ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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迷い

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陛下と向かい合う。右隣にはユリウス殿下、左隣にはクリスがいる。陛下は私たちを見て言った。


「エレナ、クリス、久しいな」


はい、二年ぶり。


「そなた達が期限通りに帰ってくるとは思っていなかった」

「帰って来なくてよかったならそう言ってください。もう一度行きますから」


そう言うクリスはいまだに不満げだ。よほどあの土地が気に入っていたらしい。確かにあそこは面倒な色々がなくてよかった。


「して、これからのことはどう考えている?」


これからのこと。陛下の言わんとすることは分かる。でも何も考えていない、というのが正直なところ。


「僕たちは仕事をするだけですよ」


答えたのはユリウス殿下だった。陛下が一瞬、殿下に視線を向けた。咎めるようだった。

そして私と目が合う。そらしたかったがそれも不自然かと思い、とりあえず笑顔を作った。


「……以前も言ったが、エレナ」

「分かっております」


気が付くと言っていた。皆が驚きの表情を浮かべる。陛下の言葉を遮る形になってしまったことに気が付いた。


「申し訳ありません」


陛下は「よい」と一言。自分でもなぜ陛下の言葉を遮ったのか分からなかった。だけどその先を聞かなくてよかったことに少しほっとした。


「……考えます。これから、ちゃんと」


俯いて言うと陛下は「そうか」と静かに言った。


陛下の執務室を出て、部屋へと入ると、クリスが私を見た。


「エレナらしくなかったね」

「え?」


何を言われたのかよく分からなくて聞き返す。クリスは「さっきの」と付け加えた。


「そうかしら……」

「子供、欲しくないの?産むのが怖い?」


そう聞かれるとよく分からない。産むのが怖いのは確かにそうだけど。


「殿下はどう思われますか?」


ユリウス殿下を見ると、殿下は何も言わずに微笑んだ。はい、ノーコメントですね。


「欲しいかと聞かれると別にそうではないの。でも絶対に産みたくないのかと言われるとそれも違う気がする。自分でもよく分からないわ」


でも一つ確かなのは、私とユリウス殿下と私たちの子供。三人の未来は想像できない。

殿下を見ると、殿下は「少し出てくるよ」と言ってどこかへ行った。逃げたのか本当に用事があるのかは分からない。


「殿下は何も言わないの?」


クリスの言葉に頷く。


「ええ」


殿下は何も言わない。何も。不自然なほど。だから私もその話題は避けている。けどそれももう限界が近そうだ。今晩あたり、二人で話してみるべきかもしれない。


「……殿下がどう思ってても、エレナが産みたいなら産んだらいいと思うし、産みたくないなら産まなかったらいいと思うよ」

「そんなに適当にはなれないわよ。この国の将来のことだもの」


次の世代の皇族はレイラ様一人。責任を押し付けるようですごく嫌だ。しかもレイラ様は女の子。今のところ女の皇帝というのは前例がない。これからカイ達がどうさるつもりかは知らないけど。


「うん、そうだね。言い方が違った」


クリスは続ける。


「殿下に父親としての役割が期待できないなら、私かヘンドリック様がそれをするから、安心していいよ」


『それ』は『父親としての役割』を指すのだろうか。

……それをクリスやお兄様が?それはそれで安心できないと思うのは失礼だろうか。

ポカンとしてクリスを見ると、クリスは「あれ?」と首を傾げた。


「エレナが一番気にしてたのってそこかと思ったんだけど、違った?」


ハッとして首を振る。


「……そう、その通りよ」


ユリウス殿下は子供が生まれたとして、変わることはあるのだろうか。二年間考えたけどその答えはいまだに出ない。

……答えが出ないのが答えだと思っても良さそうっていうのが本音だけど。


「クリスは子供が欲しいとは思わないの?」


ふと気になってそう聞くと、クリスは笑った。


「エレナの子供が私の子供だから」


そんな風に言われると産まないわけにはいかなくなってしまう。


「ごめん、そういう意味じゃないよ。エレナが決めていいからね」

「あ、ええ、分かっているわ」


女の子として育ってきたクリス。いつか男に戻る日が来るかもしれないけど、今更女の子をそういう対象として見られない、と言っていた。だからって男の人が好きなのかと言うとそれも違うらしいけど。

クリスが自分の子をもつ可能性は限りなくゼロに近い。


「まあそんなに深く考えなくても、子供ができたら産む、くらいで考えてたら?」


できたら産む。確かにそれはありかもしれない。


「というか、うじうじ考えてる今、もう既に宿ってるかもだし?」


クリスが冗談っぽく笑い、私のお腹を指差した。冗談なのは分かる。でも断言しよう。それはまずない。なぜなら、私たちの仲はこの二年間で全くと言っていいほど進展していないのだから。

子供ができるようなことをしていないのにできるはずがない。できたら産む。それは一体何年後の話になるのだろうか。


「……そもそもの話なのよね」

「え?」


声に出てしまっていたようだ。クリスがポカンとして私を見た。そして、ひきつった笑顔を浮かべた。


「……もしかしてさ、未だに一緒に寝てるだけ、なんてこと、あったりする?」


そんな恐る恐る聞かなくても……。

私が頷くと、クリスは驚愕の表情を浮かべ、そして頭を抱えた。


「あり得ない……!」


私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
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