あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

告白Ⅲ

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いつもの場所でギターを弾く。

昨日あんなことがあったというのに、朝起きてみると僕は驚くほどいつも通りだった。

いつも通り紗苗さんの夢を見て、いつも通りギターを弾く。

場所を変えようかとも思ったけど他にいい場所が見つからなかった。

どっちにしろ、麗奈ちゃんは僕を見てももう寄ってこないだろう。

僕も振り返って道を見なかったらいいだけの話だ。

そうしたら麗奈ちゃんがこの道を通ってももう会うことはない。


ただ無心でギターを弾いている内に、誰かが僕の右隣に座る気配がした。

びっくりして手を止めてそちらを見る。


「こんにちは」

「え? あ、こんにちは」


あれ、何でこの子がここにいるんだ?

茶色い髪が風に揺れている。

麗奈ちゃんが来るはずないとは思っていたけど、麗奈ちゃん以上にいるはずのない子が座っていた。


「えっと、あずちゃんだよね……?」

「はい、あずです。驚かせてすみません」


あずちゃんは笑ってそう言うと僕のギターを指さした。


「それ音外れてません?」


この子にも指摘されるのか。

麗奈ちゃんと言いあずちゃんと言い最近の子は耳がいいな。


「うん、気にしないで。それよりどうしたの?」


そう聞くとあずちゃんは目的を思い出したかのように、ああ、と言った。


「昨日麗奈と何かありました?」


ドキッとして、それを隠すようにギターを触る。


「どうして?」

「なんか今日様子がおかしかったんですよね。珍しく真っすぐ家に帰って行きましたし」

「そうだね、もうここには寄らないと思うよ」


そう、きっとギターを弾く僕を見て素通りして行っただろう。

いつも麗奈ちゃんが来る時間はとっくに過ぎている。

麗奈ちゃんはもう僕に笑いかけてくれないだろうし、チューニングを手伝ってくれない。

僕は音程の狂ったギターを弾き続けるしかない。こればっかりは仕方がない。

とりあえず今日はあずちゃんに手伝ってもらうか。ため息をついたその時だった。


「あず、何してるの?」


いつもの声が聞こえた。

驚いて振り返ると、彼女は「こんにちは」と笑った。


「こんにちは……」


ここにいるはずのない姿を見て、呆けた声が出た。


「麗奈、帰ったんじゃなかったの?」


あずちゃんも驚いているようだ。


「うん、一回帰ってサックスとってきたの。今日は吹きたい気分だから」


手に持った黒いケースは初めて会ったあの時に持っていた物と同じだ。

僕は何も言葉が出ず、ただ二人の会話を聞いているしかない。


「それよりあず、約束があるんでしょ。早く行きなよ」


麗奈ちゃんはあずちゃんの腕を引っ張って立たせると、まるで追い払うようにその背を押した。


「はいはい、分かったよ。余計な世話をやいてごめんね」


あずちゃんはそのまま手を振って歩いて行ってしまった。

僕は麗奈ちゃんと二人取り残されて、情けないことにどうすればいいのか分からない。

麗奈ちゃんはいつものように僕の隣に座ると、黒いケースを開けた。
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