたところがあるのだ。皇后陛下がいるとはいえ、殿下が一緒じゃないと不安。
「おどしですか?」
ユリウス殿下が微笑む。皇后陛下も微笑む。
「そうは言っていないわ」
二人の間に火花が見える。それにしてもこの二人似ている。微笑んだ顔が全く同じ。って違う。
どうしたらいいの、とオロオロしていると、リリーは私を見て微笑んだ。「大丈夫ですよ」と。
「母上、そもそも世継ぎ問題は母上の責任でもあることを自覚してくださいね」
え、いや、それを言うのは良くないんじゃないの?ナーバスな問題だよ。皇后陛下だってもっと子供が欲しかったんだろうし。
「……分かったわよ」
皇后陛下はため息をついた。
え、え、え……。
慌てて言葉を探したが、この場で発するにふさわしい言葉は何も思い浮かばなかった。
「ではよろしくお願いしますね」
ユリウス殿下は勝者の笑みを浮かべた。
皇后陛下が席を立ち、私たち四人が残された。このメンバーだったら緊張しない。ほっと息を吐くと、リリーが言った。
「こうしてゆっくりお話しするのもお久しぶりですね」
「ええ、本当に。嬉しいですわ」
にっこりと笑うとリリーもにっこりと笑った。かわいい。カイが立ち上がる。
「私は先に戻るよ」
仕事が溜まっているのだろう。私は自分の分の書類を片付けてきたし、何かあったらクリスにお願いしてきたが、カイは特に忙しい。
リリーが慌てて立ち上がる。そうだよね、もっと話したかったけど仕方ないよね。諦めた時だった。
「リリーはゆっくりしておいで」
カイは爽やかな笑みを浮かべ、立ち去った。とても眩しかった。さすがメイン攻略対象。かっこ良すぎる。普段忙しい妻への対応として満点だ。リリーはカイの背中を見て、座り直した。
「殿下はとてもお優しいですね」
リリーは「ええ」と頷く。
二人の夫婦関係が垣間見えた。カイもリリーも優しいから、きっとお互いを気遣い合いながら上手くいっているのだろう。……下手したら私たちよりも。
ユリウス殿下を見ると、殿下も私の視線に気付いてこちらを見た。
「皇后陛下への先程の言葉は少し気遣いが足りなかったのでは、と思いますが」
殿下は首を傾げた。
「世継ぎ問題は皇后陛下の責任でもある、という言葉です」
殿下は少し考える素振りをして、くすくすと笑った。何が面白いのか。少しムッとした。そんな私を見てさらに笑う殿下。
「母上は子を産めなかったのではなく、産まなかったんだよ」
うん?
「母上が王都にいないのに、子が産まれるわけがないだろう?」
うん?
「父上と母上の日常は結婚当初から今まで全くと言っていいほど変わってないんだよ」
「つ、つまり、殿下方お二人しかいないのは、子ができないとか産めないとか、身体的な理由ではなく、皇后陛下が王都にいらっしゃらなかったから、ということですの?」
ユリウス殿下にリリーも頷いた。
……なんやねん。
思わず関西弁になってしまった。拍子抜けだ。
「まあ、だから父上も僕達が自分達と同じようになるんじゃないか、と心配を抱いているわけだよ」
なるほど、納得。
ユリウス殿下は「それじゃ」と立ち上がった。
「僕も仕事を片付けてくるよ」
「はい」
殿下の後ろ姿をなんとなく眺めていると、リリーが言った。
「エレナ様はお子様が欲しいとは思わないのですか?」
子供が欲しいかなんて考えたことはない。ただいずれは産まないといけないんだろうな、と思うだけ。
「そうですね、産まなくていいのなら産まないかもしれません」
リリーが微笑みを浮かべて首を傾げた。
「どうして?」
どうして?
