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第一章
告白Ⅱ
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「明日はギター教えてくれますか?」
「うん」
今日は時間はあったけどそんな気分ではなかったし、多分麗奈ちゃんもそうだったと思うから、ギターはずっとケースの中だ。
冷たい風が吹く。
麗奈ちゃんの長い髪が揺れている。
それをなんとなく眺めていると、麗奈ちゃんがぽつりと言った。
「さっき、年下には興味ないって言ったじゃないですか?」
「うん」
何が言いたいのかと麗奈ちゃんを見るが、俯いているのと暗いので、その表情はよく見えない。
ただ、いつもとは少し雰囲気が違うように見えた。
「どうしたの?」
何も言わない麗奈ちゃんに聞いてみるが返事はない。
これ以上何かを言うのも気まずくて、左側に置いてあるギターケースを撫でてみる。
こつん、と何かに手が当たった。
手元に視線を落とす。紗苗さんの写真。
手が当たった時に開いてしまったのか、暗い中でも紗苗さんがこっちを見ているのが分かった。
急に麗奈ちゃんが立ち上がる。
「帰る?」
僕もギターを持って立ち上がると、麗奈ちゃんが言った。
「私も、年下なので興味ないですか?」
いつものはきはきした喋り方じゃない。
まるで何かを迷っているかのようだった。
麗奈ちゃんが何を言いたいのかはなんとなく分かった。
無意識に紗苗さんの写真をぐっと握っていた。
「そうだね、年下には興味ないんだ」
さっきと同じ言葉をもう一度言う。
もうここで終わってくれ。
これ以上何も言わずにまたこの一週間のような関係でいたい。
麗奈ちゃんと過ごす穏やかな時間はできればなくしたくはないものだった。
だけど、麗奈ちゃんは口を開く。
「……私は、弘介さんを好きになってしまったんですけど」
今にも泣き出しそうな小さな声だった。
ああ、大人びているけどこの子はまだ高校生なんだ。
本当は聞こえなかったふりをしてもう会わないつもりだった。
その声を聞いたらそんな酷いことはできなかった。
「ありがとう。でも僕はダメだ」
好きな人を殺した男なんて好きになっちゃダメだ。
「僕は麗奈ちゃんには釣り合わない。釣り合う努力なんてできないし、するつもりもない。僕は麗奈ちゃんを好きになれない」
はっきりとそう言うと麗奈ちゃんはようやく顔を上げて僕を見た。
暗くてよく見えなかった。だけど、その表情は笑っているようだった。
「そうですか」
麗奈ちゃんはそれだけ言うと歩き出す。
「あ、」
送っていくよ。そう言おうとして言葉が出なかった。
真っ暗な中一人で帰らせるのは危ない。
だけど、たった今自分を振った男と一緒に歩くのは、麗奈ちゃんは嫌かもしれない。
迷って、やっぱり送って行こうとした時、麗奈ちゃんが振り返っていつもと同じ声で言った。
「大丈夫です。一人で帰れるので。では」
そう言って走って行ってしまう。僕はしばらくその場から動けなかった。
「うん」
今日は時間はあったけどそんな気分ではなかったし、多分麗奈ちゃんもそうだったと思うから、ギターはずっとケースの中だ。
冷たい風が吹く。
麗奈ちゃんの長い髪が揺れている。
それをなんとなく眺めていると、麗奈ちゃんがぽつりと言った。
「さっき、年下には興味ないって言ったじゃないですか?」
「うん」
何が言いたいのかと麗奈ちゃんを見るが、俯いているのと暗いので、その表情はよく見えない。
ただ、いつもとは少し雰囲気が違うように見えた。
「どうしたの?」
何も言わない麗奈ちゃんに聞いてみるが返事はない。
これ以上何かを言うのも気まずくて、左側に置いてあるギターケースを撫でてみる。
こつん、と何かに手が当たった。
手元に視線を落とす。紗苗さんの写真。
手が当たった時に開いてしまったのか、暗い中でも紗苗さんがこっちを見ているのが分かった。
急に麗奈ちゃんが立ち上がる。
「帰る?」
僕もギターを持って立ち上がると、麗奈ちゃんが言った。
「私も、年下なので興味ないですか?」
いつものはきはきした喋り方じゃない。
まるで何かを迷っているかのようだった。
麗奈ちゃんが何を言いたいのかはなんとなく分かった。
無意識に紗苗さんの写真をぐっと握っていた。
「そうだね、年下には興味ないんだ」
さっきと同じ言葉をもう一度言う。
もうここで終わってくれ。
これ以上何も言わずにまたこの一週間のような関係でいたい。
麗奈ちゃんと過ごす穏やかな時間はできればなくしたくはないものだった。
だけど、麗奈ちゃんは口を開く。
「……私は、弘介さんを好きになってしまったんですけど」
今にも泣き出しそうな小さな声だった。
ああ、大人びているけどこの子はまだ高校生なんだ。
本当は聞こえなかったふりをしてもう会わないつもりだった。
その声を聞いたらそんな酷いことはできなかった。
「ありがとう。でも僕はダメだ」
好きな人を殺した男なんて好きになっちゃダメだ。
「僕は麗奈ちゃんには釣り合わない。釣り合う努力なんてできないし、するつもりもない。僕は麗奈ちゃんを好きになれない」
はっきりとそう言うと麗奈ちゃんはようやく顔を上げて僕を見た。
暗くてよく見えなかった。だけど、その表情は笑っているようだった。
「そうですか」
麗奈ちゃんはそれだけ言うと歩き出す。
「あ、」
送っていくよ。そう言おうとして言葉が出なかった。
真っ暗な中一人で帰らせるのは危ない。
だけど、たった今自分を振った男と一緒に歩くのは、麗奈ちゃんは嫌かもしれない。
迷って、やっぱり送って行こうとした時、麗奈ちゃんが振り返っていつもと同じ声で言った。
「大丈夫です。一人で帰れるので。では」
そう言って走って行ってしまう。僕はしばらくその場から動けなかった。
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