あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

彼と彼女Ⅴ

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「その言い方おじさんみたいですよ」

「麗奈ちゃんからしたら僕なんておじさんだよ」

「あはは、そんなことありませんよ」


そう言って、「だって」と続ける。


「そんなこと言ったら九年後に泣くことになるじゃないですか。私二十七歳でおばさんだなんて言われたくありませんよ」


それはそうだ。すごく納得してしまった。

麗奈ちゃんの隣に腰を下ろしてギターを取り出そうとした時、


「麗奈!」


後ろから麗奈ちゃんを強く呼ぶ声が聞こえた。

何事かと二人で振り返ると、そこには制服姿の男の子が立っていた。

あ、この前こっちを見ていた男の子だ。


「山本君……」


怒っているように見えるその男の子は麗奈ちゃんの知り合いのようだ。

まあ同じ学校の制服だし、知り合いじゃなかったらなんだという話なんだけど。

僕と麗奈ちゃんが立ち上がると、山本君は僕を指さして言った。


「麗奈、このおっさんはなんだよ」


グサッと胸に刺さった。つい今しがたその話は終わったというのに。


「その話はもういいから」


麗奈ちゃんが言った。

同じことを思っていたようで、訳が分からない山本君を無視して、僕を見ると可笑しそうに笑う。


「その話って何の話だよ」

「こっちの話だよ」


麗奈ちゃんはそう言いながらもまだ可笑しそうに笑っている。

何がそんなに面白いのか分からないけど、ツボにはまってしまったんだろう。


「なんなんだよ!」


怒っているところに自分のよく分からないことで笑われたら、ムカつくよね。

まあ怒っている時じゃなくてもムカつくか。

麗奈ちゃんはようやく笑い止むと、僕にも分かるくらい冷ややかな声で言った。


「それで、何?」


うわ、こわ……。

山本君はたじろぎながらも負けじと言う。


「何って、こいつはなんなんだよ!」


いや、別に何でもないんだけど。そんなに怒鳴らないで欲しい。

麗奈ちゃんも山本君も怒っていて、二人の関係がよく分からない。

仲良さそうには見えないけど。


「別になんでもいいでしょ。用事はそれだけ?」

「なんでもよくねえよ!」


山本君の叫び声に、道を歩いていた下校中の生徒が皆こっちを見た。

いや、これどういう状況なんだ?


「麗奈ちゃん、僕帰ろうか?」


山本君は僕に対して怒っているような気がする。

僕がこの場をややこしくするなら帰った方がいいのかも。

もう遅い気もするけど。


「いえ、すぐ終わるので。すみませんが少し待ってもらえますか?」

「帰れよ! もうここに来るな!」


いつも通りの声で僕にそう言う麗奈ちゃん。対して怒鳴る山本君。

僕は思わずため息をついてしまった。隣で麗奈ちゃんもため息をつく。


「もうとっくに別れてるの、覚えてるでしょ。あの日、山本君がなんて言ったか」

「別れてねえよ。最近は一緒に帰ってなかったけど、俺は別れるなんて一言も言ってないだろ」
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