その問いへの答えは持っていなかった。
「……リリー様はどうして子供を産んだのですか?」
反対にリリーにそう聞くと、リリーはいたずらっぽく微笑んだ。
「できたからです」
え?何その理由。ポカンとするとリリーはさらに言った。
「私はエレナ様を尊敬していて、カイ様もお義兄様を尊敬されてます」
おにいさま。少し考えてそれがユリウス殿下のことだと気が付いた。
「だからお二人のお子様が産まれるのを待とうかとも考えておりました」
いやいやいや、そんなの初耳なんだけど!?そんな理由で出産を遅らせるなんて論外だ。私たちの子供なんて影も形もないのに。
「そんな折に妊娠が発覚し、出産に至ったのです」
……リリーが妊娠してよかった。
思わぬレオナ様誕生日秘話にドキドキしながらも、ほっと息をついた。
即座に答えたのはユリウス殿下。私は言葉が出てこない。皇后陛下は思っていた以上に変わった方だ。リリーはずっとニコニコしている。皇后陛下の性格を知っているようだ。王都にずっといるリリーは皇后陛下が帰還した時に会っていたのだろうか。
「僕はエレナと離れませんよ」
「あら、わたくしの口添えがないとあなた達は出られないのでしょう?」
うっ……それは困る。でも殿下を置いて行くのも困る。何でも知っている殿下がいたからこそ私たちの旅は成り立っていたところがあるのだ。皇后陛下がいるとはいえ、殿下が一緒じゃないと不安。
「おどしですか?」
ユリウス殿下が微笑む。皇后陛下も微笑む。
「そうは言っていないわ」
二人の間に火花が見える。それにしてもこの二人似ている。微笑んだ顔が全く同じ。って違う。
どうしたらいいの、とオロオロしていると、リリーは私を見て微笑んだ。「大丈夫ですよ」と。
「母上、そもそも世継ぎ問題は母上の責任でもあることを自覚してくださいね」
え、いや、それを言うのは良くないんじゃないの?ナーバスな問題だよ。皇后陛下だってもっと子供が欲しかったんだろうし。
「……分かったわよ」
皇后陛下はため息をついた。
え、え、え……。
慌てて言葉を探したが、この場で発するにふさわしい言葉は何も思い浮かばなかった。
「ではよろしくお願いしますね」
ユリウス殿下は勝者の笑みを浮かべた。
皇后陛下が席を立ち、私たち四人が残された。このメンバーだったら緊張しない。ほっと息を吐くと、リリーが言った。
「こうしてゆっくりお話しするのもお久しぶりですね」
「ええ、本当に。嬉しいですわ」
にっこりと笑うとリリーもにっこりと笑った。かわいい。カイが立ち上がる。
「私は先に戻るよ」
仕事が溜まっているのだろう。私は自分の分の書類を片付けてきたし、何かあったらクリスにお願いしてきたが、カイは特に忙しい。
リリーが慌てて立ち上がる。そうだよね、もっと話したかったけど仕方ないよね。諦めた時だった。
「リリーはゆっくりしておいで」
カイは爽やかな笑みを浮かべ、立ち去った。とても眩しかった。さすがメイン攻略対象。かっこ良すぎる。普段忙しい妻への対応として満点だ。リリーはカイの背中を見て、座り直した。
「殿下はとてもお優しいですね」
リリーは「ええ」と頷く。
二人の夫婦関係が垣間見えた。カイもリリーも優しいから、きっとお互いを気遣い合いながら上手くいっているのだろう。……下手したら私たちよりも。
ユリウス殿下を見ると、殿下も私の視線に気付いてこちらを見た。
「皇后陛下への先程の言葉は少し気遣いが足りなかったのでは、と思いますが」
殿下は首を傾げた。
「世継ぎ問題は皇后陛下の責任でもある、という言葉です」
殿下は少し考える素振りをして、くすくすと笑った。何が面白いのか。少しムッとした。そんな私を見てさらに笑う殿下。
「母上は子を産めなかったのではなく、産まなかったんだよ」
うん?
「母上が王都にいないのに、子が産まれるわけがないだろう?」
うん?
「父上と母上の日常は結婚当初から今まで全くと言っていいほど変わってないんだよ」
「つ、つまり、殿下方お二人しかいないのは、子ができないとか産めないとか、身体的な理由ではなく、皇后陛下が王都にいらっしゃらなかったから、ということですの?」
ユリウス殿下にリリーも頷いた。
……なんやねん。
思わず関西弁になってしまった。拍子抜けだ。
「まあ、だから父上も僕達が自分達と同じようになるんじゃないか、と心配を抱いているわけだよ」
なるほど、納得。
ユリウス殿下は「それじゃ」と立ち上がった。
「僕も仕事を片付けてくるよ」
「はい」
殿下の後ろ姿をなんとなく眺めていると、リリーが言った。
「エレナ様はお子様が欲しいとは思わないのですか?」
子供が欲しいかなんて考えたことはない。ただいずれは産まないといけないんだろうな、と思うだけ。
「そうですね、産まなくていいのなら産まないかもしれません」
リリーが微笑みを浮かべて首を傾げた。
「どうして?」
どうして?
その問いへの答えは持っていなかった。
「……リリー様はどうして子供を産んだのですか?」
反対にリリーにそう聞くと、リリーはいたずらっぽく微笑んだ。
「できたからです」
え?何その理由。ポカンとするとリリーはさらに言った。
「私はエレナ様を尊敬していて、カイ様もお義兄様を尊敬されてます」
おにいさま。少し考えてそれがユリウス殿下のことだと気が付いた。
「だからお二人のお子様が産まれるのを待とうかとも考えておりました」
いやいやいや、そんなの初耳なんだけど!?そんな理由で出産を遅らせるなんて論外だ。私たちの子供なんて影も形もないのに。
「そんな折に妊娠が発覚し、出産に至ったのです」
……リリーが妊娠してよかった。
思わぬレオナ様誕生日秘話にドキドキしながらも、ほっと息をついた。
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