あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

探し物Ⅲ

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図書館は思っていたよりも人が少なかった。

お昼時というのもあるのかもしれない。

適当な本棚の前に立って、どうしようかと考える。

タイトルと作者以外から本を探す方法なんてあるのか。

そもそも僕は普段本を読まない。

紗苗さんに薦められた本ですら読まなかったくらいに。

だから、有名な作者の本を見てみようかと思っても、誰が有名なのかすら知らない。

そして、紗苗さんが好きな作者が誰なのかも、どんな話が好きなのかも、もちろん覚えていないし、分からない。

今朝の夢の続き。紗苗さんは、あの後なんて言ったのだろう。

もう少し夢を見ていたらヒントがあったかもしれない。

僕の記憶の深くに埋まっているものが掘り返されていたかもしれない。そう思うと、隣の部屋の男の子を理不尽に恨んでしまいそうになる。


見つからなくてもいいとは思っていたけど、ここまで手掛かりがなかったらそれ以前の話だ。

目の前の本棚に並んでいる本を一つ一つ見ていく。

とりあえず小説の棚は一通り見終わったが、それっぽいものは見つからない。

というか、どれがそれっぽいのかも分からない。

結果、僕はただ背表紙を片っ端から眺めただけだった。


ああ、何か手掛かりはないのか。……ああ、そうだ、あの本の表紙は黒っぽくて、


「あの、」


途端、後ろから声がかけられた。

振り向くと、女の子が立っていた。黒くて少しふわふわした胸くらいまでの髪を結ぶことなくたらしている。

高校生くらいだろうか。

そこで、ずっとこの本棚の前に突っ立っていることに気が付いた。


「ああ、ごめんね、邪魔だったかな」


全く見つかりそうな感じはないが、もう少しで表紙が思い出せそうだ。

とりあえず外に出ようと入口の方へ向かうと、女の子は言った。


「あ、いえ、そうではなくて」


そうじゃない?

じゃあ何だろう。女子高生に話しかけられるような楽しい人生は送っていないはずだ。


「えっと、僕に用?」

「さっきからずっと本を探しているようなので、何かお手伝いできないかと思って」


驚いた。が、納得もする。

僕が図書館にきてもう一時間。

つまり、本棚の前をうろうろして一時間。

この子がいつからここにいるのかは分からないが、見かねて声をかけてくれたのだろう。

だが、


「ありがたいんだけど、探している本のタイトルすら分からないんだ。だから、僕のことは気にしないで」


タイトルの作者も分からない無謀な探し物にこの子を付き合わせるわけにはいかない。

探している僕ですらもう嫌になってきているというのに。


「じゃあ作者も分からないんですよね? 内容とか表紙とかは?」


申し出を断った僕の言葉を無視して、女の子は言った。



「本当に無謀なことだから。君を巻き込むのは申し訳ないんだ」


再び断るが首を振られる。


「大丈夫ですよ。あまり長くは付き合えませんが、タイトルすら分からない本をそんなにも必死に探すなんて、どんな本なんだろうって」


私が気になるので一緒に探したいんです、と言って笑った。そう言われるともう断る理由が見つからない。
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