ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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殿下との関係

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晩ご飯を食べ、部屋で本を読んでいるとノックもなしに扉が開いた。いつものことなので気にしない。殿下は当たり前のように私の部屋に入ってくる。しかも自分の部屋からではなく廊下から直接。

今外から帰ったばかりなのだろうか。着替えもまだのようだ。


「シャワーを浴びてくるよ」


わざわざ言わずとも先に自室で浴びてくればいいのに、といつも思う。だけどそうなってしまうと少し寂しい気もするから何も言わない。


「ご飯は食べられましたか?」

「まだだよ」

「では何か用意しておきます」


殿下が頷いて自室へと行くのを見て、私はベルを鳴らした。わざわざアリアを呼ぶのはすごく忍びないけど、前に一度自分でご飯をもらいに行ったら殿下からもアリアからも怒られたから。

少しして来たアリアに軽く食べれるものを頼むと、アリアはすぐに持って来てくれた。もしかするとこれを見越してすでに用意してあったのかもしれない。

……殿下も一人くらい側仕えをつければいいのに。アリアは私の側仕えなのに殿下のこともやらせていて本当に申し訳ない。

そう言うとアリアは微笑んだ。


「いいえ、エレナ様のためでしたらなんでもないことです」


私の周りには変わっている人が多いと思っていたが、アリアも結構変わっている。もうとっくに辞めて結婚を考えてもおかしくない年だ。綺麗で優しくてなんでもできるアリアはすぐに貰い手が見つかりそう。なんて、口が裂けても言えない。怒られそうだから。アリアに辞める気がないのは聞かなくても分かる。

静かな部屋で一人で本を読んでいると隣の部屋から殿下の気配がする。微かに聞こえる足音。扉を開け閉めする音。とても心が安らぐ。

少しして殿下は戻ってきた。楽な部屋着に着替えているが、髪はもうすっかり乾いている。ドライヤーなど使わなくても一瞬で乾かせる魔法はやはり便利。

殿下が向かいの椅子の座った。アリアが持って来てくれたのはサンドイッチ。どう見ても一人分ではない。殿下はそれを手に取る。

私は座ったまま魔法でお茶を二杯入れ、再び本をめくった。

少しして視線を感じて顔を上げると、殿下が私をじっと見ていた。なんだか楽しそうだ。本を読んでいるだけの何が面白いのか。

本を閉じて机に置いた私は、殿下を見て微笑んだ。


「では話をしましょうか」


「まず」と私が切り出すと、殿下は頷いた。ちゃんと聞く姿勢だ。昨日の感じだと解決はいつになるかと思ったが、想定より遥かに早かった。やはり今日の雪は困ったのだろうか。


「私は子供を産むつもりです」


はっきりと言った私に殿下は「意外だね」と言った。そうかな、と思う。私はわがままは言うし、結構勝手なことをするけど、しないといけないことはしてきたつもりだ。


「父上が言ったから?」

「そうですね、それもあります」


跡継ぎを残すことも皇族の仕事。皇族が途絶えても新たな皇帝が立つのだろうというのは分かるけど、やはり後継者は自らの手で育てたほうがいいらしいから。まあ、一理ある。


「他にも理由が?」


殿下が聞く。そう大した理由ではない。結局、私も一人の女だったと言うだけ。


「会ってみたくなったのです。殿下と私の子供に」


レイラ様に会わせてもらった。二歳になったレイラ様とリリー、カイ。三人はとても幸せそうで、私もそこに自らの姿を重ねた。ただそれだけ。

だがユリウス殿下にはピンとこないらしい。やはりこの人は人間として何かが欠けている気がする。


「……お昼に、殿下はおっしゃいましたよね?『満足したかい?』と」


あの言葉に答えなかったのはわざと。答えたくなかったからだ。


「それを聞いて私は思ったのです。まるで子供に言うようだな、と」


歳が離れているので仕方ないかもしれない。しかも私が子供の頃から面識がある。殿下から見ると私は世間知らずで無知な子供に見えるだろう。だけど私は殿下と結婚した覚えはあっても養子に入った覚えはない。


「私は殿下と対等でありたいと思っています」

「対等だよ」


殿下はすぐに答えた。でも違う。殿下は身分の話だと思っている。そうじゃない。というか逆に身分上で対等になるつもりはない。私は首を横に振る。


「旅先でよく聞かれたものです。『兄妹ですか?』と」

「歳が離れているからね」


それだけじゃないと私は何年も前から知っている。夫婦だって言うと皆が皆口を揃えて「見えない」と言う。私もそう思う。


「殿下にとって私は保護対象ではありませんか?」


そして私にとって殿下は保護者。その言葉が一番しっくりくる。


「確かに私は何かあれば殿下を頼ってしまいますし、本当の兄のようだと思ったことも何度もあります」


殿下は首を傾げた。それの何がいけないのか、とでも言いたげだ。


「僕は今の君との関係性は結構気に入っているよ」

「ええ、私もです。仕事上では相性が最高に良いとも思います」


最近の殿下は熱を帯びた視線で私を見ることがない。それは私自身を諦めてしまったのか、とも考えたがそうではないと少し前に気が付いた。

言葉が少なくとも通じ合い、お互いを思いやり、夜は共に寝る。愛を交わすことはなくとも心は通じ合っている。殿下はそういった形の愛情に満足している。もちろんそれは私もだけど。


「ですが、殿下。私は最近思うのです。仕事のパートナーとしてではなく、守るべき対象としてではなく、もちろん妹としてではなく、妻として殿下の隣に立ちたい、と」


私は真っ直ぐに殿下の目を見てそう言った。
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