あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

偶然の出会いⅠ

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本は次の日の昼過ぎに読み終わった。

まさかこんなに早く読み終わるとは思わなかった。

思ったよりも読みやすかったのと、他にすることがないのが理由だと思う。


「これが紗苗さんの好きだった本か……」


読み終わった本を右手に持って改めて眺めてみる。

読み終わってみると、もう読む前ほどの感動はなかった。


遅めのお昼ご飯を食べ、本を返しに行くために部屋を出ようとしたその時、部屋の隅にひっそりと置いてあるギターが目についた。

大学生の時に、紗苗さんに言われて始めたアコースティックギター。

もう何年も弾いていないそれにもう一度触れてみようと思ったのは、昨日の女の子の笑顔が眩しかったから。

弾くことが楽しくてたまらなかったあの頃を思い出したいと思ったから。

ついでにどこかで弾こうと思い、ギターを背負って部屋を出た。


図書館で本を返し、アパートから少し離れたところにある河原へ足を向ける。

五年前まではそこでギターを弾いていた。

紗苗さんと二人で並んで座っていた。

河原へ着くと、小学生がサッカーをしているのが見えた。

ほどよくにぎやかでうるさすぎない、ギターを弾くにはちょうどいい。

昔座っていたところは敢えて避けた。

紗苗さんがいないのに同じ場所に座るのはなんだか寂しくなりそうで。

斜面に腰を下ろし、ギターケースを開けると、弦はすっかり錆びて色が変わっていた。

五年弾いていないということは五年弦を張り替えていないということ。

当たり前だ。

明日にでも楽器店に行って新しい弦を買わないとな、とぼんやり思いながらギターを持つと、不思議なくらい手になじんだ。


チューニングをして鳴らしてみる。

驚くほどに手が動く。体が覚えている。

特に意識せずに弾いたが、これは紗苗さんの一番好きだった曲だ。

小声で歌うと、懐かしさに涙が出そうになった。

こらえようと唇をかんだ時、後ろから歌声が聞こえた。

途切れた僕の歌を引き継ぐように歌う女の人の声。

一瞬、紗苗さんかと思ってしまった。思って、ため息が出た。

どんな人が歌っているのか気になる。振り向きたいけど、ギターを鳴らし続けた。

せっかく綺麗な歌声なのに途中で止めるのはもったいない気がして。


この曲の終わりはどんなのだったかなと考えたその時、手が滑り、盛大に間違えてしまった。ギターの音とともに声も止まる。

振り向こうとすると、先に僕の右隣に誰かが座った。
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