ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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二年後

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そして、あっという間に二年が経った。

この二年間で変わったことといえば、数年後に皇帝陛下が退位し、新皇帝が立つと公表されたことだ。その新皇帝というのは他ならぬカイである。そしてクルトお兄様に子供が生まれたことくらい。

私とクリスはお父様の実家であるフィオーレ本家に居候し、近くの村の人に教育をしていた。子供から大人まで、やる気のある人を集めて文字の読み方から書き方、計算の仕方まで、様々なことを教えた。十分な成果は得られ、今後の教育の進め方の指針となりそうだ。

各地の教育機関はもういつでも作れるくらいに話が進んでいる。本当ならすぐにでも進めたいところだけど、カイが皇位についてからするべきだ、と皆が言うので待っている。きっとそれはそう遠くないだろう。

ユリウス殿下も一緒にフィオーレ本家に来ているが、出たり入ったりで忙しそうにしていた。気が付いたらいないし、いつの間にかいる。時には数週間黙っていなくなることもあった。

が、殿下に何が起こるなど例え天地がひっくり返っても起こらない。だから誰一人として心配するような人はいなかった。殿下は「それはそれで寂しいね」と笑っていた。

そんなこんなでとうとう王都へ帰って来た。


お城の中に入るとクリスがため息をついた。


「帰って来ちゃったなぁ……」


その言い方は心底残念そうだった。確かに残念。クリスは特にあっちの生活を満喫していた。

近くの村の人とはすぐ仲良くなり、子供と遊んだり、露天のおじさんにいつもおまけしてもらっていたり、ふと気が付くと外でひなたぼっこをしていたこともあった。流石に人目があるところではしないように言ったが。


「残ってもよかったのよ。フィリップ叔父様も言っていたじゃない。クリスだけでも残ってくれって」


魔法オタクな叔父様は、魔法を上手く扱える私たちを帰したくなさそうだった。数日おきに言っていたのだ。「エレナとクリスがいたら研究が百年分は進む」と。


「いや、あれは正直疲れたから、ちょっといいかな」


毎日毎日あの魔法をこの魔法を、と言われ、魔力切れギリギリまで使わされることもあった。特にクリスは魔力量が多いわけではないので、叔父様に捕まったら解放される時にはヘロヘロになっていた。

なかなかにいい生活だった。穏やかで。


「……人が少ないような気がするけれど、気のせいかしら?」


二年前と比べると、こうして歩いていて会う貴族が少ない気がする。今日何かあるのかな。前だったらもっと色んな人とすれ違ってたのに。


「あ、やっぱりそう思う?私もそんな気がしてたんだけど」


クリスが言った。

ユリウス殿下はどこへ行ったのだろう。そう思って後ろを見てみたが姿は見えない。馬を降りてから姿を見ていない気がする。


「何かあるのかしら?」

「あ、クルト様!」


廊下にお兄様が立っていた。クルトお兄様は私たちに気が付くと、爽やかな笑み浮かべる。


「おかえり、エレナ、クリス」

「ただいま戻りました。改めて、お子様のご誕生、おめでとうございます」


頭を下げるとお兄様は「ありがとう」と微笑んだ。相変わらず爽やかだ。


「ところで、何があったのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」


人が少ない理由を尋ねるとお兄様は答えた。


「エレナたちが経った後、少ししてからかな。色んな人の不正が発覚したんだ」


ほう、不正の発覚ね。それで捕まった、と。そういうとお兄様は頷いた。


「捕まった貴族の中には皇族へ剣を向けた、と言われている人も何人かいてね、皆揃って正気ではない様子だったみたいだよ」


へえ、そんなことあるんだ。皇族って言うとカイかな?そんなことしたら捕まるだけでは済まないだろう。

クリスが手を上げる。


「さっきから姿が見えないのは第一皇子派の人たちばかりだと思うんですけど、どうなんですか?」

「鋭いね、クリス」


お兄様は肯定した。クリスは「まあ私も少し関わったし」と呟いた。そういえば私と殿下がフェルマー伯爵領へ行く時にクリスは殿下から何か頼まれていたような気がする。私はぶっちゃけ派閥とかよく知らない。


「処分されたのは皆第一皇子派だった人たちだよ。しかも、エレナ様ではなく殿下を支持している人たち」


クリスの袖を引っ張る。よく分からないから説明してほしい、と言うとクリスは教えてくれた。


「第一皇子派にも、殿下を支持している人と、エレナを支持している人がいるの。ほら、殿下が皇帝になったらエレナは皇后でしょ?それを望んで第一皇子派な人も結構いるよ」


なにそれ、そんなの知らない。私を支持したって仕方がないのに。


「それで、ユリウス派とエレナ派の違いは過激さなんだよね。エレナを支持する人は基本的にエレナの考えを尊重してて穏便なんだけど、ユリウス派は手段を選ばない感じで、裏では結構黒いこともしてるみたい」


……それはまんま私と殿下ではないだろうか。そう思ったけど口にはしなかった。流石に殿下に失礼だと思ったから。でもクルトお兄様の表情を見る限り、同じことを思っていそうだ。


「今回いなくなってるのは皆ユリウス派の、しかも嫌な感じの貴族だよ。ほら、頭が薄くてなんか嫌な目で見てきた人とか、ひょろっとしてて、エレナを見てニヤニヤしてた人とか、あの辺の人」


そう言われるとその通りだった。クルトお兄様はクリスの説明に苦笑いを浮かべている。あまり大きな声ではできない会話だったけど、分かりやすくて助かった。

周りの目を意識してみる。少し歩いただけで全然違う。前までたくさんあった刺々しい視線は、今はもうひとつもなかった。
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