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第一章
偶然の出会いⅤ
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麗奈ちゃんがクッキーを食べている間、僕はすることがなくて、適当に辺りを見た。
今日は特に寒い。
もう冬になったと言ってもおかしくない気温に道行く人は皆、心なしか速足だ。
その中に一人、こっちを、というか麗奈ちゃんを見ている姿があった。
麗奈ちゃんと同じ学校の制服を着ている男の子だ。麗奈ちゃんの知り合いかな。
そう思っていると目が合った。
「あ、」
すると、男の子は周りの人よりも明らかに早足で歩いていく。
というか、走って行った。
「どうしました?」
麗奈ちゃんが僕の視線を追って見るが、そこにはもう男の子の姿はない。
「なんでもないよ」
麗奈ちゃんに用があるなら声をかけただろうし、急ぎではないんだろう。
「それより、今日はギターを弾いていないんですね」
クッキーを食べ終えた麗奈ちゃんは「ごちそうさまでした」と丁寧にあいさつをしてハンカチをたたんでいる。
「うん、ちょっと手伝ってもらおうと思って」
僕はギターをケースから出して一本弦をはじいた。
すると心底不思議そうな微妙な顔をされた。
その顔が少しおかしくて、僕は笑いながらもう一本はじく。
今度は可笑しそうに笑った。
「あはは、なんですか、その音」
「だから手伝ってほしいんだ。僕はチューニングが得意じゃなくてね」
白状しながらそう言うと、「任せてください」と言われたので、弦をもう一本はじいてみた。
またまた盛大に笑われた。
事の顛末はたいしたことではない。
ただギターの弦を張り替えただけ。
新しく弦を張っていざチューニングをすると、どの音が正しいのか分からなくなった。
ただそれだけの話だ。
僕が鳴らす音を聞いて麗奈ちゃんが高いか低いかを教えてくれる。
「それ少し高いです。あ、ちょっと低すぎ……そう、そこです」
最後の一本の調弦が終わった。
一人で三十分くらい格闘してできなかったことがたった五分足らずでできてしまった。
「ありがとう。すごいね、麗奈ちゃん」
「そんな、たいしたことありませんよ」
麗奈ちゃんは謙遜してそう言うが、気付いているのだろうか。
僕がそのたいしたことないことすらできないことに。
悲しくなってきた。そう思った途端、麗奈ちゃんが「あ」と口を押えた。
どうも気付いたようだ。
「あの、その、」
慌てて言葉を探してくれているが、僕は年下に気を使わせてしまったことに更に悲しくなった。
「いいよ、気にしないで。紗苗さんにもよくからかわれたから」
何気なくそう言ってしまった。
「紗苗さん……?」
ああ、やってしまった。
つい紗苗さんの名前が口をついて出た。
どうにかごまかさないと。
必死でいつも通りの声を出した。
「ああ、ごめん、昔の知り合いだよ」
紗苗さんを『知り合い』だなんて言葉で表現するのは吐き気がするほど嫌だったが、まさか亡くなった恋人だなんて言えない。
言ったらきっと麗奈ちゃんは僕に気を使ってしまうから。
そして、何より僕が言いたくない。
紗苗さんのことを軽い気持ちで話したくない。
僕の紗苗さんへの気持ちはそんなに安っぽくない。
今日は特に寒い。
もう冬になったと言ってもおかしくない気温に道行く人は皆、心なしか速足だ。
その中に一人、こっちを、というか麗奈ちゃんを見ている姿があった。
麗奈ちゃんと同じ学校の制服を着ている男の子だ。麗奈ちゃんの知り合いかな。
そう思っていると目が合った。
「あ、」
すると、男の子は周りの人よりも明らかに早足で歩いていく。
というか、走って行った。
「どうしました?」
麗奈ちゃんが僕の視線を追って見るが、そこにはもう男の子の姿はない。
「なんでもないよ」
麗奈ちゃんに用があるなら声をかけただろうし、急ぎではないんだろう。
「それより、今日はギターを弾いていないんですね」
クッキーを食べ終えた麗奈ちゃんは「ごちそうさまでした」と丁寧にあいさつをしてハンカチをたたんでいる。
「うん、ちょっと手伝ってもらおうと思って」
僕はギターをケースから出して一本弦をはじいた。
すると心底不思議そうな微妙な顔をされた。
その顔が少しおかしくて、僕は笑いながらもう一本はじく。
今度は可笑しそうに笑った。
「あはは、なんですか、その音」
「だから手伝ってほしいんだ。僕はチューニングが得意じゃなくてね」
白状しながらそう言うと、「任せてください」と言われたので、弦をもう一本はじいてみた。
またまた盛大に笑われた。
事の顛末はたいしたことではない。
ただギターの弦を張り替えただけ。
新しく弦を張っていざチューニングをすると、どの音が正しいのか分からなくなった。
ただそれだけの話だ。
僕が鳴らす音を聞いて麗奈ちゃんが高いか低いかを教えてくれる。
「それ少し高いです。あ、ちょっと低すぎ……そう、そこです」
最後の一本の調弦が終わった。
一人で三十分くらい格闘してできなかったことがたった五分足らずでできてしまった。
「ありがとう。すごいね、麗奈ちゃん」
「そんな、たいしたことありませんよ」
麗奈ちゃんは謙遜してそう言うが、気付いているのだろうか。
僕がそのたいしたことないことすらできないことに。
悲しくなってきた。そう思った途端、麗奈ちゃんが「あ」と口を押えた。
どうも気付いたようだ。
「あの、その、」
慌てて言葉を探してくれているが、僕は年下に気を使わせてしまったことに更に悲しくなった。
「いいよ、気にしないで。紗苗さんにもよくからかわれたから」
何気なくそう言ってしまった。
「紗苗さん……?」
ああ、やってしまった。
つい紗苗さんの名前が口をついて出た。
どうにかごまかさないと。
必死でいつも通りの声を出した。
「ああ、ごめん、昔の知り合いだよ」
紗苗さんを『知り合い』だなんて言葉で表現するのは吐き気がするほど嫌だったが、まさか亡くなった恋人だなんて言えない。
言ったらきっと麗奈ちゃんは僕に気を使ってしまうから。
そして、何より僕が言いたくない。
紗苗さんのことを軽い気持ちで話したくない。
僕の紗苗さんへの気持ちはそんなに安っぽくない。
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