ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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殿下はお茶を一口飲む。そして微笑んだ。


「そうだね、それもいいかもしれない」


おっ、食いついた?


「思えば僕も君のことを妻だと意識したことはないかもしれないね」


んん?あれだけ独占欲を丸出しにしておいて?それはちょっとどうかと思う。


「だけどさ、子供のことは話が違うよ」


……なかなか手強い。


「君の意志はできるだけ尊重したい。だけどこれは譲れない」


子供が好きではないことはなんとなく分かる。でもユリウス殿下はそもそも自分で育てる気はないはすだ。別に私が殿下との子供を産んだからと言って何か不都合があるとは思えない。


「子供が欲しくない理由があるのですか?」


ここまで言わなかったのだ。聞いても教えてくれないかもしれないな。そう思ったが意外にも殿下はすぐに答えた。


「君に、君以上に大切なものができるのは困るんだよ」

「……ちょっと意味が分かりませんが」


私に私以上に大切なもの。命を懸けても守りたいものというのなら、既にたくさんある。

殿下やクリスを含め、たくさんの人。民。もしも命に順番をつけるなら、私は自分の命は一番最後に持っていく。


「今さらでは?」


首を傾げると殿下は「違うよ」と微笑んだ。


「もしもどちらか一方しか助けられない、なんて状況になった時、僕は相手が誰であれ、迷わず君を助けるよ」


……まあそういう人だよね。その時は私だって流石に文句は言えない。


「でもさ、相手が子供だってなったら、君は君を助けた僕を怒るでしょ?」

「それは、そうかもしれませんね。私はまだ子を産んだ経験はないので分からないのですが、一般的に母親は何を置いても子供を優先するものですよね」


その時にならないと分からないけど、殿下の言う可能性は十分ある。


「僕はさ、何よりも君が大切だよ。自分の子供よりも、君の子供よりも」


微笑んだ殿下が少し悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。


「……殿下の大切なものは私が決めるわけではありませんけど、できれば子供を優先して欲しいと思いますわ」

「うん、そうだよね」


つまり、私か子供かを天秤にかけるようなことがあった場合に困るから、子供は欲しくない、と?

それは極端すぎるんじゃないかと思うけど。大体ユリウス殿下がどちらかしか助けられないなんて、そんな状況、まずあり得ない。

いや、そうは言ってもなかなかの頻度でやらかしている私だ。……あり得るかもしれない。

少し体が冷えてきた。殿下も食べ終わったようなので私はベッドへと移動した。殿下は椅子に座ったまま。


「……私が同じ立場でしたら、迷いませんよ」


子供か殿下か。どちらか一方しか助けれないなら迷わず子供を助ける。


「子供は未来を作っていかなければなりませんもの」


そのために産むんだから。ユリウス殿下には悪いけど。殿下は何を考えているか分からない表情。

ポンポン、と隣を叩く。殿下はゆっくりとこちらへ来た。


「殿下も迷う必要はありませんわ」


そう、迷わなくていい。選択肢は一つのみ。


「以前言ったでしょう?共に逝きましょう、と」


一人で逝くのも、残されるのもいや。


「その時でもまだ同じ気持ちでしたら、子供を助け、その後に追って来てくれたらいいのです」


残された子供はかわいそうだけど許してもらおう。ベッドに腰掛けた殿下は私の言葉にポカンとした顔をした。驚くようなことを言ったのだろうか。


「もっとも、その時に子供の成長を見守りたいと思うのでしたら、存分に共に時間を過ごしてほしいですが」


もしそうなっても私は恨むことはないだろう。むしろユリウス殿下の変化を喜ぶと思う。

殿下は笑った。


「いいね、それ」


短い言葉。だけどとても嬉しそうだった。殿下は私の頰を撫でる。私はその手に手を重ねた。


「そんな状況にならないよう、気を付けますね」

「うん、そうしてくれたら嬉しいよ」


つまり子供の件はオッケーと言うことでいいのだろうか。まあ産む決心がついたところですぐにできるとも限らないし。


「……ずっと君がほしいと思っていたよ。でもいざとなったら緊張するね」


殿下は笑った。私も笑う。


「ユリウス殿下でも緊張することがあるんですね」

「僕をなんだと思ってるの」


ふふっと笑った殿下はとても緊張しているようには見えない。


「念のために言っておきますが、私、基本的な知識はありますけど、経験はないので何もできませんよ」


この世界ではびっくりするほどに何も教えられていない。きっと普通の令嬢は何も知らずにその時を迎えるのだろうけど。

ユリウス殿下は可笑そうに笑った。


「何もしなくていいよ」


それはよかった。ほっと息をついたが、殿下はまだ笑っている。よっぽど可笑しかったのだろうか。

……そんなに笑わなくていいのに。

殿下の首に腕をまわして抱き付くと、殿下は笑うのをやめて私の背に手を回した。その腕に力が込められる。


「……さっき君は、対等に、と言ったけど、僕はやっぱり年上として余裕ぶりたいんだよ。それは許してくれるかな?」

「ええ、私も年下として甘えたいですから」


わざわざ余裕ぶらなくても殿下は余裕でしょ。そう思うが言わない。もしかしたら殿下だって一生懸命何でもないふりをしているだけなのかもしれないし。……いや、それはないか。

少し離れて殿下を見つめる。綺麗な顔。優しい瞳。柔らかな声。全部、私のもの。


「家族になりましょう、ユリウス様」


そう言って私はそっと口付けた。
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