あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

偶然の出会いⅡ

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「惜しかったですね」


そこにいたのは昨日図書館で会ったあの女の子だった。

今日は制服を着ている。この近くの高校の制服。

驚きが顔に出た僕を見て女の子は笑った。


「こんにちは」

「あ、うん、こんにちは」


慌てて挨拶を返す僕はきっとすごくかっこ悪かっただろう。

ごまかすように咳払いをして、話題を振ろうとすると、女の子の方が先に喋り始めた。


「お兄さん、ギター上手なんですね」

「あ、ありがとう。趣味でやってるだけだから、うまいなんて言えるほどではないんだけどね」


どうも会話の主導権を握られている。

最近の高校生はすごいな。

僕なんて高校生の時他人に話しかけるなんてもっての他だったのに。


「まさかこんなところで会えるなんて思いませんでした。びっくりです」

「僕もびっくりしたよ。まさか君だとは思わなかった」


本当になんて偶然なんだと思う。

というか、この子が僕を見かけて話しかけてきたことにびっくりした。

声をかけずに後ろを通り過ぎていたら僕は絶対に気が付かなかっただろうし。

昨日の言葉は社交辞令じゃなかったんだと驚いた。


「ちょっと前に音楽で習った曲なんです。この曲好きで、歩いていたら聞こえてきたので」


女の子は「つい歌っちゃいました」と笑いながら言った。

最近の高校生もこの曲を音楽で習うんだな。

世代を超えて愛される名曲だと紗苗さんが言っていたのを思い出した。


「それ音があっていませんね」

「ああ、うん、弦が錆びているから音程が狂うんだ」


そう言いながらも僕は原因がそれだけではないことを知っていた。

というのも、僕はあまり耳がよくない。

昔からチューニングしたつもりが全然あっていないことが多々あった。

紗苗さんにもよく指摘をされたものだ。

だけどそれを知られるのが恥ずかしくて、錆びた弦のせいにしてしまった。

なんだかばつが悪くてかゆくもない頬をかくと、錆びの匂いがした。


「サックスは部活で?」

「はい、吹奏楽部でした。夏にもう引退しましたけどね」


ということはこの子は三年生か。

錆びた弦の具合を改めて見てみるが、やっぱりこれはもうだめだ。

今日は弾かないほうがいいだろう。


「すごいね。部活を引退しても吹いてるって」

「すごくはありませんよ。別にうまいわけでもないのに、まだ吹いてしまうだけなんです」

「楽しいからでしょ? うまいとかうまくないとか関係なく、楽器は楽しむことが大切なんだ。それって結構難しいことだよ」


ギターをケースにしまいながらそう言うと、女の子から返事がなかった。
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