ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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変わった家

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「クレヴィング家って不思議ね」


ヨハンとアリアの結婚が正式に決定した話を聞き、私はそう呟いてしまった。

言った後にあ、と思ったが、クリスにはしっかり聞こえていた。

……クリスの女装云々の話の時に詳しいことは別に聞かなくていい、なんて格好つけたのに。

これではまるで、私がクリスに関しても突っ込んだ話をしたいみたいだ。


「あ、えっと、深い意味はないのよ」


出た言葉は言い訳じみていた。しかし、本当に他意はない。ただ、後継のことを考えなくていい、とか、結婚にあたり、本来なら両家で大々的にする顔合わせを特にしなかったりとか、とにかく普通の貴族の家ではない。もちろん、クリスの女装もその一つだけど。

そう言うとクリスは笑った。


「そんなのエレナの家もだよ」

「ええ?そうかしら?」


うちは結構普通だと思っているけど……ヘンドリックお兄様を見るが、顔も上げず何も言わない。クルトお兄様に視線をうつすと、お兄様は苦笑いを浮かべた。

否定できない、といった表情。

ありゃりゃ、普通じゃないのか。なんて思っていると、思わぬところから声がとんできた。


「うちが普通でないとしたら、それはお前のせいだ」


ヘンドリックお兄様だ。机からは一切顔を上げない。話を聞いていないようでしっかりと聞いていたようだ。


「失礼ですわ。わたくしが何をしたと言うのです」


私は断じて何もしていない。しかしお兄様はそうは思わないようだ。


「文句があるなら父上と義母上に聞いてみろ。二人とも頷くだろう」


なんて失礼な人……!仮にも皇族の私に対して!


「クルトお兄様、何とか言ってくださいませ!」


話を振られたクルトお兄様は困り顔だ。


「……うん、まあ、お二人とももう諦めてられるのだと思うよ」

「どういう意味ですの……!」


二人って誰!?お父様とお義母様!?諦めるって何!?

そう言いたかったが、お兄様二人を相手に言い合いをしても勝ち目はない。深呼吸をして、椅子に座り直す。そしてにっこりと笑顔を作った。

平常心、平常心。ヘンドリックお兄様の暴言なんて今更なんとも思わない。

自分にそう言い聞かせる。


「……まあ、確かにうちは普通じゃないよね、多分」


クリスが言った。


「私だってこんなんだし、父様も母様も少し変わってる。でもね、兄様がアリアと結婚を決めたのは、私は不思議じゃないよ」

「そうなの?」


人の家のことをあれこれ聞くのはよくないと分かっているが、少し気になるのも本音。

クリスはいつもと同じように笑う。自分の家が変だと言われても全く気にしている様子はない。


「アリアってすごく意思が強いじゃん?兄様ってそう言う人が好きなんだよ、多分」


確かに。アリアは一本筋の通った人だと思う。それにしっかりしているし頭もいいし、綺麗だし。

貴族としての欠点と言えば実家と縁を切ったことで身分がないこと。それさえのぞけば引くて数多だろう。

そう考えるとヨハンは確かに見る目があった。

クリスが「それにね」と続ける。


「今だから言うけど、兄様は一番望んだ人を手に入れられなかったの」

「え……?」


初耳だ。攻略対象のヨハンが一番望んだ、と言うとリリーのことだろうか。全然知らなかった。


「兄様だけじゃないよ。レオンもマクシミリアンもフロレンツも、カイも。皆同じ人に惹かれて、それなのにちゃんと気持ちを伝えたのはカイだけ。ほんとバッカだよねえ」


……ちょっと待って。新事実を並べられて頭が追いつかない。皆同じ人に惹かれて、気持ちを伝えたのはカイだけ。

頭を抱える私。クリスは言った。


「私ね、結構怒ってるんだ。皆好きなのに伝えることもせずに、最善だからって他の人に譲ってさ。嫌がるその子の後押しまでしちゃって」


嫌な汗が額に浮かぶ。

流石にここまで言われるとそれが誰かなど鈍感な私にも分かってしまった。

カイに告白された。嫌がる結婚を皆から後押しされた。

……身に覚えがありすぎる。いやでもまさか。


「ねえ、エレナ?」


ぎくっとしてクリスを見ると、クリスはにっこりと笑顔で私を見ていた。


「わ、わたくしは何も知らないわ」


笑顔を浮かべたがひきつった。少し沈黙が降り、クリスは大きなため息をついた。


「だよねぇ、エレナは絶対気付いてないと思ったよ」


一気に緊張感が消えた。私も密かに息をつく。


「言われないと分かるわけないよね。エレナ鈍感だし」

「し、失礼ね。わたくしが悪いの?」


そんなの分かるわけがない。攻略対象が揃いも揃ってモブな私に心を寄せるなど、そんな展開は想像できるわけがない。


「そうだね、ごめん。エレナは悪くないよね。あ、怒ってるって言ったのは男たちに対してだから安心して。ダメでも告白くらいすればいいのにって何回も思ってたから」


ははは、と乾いた笑いがこぼれる。告白されたって困るんだけどね。


「今となっては皆、相手は見つけてそれなりに幸せなんだろうからいいけどね」


クリスの言葉に私はほっと胸を撫で下ろした。

……確かに幸せそうには見える。だけど結婚したことで幸せかどうかはよく分からない。だって皆仕事しかしていないように見えるし。だけどこの話題が続くと困るので、それは言わないでおこうと思った。
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