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説教
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城の扉を開けるとそこにはマリーが立っていた。ぎょっとして足を止め、慌てて手を離す。
「リーゼロッテ様!どこに行っていたのですか!何をしていたのですか!」
これはあまり良い展開ではない。ものすごく怒っている。焦る私とは違い、エーリッヒ様は全く表情を変えずに言った。
「話をしていただけだ」
マリーがじとっと私を見る。「そうよ」と頷くと、更に怒った。
「そのような格好でですか!?こんな時間に!?とんでもない!あり得ません!」
これはなんと言っても怒りが増長しそうだ。大人しく怒られるしかないのか。覚悟を決めたその時、エーリッヒ様がまた言う。
「誘ったのは私だ。リーゼロッテではなく私を怒ればいい」
マリーは言葉に詰まった。それはそうだろう。エーリッヒ様を怒るなんてできるわけがない。
静かになったところでエーリッヒ様は私を見た。
「連れ出して悪かった。ゆっくり休みなさい」
そう言うと返事も待たずに歩いていってしまう。
「エーリッヒ様」
その背を呼び止めた。ゆっくり振り向くエーリッヒ様。
「後悔しておいでですか?」
どうして私に話してくれたのかは分からない。だけど今まで誰にも話せなかったのだとしたら、少しはその心が軽くなっていたら良いと思う。
エーリッヒ様は少し考え、首を振った。
「あの時に戻ったとして、私はまた同じことをするだろう」
そのまま背を向けて歩いて行く。
エーリッヒ様はまだ何か言おうとしていた。だけど言わなかった。飲み込んだ言葉は何だったのだろう。
ぷんぷんと怒るマリーと共に部屋へと戻る。扉を閉めた途端、マリーは私に詰め寄った。
「リーゼロッテ様、真剣にお答えください」
そのあまりの剣幕に無言で頷くしかできない。
「エーリッヒ様のことがお好きなのですか?」
「ええ、好きよ。優しい人ですもの」
いつも難しい顔をしている無口な人。だけど一緒にいて嫌な感じが全くない。
「結婚したいのですか?」
「結婚したいわけではないわね」
好き。だけど恋愛感情ではない。相手は一国の王。その結婚相手は他国の産まれの私ではない方がいい。
「では何故寝衣を見せるのです?そのようなお姿で殿方の前に立つなど言語道断です」
真剣な表情でそう言うマリーの頬をつつく。
「そう怒らないで。ここはファルラニアじゃないの。気を張る必要なんてないのよ」
私も最近気が付いた。ここはファルラニアのように息苦しくない。隙を見せても誰も足を掬わない。
マリーが怒るのは私を心配してのこと。ファルラニアでは一度ついた汚点は消えない。死ぬまで裏で囁かれ続ける。特に私は難しい立場にいた。
だけどファルラニアでは汚点になっても、ここでは汚点にならない。
「私はここではヴァルデ家の当主じゃないの」
ずっとのしかかっていた重圧に解放された。命を狙われる生活を送らなくてもいい。
ヴァルデの名はとても重かった。もうヴァルデ家当主を名乗らなくてもいいし、リヒャルトも時期ヴァルデ家当主じゃない。
「私はね、嬉しいのよ」
気を張らなくていい。怯えなくて良い。何より、当主となって苦しむリヒャルトを見なくていい。
「悪意に道を塞がれることもない。誰も殺さなくていい。誰かを罠に嵌めようと考えなくていい。何もしていなくてもここにいる事が許される」
マリーは目を見開いた。
「ユルンへ来てよかったと心の底から思っているわ。ファルラニアの貴族の常識など、ここではどうでもいいの」
「……すみません。私、リーゼロッテ様の名誉を守らないといけないと思って」
しまった。マリーを落ち込ませるつもりなんてなかったのに。
「違うのよ。マリーの気持ちは分かっているしとても嬉しいわ。私はただ、マリーにももう少しのびのびと過ごしてもらいたかったの」
そう言った私を見てマリーは「分かっています」と笑った。
「リーゼロッテ様がここへ来てよかったと思うのなら、私も来てよかったと思えます」
ほっとした。もう怒ってもいないし落ち込んでもいない。だけどもやっとした。
「連れて来た私が言うのもどうかと思うけれど」
そう前置きをする。マリーは首を傾げた。
「マリーは私の侍女でも所有物でもないわ。生活の中心に私を置くのは止めて、マリーの幸せを見つけてほしいわ」
何度も同じようなことを言っている。だけどマリーには毎回伝わらない。
私はマリーと対等でいたい。主人になりたくない。姉妹のように過ごしたい。「リーゼロッテ様」ではなく「リーゼロッテ」と呼んで欲しい。
「いいえ、リーゼロッテ様。私の主人はリーゼロッテ様です。私の世界はリーゼロッテ様が中心なのです」
またしても同じ答え。少しがっかりしながらも「そう」と頷く。
「上着をお預かりします」
そう言われてマリーは私の上着を脱がせた。
「この上着は男性用に見えますが……」
これがエーリッヒ様のだと言ったらマリーは何と言うだろう。また怒るかもしれない。
「……そうかしら?気に入っているの」
そう言って誤魔化した。マリーは「そうなんですね」と明るい声で言い、丁寧に掛けてくれた。それを見ながら言葉が出た。
「……ねえ、マリー。誰かと手を繋ぐのってあたたかいのね」
エスコートをされたことはある。だけど覚えている限り、誰かと手を繋いだ記憶はない。お父様ともお母様とも。
繋いでいた右手を見る。まだあたたかさが残っているような気がする。
