ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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減っていく貴族たち

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カイの執務室で書類を片付けていると、突然カイが言った。


「貴族が何人か処分されたらしいね」


へえ、初耳。マクシミリアンは頷く。


「皇族への不敬罪でしょ。エレナは詳しいこと知らないの?」

「いえ、全く知りませんわ」


その皇族は誰なのだろう。と言っても一人しか思い浮かばない。

私やカイ、リリーは多少の失礼な言動は目をつぶっている。陛下に対して不敬を働くような馬鹿な貴族はそう何人もいないし、皇后陛下だとも思えない。となると、一人しかいない。


「牢に入れられたらしいよ」


牢へ入れる。簡単だが、入れられた方はたまったものじゃない。まず、釈放されるのに莫大なお金がいる。出た後も一族から後ろ指を刺され、他の貴族の前に出るなんてもってのほか。堂々と屋敷から出ることもできないだろう。

そしてそんな貴族はどうするのか。王都を出て、親戚の家に身を寄せるのだ。

聞けば私が王都にいない間に処分されたらしい貴族たちも皆王都にいないという。


「……王都の貴族は減る一方ですわね」

「大丈夫だよ。優秀な子たちが育っているから」


マクシミリアンは表情を変えずに言う。


「あの方が何も考えずに処分しているとは思えないよ」


それはそうかも。でも意外と感情的な人でもある。


「……いくら気に入らないからと言っても少しペースが早すぎる。エレナから言ってもらえたら嬉しいんだけど」


カイが頭を抱えている。恐らく陛下も似たような感じだろう。少し同情はするけど私だって止められるなら止めている。


「……わたくしは人を処罰するのはあまり好きではありません。ユリウス様はそれをご存知です」


私が嫌がることを知っていてユリウス様はしているんだよ。そう言うとカイはため息をついた。


「今回処分された貴族は、先週の会議で笑っていた人たちだよ」


先週の会議で馬鹿にされた記憶は確かにある。そしてユリウス様はあの時怒っていた。だけど会議は無事に終わったはずだ。あの後に手を回したと言うのか。

ため息が出た。


「どうも兄上はエレナのこととなると難しい……」


はは、と苦笑いをするしかなかった。そんなことを私に言われても、と思う。元から難しい人だ。私にだってどうにもできない。


「エレナが王都にいなかった間に貴族が減ってたでしょ?あれも殿下がやったんだよ」


マクシミリアンが言った。誰も何も言わないけどなんとなく知っていた。ユリウス様がたまにいなかった時、あれは王都に帰っていたのだ、と。

しかし一つ分からない。


「第一皇子派はユリウス派とエレナ派に分かれていると聞きました。どうしてユリウス様はユリウス派の貴族を処分したのでしょう?」


過激な人たちが困るのは分かる。実際、私に危害が及んだから。でもそこまで過激じゃないならいいじゃない、と思った。確かに少し嫌な感じがする人たちだったけど。でもユリウス様にとっては一応味方のはず。

答えたのはカイだった。


「兄上はどうしても皇帝になりたくないんじゃないかな」

「元よりなれないのでは?」


ユリウス様は皇位継承権を放棄している。誰になんと言われようと皇帝にはなれない。だからユリウス様を異常に推している人たちがいることも不思議なんだけど。


「継承権を一度放棄しても取り戻すことは出来なくもないんだよ」


マクシミリアンはそう言った。

素直に驚いた。一度継承権を放棄しても取り戻せるとは、そんなことを言ったらなんでもありになってしまいそうだ。


「もちろん、そう簡単なことじゃないけどね」


マクシミリアンが「詳しいこと聞きたい?」と聞いてきたので首を振る。聞いたって仕方がない。


「しかし一度は皇座に座ろうとされた方なのに、どうしてそこまで皇帝になりたくないのでしょうか?」


この国のためならなんでもする人。カイを廃して自らが皇帝になろうとしていた時期もあった。

それなのにどうして今更……。

カイとマクシミリアンは顔を見合わせて、そして笑った。


「なんとなく分かる気がするね」

「そうだね」


私には分からない。


「兄上に直接聞くといいよ」


カイは言った。


「そうですか。ではユリウス様に今晩にでも聞いてみます」


確かに直接聞いた方が早いし確実だし。


「ところでマクシミリアン。カミラは元気ですか?」


最近はあまり会えていないので気になっていた。アリアからちらっと聞いた話だけど、近い内にフィリップ叔父様の家に一人だけ移るとかなんとか。


「うん、元気だよ。再来週には出発するからそれまでに一度会ってあげて欲しいな」

「再来週……」


本当にもうすぐだ。それは何としてでも会いに行かねば。


「本当は僕も行くべきなんだろうけど……」


マクシミリアンは顔を曇らせる。分かっている。元々婿入りしたマクシミリアンが本家を継ぐと言う話だ。だけどマクシミリアンはカイ世代の宰相候補でもある。そう簡単に王都を離れられるわけではない。


「いいえ、カミラなら一人でも大丈夫ですわ。あちらには叔父様もおばあ様もおられますし、とても強い子ですもの」


マクシミリアンは笑った。


「そうだね。エレナの妹だもんね」

「ええ、ですから、マクシミリアンはここでできることを精一杯やってくださいませ。これからはさらに忙しくなりますわよ」


そう言って笑った私にマクシミリアンも笑顔で頷いた。カイが手を上げる。


「話を変えてもいいかい?」

「ええ、どうぞ?」


ちょうど一段落ついたところだし。


「そろそろ私のことも名前で呼んでもらえると嬉しいのだけど」


カイを名前で?


「兄上だって『ユリウス殿下』から『ユリウス様』になったし、マクシミリアンもベアトリクスも呼び捨てだろう?」


思えばカイのことは『殿下』としか呼んだことがないかもしれない。いやだって皇族の名前を呼ぶなんて失礼だし。昔から今までずっとそのままだった。


「リリーも言っていたよ。自分も呼び捨てにしてもらえるくらい仲良くなりたい、と」

「あら、リリー様が……」


うーん、でもリリーは未来の皇后陛下だ。私は立場的にはあくまでも皇子の嫁でしかない。


「……少し考えておきますわ」


呼び捨てだから親しいという訳ではないけど、リリーがそれで距離を感じるなら良いとは思えない。少し時間をもらおう。

私の言葉にカイは頷き、再び仕事へと戻った。
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