あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

アオイⅢ

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こんなことなら来なかった方がよかったかもしれない。

五年ぶりにここまで来て、それで得られたのはただの現実だった。

僕が紗苗さんと過ごした記憶を改ざんしていて、思っている以上に紗苗さんのことを知らなかったという、救いようのない現実。

毎日夢を見ていて、それが現実にあったものだと思っていたが、夢はそんなに都合のいいものではなかった。

当たり前だ。

当たり前だが、紗苗さんのことになるとそんな当たり前のことすら分からなくなっていたようだ。


家で一人になるには気が重くて、どこかへ行こうと思っていると無意識にいつもの河原に足を向けていた。

それに気が付いたのは河川敷でサッカーをする小学生たちが見えてからだった。

今日は麗奈ちゃんとの約束はないし、ギターも持っていない。

それでも他に行くところもなく、とりあえずいつもの場所に腰を下ろしてサッカーする子供たちを眺めた。

この寒い中なのに子供は元気だ。

薄そうなユニフォームに短いズボン。一月だと言うのにまだ半そでの子もいる。

僕も昔はそうだった気がするけど、今こうして見ていると信じられない気持ちでいっぱいだ。


ぼーっと練習をする様子を眺めていると、後ろから女の子の声が聞こえた。


「あれ?」


それが僕に向けられたものだと確信はなかったけど、反射的に振り向いていた。


「麗奈ちゃん……?」

「今日は来ないって言っていたのに……びっくりしました。今日はギター持ってないんですね」


麗奈ちゃんはそう言いながら笑って僕の隣に座った。


「うん、今日は弾く予定がなかったから。それよりなんでこんな時間に?」


僕の時間感覚がおかしいのかと思って腕時計を見てみるが、思った通りもう四時半だった。

いつも麗奈ちゃんが来る時間よりも大幅にずれている。


「学校で勉強していたらこんな時間になっちゃいました」

「勉強」


そう口の中で呟いて、麗奈ちゃんが受験生だったことを思い出した。

いつも学校の後ここでギターを弾いているけど、本当はそんな暇ないんじゃないか。

少なくとも僕はこの時期猛勉強していた記憶がある。

そんな僕の考えを見抜いて麗奈ちゃんが笑った。


「大丈夫ですよ。受験生には息抜きも必要なんです」

「息抜きって言うレベルではないと思うけど……」

「帰って勉強しているから大丈夫なんです。夜はしっかり寝てますし」


麗奈ちゃんは本当に余裕そうで、杞憂なんじゃないかと思わされる。

麗奈ちゃんがどこの大学を受けるのかは知らないし、聞くつもりもないけど、受験は決して易しいものではないだろう。

よくこんな時期にギターを教えてくれだなんて言えるな、と半ば感心する。
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