「……そうですね」
マリーは何か言いたそうだったが、そう頷いただけだった。
「リーゼロッテ様!どこに行っていたのですか!何をしていたのですか!」
これはあまり良い展開ではない。ものすごく怒っている。焦る私とは違い、エーリッヒ様は全く表情を変えずに言った。
「話をしていただけだ」
マリーがじとっと私を見る。「そうよ」と頷くと、更に怒った。
「そのような格好でですか!?こんな時間に!?とんでもない!あり得ません!」
これはなんと言っても怒りが増長しそうだ。大人しく怒られるしかないのか。覚悟を決めたその時、エーリッヒ様がまた言う。
「誘ったのは私だ。リーゼロッテではなく私を怒ればいい」
マリーは言葉に詰まった。それはそうだろう。エーリッヒ様を怒るなんてできるわけがない。
静かになったところでエーリッヒ様は私を見た。
「連れ出して悪かった。ゆっくり休みなさい」
そう言うと返事も待たずに歩いていってしまう。
「エーリッヒ様」
その背を呼び止めた。ゆっくり振り向くエーリッヒ様。
「後悔しておいでですか?」
どうして私に話してくれたのかは分からない。だけど今まで誰にも話せなかったのだとしたら、少しはその心が軽くなっていたら良いと思う。
エーリッヒ様は少し考え、首を振った。
「あの時に戻ったとして、私はまた同じことをするだろう」
そのまま背を向けて歩いて行く。
エーリッヒ様はまだ何か言おうとしていた。だけど言わなかった。飲み込んだ言葉は何だったのだろう。
ぷんぷんと怒るマリーと共に部屋へと戻る。扉を閉めた途端、マリーは私に詰め寄った。
「リーゼロッテ様、真剣にお答えください」
そのあまりの剣幕に無言で頷くしかできない。
「エーリッヒ様のことがお好きなのですか?」
「ええ、好きよ。優しい人ですもの」
いつも難しい顔をしている無口な人。だけど一緒にいて嫌な感じが全くない。
「結婚したいのですか?」
「結婚したいわけではないわね」
好き。だけど恋愛感情ではない。相手は一国の王。その結婚相手は他国の産まれの私ではない方がいい。
「では何故寝衣を見せるのです?そのようなお姿で殿方の前に立つなど言語道断です」
真剣な表情でそう言うマリーの頬をつつく。
「そう怒らないで。ここはファルラニアじゃないの。気を張る必要なんてないのよ」
私も最近気が付いた。ここはファルラニアのように息苦しくない。隙を見せても誰も足を掬わない。
マリーが怒るのは私を心配してのこと。ファルラニアでは一度ついた汚点は消えない。死ぬまで裏で囁かれ続ける。特に私は難しい立場にいた。
だけどファルラニアでは汚点になっても、ここでは汚点にならない。
「私はここではヴァルデ家の当主じゃないの」
ずっとのしかかっていた重圧に解放された。命を狙われる生活を送らなくてもいい。
ヴァルデの名はとても重かった。もうヴァルデ家当主を名乗らなくてもいいし、リヒャルトも時期ヴァルデ家当主じゃない。
「私はね、嬉しいのよ」
気を張らなくていい。怯えなくて良い。何より、当主となって苦しむリヒャルトを見なくていい。
「悪意に道を塞がれることもない。誰も殺さなくていい。誰かを罠に嵌めようと考えなくていい。何もしていなくてもここにいる事が許される」
マリーは目を見開いた。
「ユルンへ来てよかったと心の底から思っているわ。ファルラニアの貴族の常識など、ここではどうでもいいの」
「……すみません。私、リーゼロッテ様の名誉を守らないといけないと思って」
しまった。マリーを落ち込ませるつもりなんてなかったのに。
「違うのよ。マリーの気持ちは分かっているしとても嬉しいわ。私はただ、マリーにももう少しのびのびと過ごしてもらいたかったの」
そう言った私を見てマリーは「分かっています」と笑った。
「リーゼロッテ様がここへ来てよかったと思うのなら、私も来てよかったと思えます」
ほっとした。もう怒ってもいないし落ち込んでもいない。だけどもやっとした。
「連れて来た私が言うのもどうかと思うけれど」
そう前置きをする。マリーは首を傾げた。
「マリーは私の侍女でも所有物でもないわ。生活の中心に私を置くのは止めて、マリーの幸せを見つけてほしいわ」
何度も同じようなことを言っている。だけどマリーには毎回伝わらない。
私はマリーと対等でいたい。主人になりたくない。姉妹のように過ごしたい。「リーゼロッテ様」ではなく「リーゼロッテ」と呼んで欲しい。
「いいえ、リーゼロッテ様。私の主人はリーゼロッテ様です。私の世界はリーゼロッテ様が中心なのです」
またしても同じ答え。少しがっかりしながらも「そう」と頷く。
「上着をお預かりします」
そう言われてマリーは私の上着を脱がせた。
「この上着は男性用に見えますが……」
これがエーリッヒ様のだと言ったらマリーは何と言うだろう。また怒るかもしれない。
「……そうかしら?気に入っているの」
そう言って誤魔化した。マリーは「そうなんですね」と明るい声で言い、丁寧に掛けてくれた。それを見ながら言葉が出た。
「……ねえ、マリー。誰かと手を繋ぐのってあたたかいのね」
エスコートをされたことはある。だけど覚えている限り、誰かと手を繋いだ記憶はない。お父様ともお母様とも。
繋いでいた右手を見る。まだあたたかさが残っているような気がする。
「……そうですね」
マリーは何か言いたそうだったが、そう頷いただけだった。
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