あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

告白Ⅳ

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「驚きましたか?」


サックスを組み立てながらそう言われる。その声は不自然なほどいつも通りだ。


「……もう来ないかと思ってた」

「今日はギター教えてくれるって言ったじゃないですか」

「うん、言ったけど」


気まずくないの? と聞こうとして止めた。

気まずいと言われたら僕はどうしていいか分からないから。

麗奈ちゃんが今まで通りなら僕もそう振舞おうと思った。


「その前に一曲吹いてもいいですか?」

「うん」


僕が頷くと麗奈ちゃんは立ち上がって吹き始めた。

冷たい空気を裂くようにはっきりとした音が響き渡った。

サックスってこんな音なんだ。

楽器と言えばリコーダーや鍵盤ハーモニカ、そしてギターくらいしか触ったことのない僕は、初めてまともに聞いたサックスの音に鳥肌が立った。


僕の知らない曲を吹き終わった麗奈ちゃんは、はにかんで僕を見た。


「聞かれていると思ったら緊張しますね」

「すごいね。感動したよ」


そう言うと、麗奈ちゃんは再び座りながら言った。


「ありがとうございます。でも全然上手くないんですよ」


正直、上手い下手なんて僕には分からないので、それが謙遜なのか本心からの言葉なのかも分からない。

だけど、


「それでも僕は麗奈ちゃんの出す音が好きだよ」


素直にそう思った。麗奈ちゃんは一瞬驚いたような顔をしていたがすぐに笑う。


「おせじでも嬉しいです」


おせじではないんだけどな。そう思ったけど、あまり言いすぎても嘘っぽくなるので、


「また気が向いたら聞かせてくれる?」


そう言うと、麗奈ちゃんは「もちろんです」と言った。その笑顔は嬉しそうに見えた。


サックスをケースにしまい終わった麗奈ちゃんが僕を見る。


「ギター、教えてくれますか?」

「うん」


僕がそれまで抱えていたギターを麗奈ちゃんの膝にのせる。


「意外と軽いんですね」

「そうかな。僕にはすごく重たく感じるよ」

「え?」


麗奈ちゃんが不思議そうに僕を見た。


「何でもないよ」


持ってきたギター教本を出して、いつでも見られるように隣に置く。


「とりあえずチューニングからしようか」


そう言って、付け加える。


「これに関しては僕の方が教えて欲しいくらいだけどね」


その言葉に麗奈ちゃんは可笑しそうに笑った。
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