23 / 89
第一章
告白Ⅳ
しおりを挟む
「驚きましたか?」
サックスを組み立てながらそう言われる。その声は不自然なほどいつも通りだ。
「……もう来ないかと思ってた」
「今日はギター教えてくれるって言ったじゃないですか」
「うん、言ったけど」
気まずくないの? と聞こうとして止めた。
気まずいと言われたら僕はどうしていいか分からないから。
麗奈ちゃんが今まで通りなら僕もそう振舞おうと思った。
「その前に一曲吹いてもいいですか?」
「うん」
僕が頷くと麗奈ちゃんは立ち上がって吹き始めた。
冷たい空気を裂くようにはっきりとした音が響き渡った。
サックスってこんな音なんだ。
楽器と言えばリコーダーや鍵盤ハーモニカ、そしてギターくらいしか触ったことのない僕は、初めてまともに聞いたサックスの音に鳥肌が立った。
僕の知らない曲を吹き終わった麗奈ちゃんは、はにかんで僕を見た。
「聞かれていると思ったら緊張しますね」
「すごいね。感動したよ」
そう言うと、麗奈ちゃんは再び座りながら言った。
「ありがとうございます。でも全然上手くないんですよ」
正直、上手い下手なんて僕には分からないので、それが謙遜なのか本心からの言葉なのかも分からない。
だけど、
「それでも僕は麗奈ちゃんの出す音が好きだよ」
素直にそう思った。麗奈ちゃんは一瞬驚いたような顔をしていたがすぐに笑う。
「おせじでも嬉しいです」
おせじではないんだけどな。そう思ったけど、あまり言いすぎても嘘っぽくなるので、
「また気が向いたら聞かせてくれる?」
そう言うと、麗奈ちゃんは「もちろんです」と言った。その笑顔は嬉しそうに見えた。
サックスをケースにしまい終わった麗奈ちゃんが僕を見る。
「ギター、教えてくれますか?」
「うん」
僕がそれまで抱えていたギターを麗奈ちゃんの膝にのせる。
「意外と軽いんですね」
「そうかな。僕にはすごく重たく感じるよ」
「え?」
麗奈ちゃんが不思議そうに僕を見た。
「何でもないよ」
持ってきたギター教本を出して、いつでも見られるように隣に置く。
「とりあえずチューニングからしようか」
そう言って、付け加える。
「これに関しては僕の方が教えて欲しいくらいだけどね」
その言葉に麗奈ちゃんは可笑しそうに笑った。
サックスを組み立てながらそう言われる。その声は不自然なほどいつも通りだ。
「……もう来ないかと思ってた」
「今日はギター教えてくれるって言ったじゃないですか」
「うん、言ったけど」
気まずくないの? と聞こうとして止めた。
気まずいと言われたら僕はどうしていいか分からないから。
麗奈ちゃんが今まで通りなら僕もそう振舞おうと思った。
「その前に一曲吹いてもいいですか?」
「うん」
僕が頷くと麗奈ちゃんは立ち上がって吹き始めた。
冷たい空気を裂くようにはっきりとした音が響き渡った。
サックスってこんな音なんだ。
楽器と言えばリコーダーや鍵盤ハーモニカ、そしてギターくらいしか触ったことのない僕は、初めてまともに聞いたサックスの音に鳥肌が立った。
僕の知らない曲を吹き終わった麗奈ちゃんは、はにかんで僕を見た。
「聞かれていると思ったら緊張しますね」
「すごいね。感動したよ」
そう言うと、麗奈ちゃんは再び座りながら言った。
「ありがとうございます。でも全然上手くないんですよ」
正直、上手い下手なんて僕には分からないので、それが謙遜なのか本心からの言葉なのかも分からない。
だけど、
「それでも僕は麗奈ちゃんの出す音が好きだよ」
素直にそう思った。麗奈ちゃんは一瞬驚いたような顔をしていたがすぐに笑う。
「おせじでも嬉しいです」
おせじではないんだけどな。そう思ったけど、あまり言いすぎても嘘っぽくなるので、
「また気が向いたら聞かせてくれる?」
そう言うと、麗奈ちゃんは「もちろんです」と言った。その笑顔は嬉しそうに見えた。
サックスをケースにしまい終わった麗奈ちゃんが僕を見る。
「ギター、教えてくれますか?」
「うん」
僕がそれまで抱えていたギターを麗奈ちゃんの膝にのせる。
「意外と軽いんですね」
「そうかな。僕にはすごく重たく感じるよ」
「え?」
麗奈ちゃんが不思議そうに僕を見た。
「何でもないよ」
持ってきたギター教本を出して、いつでも見られるように隣に置く。
「とりあえずチューニングからしようか」
そう言って、付け加える。
「これに関しては僕の方が教えて欲しいくらいだけどね」
その言葉に麗奈ちゃんは可笑しそうに笑った。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
【完結】ご期待に、お応えいたします
楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。
ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー
ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。
小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。
そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。
けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる