あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

探し物Ⅱ

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布団から出て顔を洗うと、既に覚めていた頭がだんだんと現実に向いていく。

その瞬間、途端に気持ちが悪くなる。

これもいつものことだが、これだけは未だに慣れない。

顔を上げて鏡を見ると、髭が伸びた、だらしない顔が映っている。


「どこか行かないと」


仕事は一週間前に辞めた。

大学を卒業して就職した会社だった。

仕事は好きだった。職場の人もいい人たちばかりだった。

不満を覚えたことはもちろんあるが、辞めるほどではなかった。

だけど、僕は我慢ができなかった。

紗苗さんを殺した僕が何気ない顔で会社の、社会の一員でいること。

急にその罪悪感に耐えられなくなった。五年も経って今更かよ、と自分でも思う。

この一週間ただひたすら怠惰に過ごした。

住み慣れたアパートの一室で、外に一歩も出ることなく、最低限のことだけをして過ごした。

毎日毎日紗苗さんのことを考えて、考えて、考えまくった。

だけど、だからと言って紗苗さんに会えるわけでも、なければ何かを思い出すこともなかった。

ため息がこぼれる。

そろそろ外に出ないといけない。

このままでは、僕はダメになってしまう。


リビングのカーテンを開けると光が部屋の中に入ってきた。

朝とは思えない光の量に時計を見ると、針は既に十時半を指していた。

思考が一瞬止まる。僕はこんなにも長い間寝ていたのか。

まだせいぜい八時くらいだと思っていた時計が思いのほか進んでいたので、特に用事もないのに、慌てて外に出る準備を進めた。



アパートから出ると眩しい日差しにめまいがした。

一週間ぶりの日の光は容赦なく僕に降りそそぐ。

部屋に引き返したい気持ちをどうにか抑えて少し歩くと、だいぶましになった。

行く場所は出る前に決めた。

図書館へ行って、紗苗さんの一番好きだった本を読もうと思った。

ただ、タイトルが思い出せない。作者も分からない。

こんな状況で本当に見つかるのか分からないけど、それでもいいと思った。
見つかるまで探そうと思った。

何日でも何週間でも。見つからなかったら僕はずっと紗苗さんのことを考えていられるから。


歩いていて気になった。

やけに若い人が、というか学生が多い。

制服だったり私服だったりするが、確実に学生だろうっていう子が多い。

今日は水曜日のはずだ。

皆学校はどうしたんだろうか。

……ああ、そうだ、今日は11月23日。祝日だ。

仕事を辞めて今日が何日なのかも分からなくなっていた。

「重症だな」と誰にともなく呟いて、そこまできつくないはずの日差しの中を、耐えながら歩いた。
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