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第一章
偶然の出会いⅣ
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「さて」
少しすると突然麗奈ちゃんが立ち上がった。
「私そろそろ帰らないといけません」
その時、五時を知らせる鐘が聞こえた。
ああ、もうそんな時間か。どおりで薄暗いわけだ。
「近くまで送っていくよ。もう暗いし」
僕も立ち上がりながらそう言うと、麗奈ちゃんはもうすでに歩き出していて、立ち止まってこちらを振り返った。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。走って帰るので」
それでもこんな時間に女の子を一人で帰らせるわけにはいかない。
しかし、僕が声を出す前に麗奈ちゃんが言った。
「また弘介さんのギターを聞きたいです」
「え?」
「明日、ここで」
そう言うなり、本当に走って行ってしまった。
大人しくて落ち着いているけど、たまに僕の言葉を聞いてくれない子だ。
麗奈ちゃんは少しだけ紗苗さんに似ているような気がする。
――また弘介さんのギターが聞きたいです。明日、ここで。
麗奈ちゃんの言葉が頭の中でこだまする。
もう会わないんじゃないかと思ったが、まだ次があるようだ。
明日はギターの弦を張り替えて待っていようと思った。
次の日も麗奈ちゃんは同じくらいの時間に来た。
「こんにちは」
「こんにちは。待たせてすみません」
「待ってないよ」
そうは言ったが、実はもう二時間くらいここにいる。
というのも他にすることもなく暇だったからだ。
午前中に楽器店へ行って、ついでに美味しいと評判のお菓子屋さんに行ってみた。
そして昼食を食べてここへ来た。
ここへ来る途中に散歩がてらうろうろしてみたが、あまり時間はつぶせなかった。
「お腹空いてない? これあるんだけど」
お菓子屋さんで買ったクッキーを出すと、麗奈ちゃんは目を輝かせた。
「これ、あのお店のじゃないですか! 食べてもいいんですか!?」
思っていたよりも喜ばれて、僕も嬉しくなる。
「どうぞ」
「ありがとうございます。私ここのお菓子大好きなんです!」
この子、こんな顔もできるんだな。
昨日も一昨日も麗奈ちゃんはどこか大人びていたから、子供のように笑うその顔は意外だった。
麗奈ちゃんは昨日と同じように僕の右隣に座り、「いただきます」と手を合わせた。
膝にはハンカチをひいている。女の子だなと思う。
紗苗さんも外で何かを食べるときはそうしていたことを思い出した。
「美味しいです。弘介さんも半分食べませんか?」
麗奈ちゃんは本当にいい子だ。
本も、お菓子も僕に譲ってくれようとする。
それに言葉の端々に丁寧さを感じる。
ちゃんと考えて喋っているようだ。思ったことをすぐに口にする僕とは大違い。
麗奈ちゃんと高校生ってこんなに大人だったかなと何回も思う。
「いや、いいよ。麗奈ちゃんのために買って来たんだから」
口をついて出た言葉にはっとした。
今考えていたところだったのに、また思ったことがすぐに言葉になった。
誤解を生むような言い方をしたかもしれない。
麗奈ちゃんを見ると、一瞬驚いたような顔をしていたがすぐに笑顔になった。
「わざわざありがとうございます。嬉しいです」
どうやら引かれていないようだ。よかった。
少しすると突然麗奈ちゃんが立ち上がった。
「私そろそろ帰らないといけません」
その時、五時を知らせる鐘が聞こえた。
ああ、もうそんな時間か。どおりで薄暗いわけだ。
「近くまで送っていくよ。もう暗いし」
僕も立ち上がりながらそう言うと、麗奈ちゃんはもうすでに歩き出していて、立ち止まってこちらを振り返った。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。走って帰るので」
それでもこんな時間に女の子を一人で帰らせるわけにはいかない。
しかし、僕が声を出す前に麗奈ちゃんが言った。
「また弘介さんのギターを聞きたいです」
「え?」
「明日、ここで」
そう言うなり、本当に走って行ってしまった。
大人しくて落ち着いているけど、たまに僕の言葉を聞いてくれない子だ。
麗奈ちゃんは少しだけ紗苗さんに似ているような気がする。
――また弘介さんのギターが聞きたいです。明日、ここで。
麗奈ちゃんの言葉が頭の中でこだまする。
もう会わないんじゃないかと思ったが、まだ次があるようだ。
明日はギターの弦を張り替えて待っていようと思った。
次の日も麗奈ちゃんは同じくらいの時間に来た。
「こんにちは」
「こんにちは。待たせてすみません」
「待ってないよ」
そうは言ったが、実はもう二時間くらいここにいる。
というのも他にすることもなく暇だったからだ。
午前中に楽器店へ行って、ついでに美味しいと評判のお菓子屋さんに行ってみた。
そして昼食を食べてここへ来た。
ここへ来る途中に散歩がてらうろうろしてみたが、あまり時間はつぶせなかった。
「お腹空いてない? これあるんだけど」
お菓子屋さんで買ったクッキーを出すと、麗奈ちゃんは目を輝かせた。
「これ、あのお店のじゃないですか! 食べてもいいんですか!?」
思っていたよりも喜ばれて、僕も嬉しくなる。
「どうぞ」
「ありがとうございます。私ここのお菓子大好きなんです!」
この子、こんな顔もできるんだな。
昨日も一昨日も麗奈ちゃんはどこか大人びていたから、子供のように笑うその顔は意外だった。
麗奈ちゃんは昨日と同じように僕の右隣に座り、「いただきます」と手を合わせた。
膝にはハンカチをひいている。女の子だなと思う。
紗苗さんも外で何かを食べるときはそうしていたことを思い出した。
「美味しいです。弘介さんも半分食べませんか?」
麗奈ちゃんは本当にいい子だ。
本も、お菓子も僕に譲ってくれようとする。
それに言葉の端々に丁寧さを感じる。
ちゃんと考えて喋っているようだ。思ったことをすぐに口にする僕とは大違い。
麗奈ちゃんと高校生ってこんなに大人だったかなと何回も思う。
「いや、いいよ。麗奈ちゃんのために買って来たんだから」
口をついて出た言葉にはっとした。
今考えていたところだったのに、また思ったことがすぐに言葉になった。
誤解を生むような言い方をしたかもしれない。
麗奈ちゃんを見ると、一瞬驚いたような顔をしていたがすぐに笑顔になった。
「わざわざありがとうございます。嬉しいです」
どうやら引かれていないようだ。よかった。
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