あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

弘介と紗苗Ⅳ

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秋が終わって冬も過ぎて僕が大学三年生になった頃、紗苗さんの僕の呼び方はいつの間にか『弘介君』から『こう君』に変わっていた。


「こう君、今日から三年生だね」

「紗苗さんはもう四年生だね」


いつからか図書室以外の場所でも会うようになった僕たちは、並んで桜の木を見上げていた。

もう散りかけではあるが、それでもまだ満開に近い状態だ。

花には興味ないけど、紗苗さんと一緒に見ると、どんな花でも綺麗に見えるから不思議だ。


「綺麗だね、こう君」


紗苗さんはそう言って笑う。

僕は頷いたが、桜よりも紗苗さんの方が綺麗だと思った。

半年前にに会ってから今まで、僕は紗苗さんと仲良くはなったものの、肝心なことはまだ言えずにいた。

そろそろ言おうと思っていながら、また明日また明日と先延ばしにしてしまっていた。

だけど、今がその時だと思った。


「紗苗さん」

「ん?」


後ろから呼びかけると紗苗さんが振り返って僕を見た。

紗苗さんはどんな時だって僕が呼んだらこっちを見てくれる。

そんなところがすごく好きだ。


「知ってると思うけど、紗苗さんが好きだよ」


桜を見上げたままそう言った。恥ずかしくて紗苗さんの顔が見れない。

平静を装ってはいるが、きっと僕の顔は今赤くなっていると思う。

紗苗さんの視線を感じる。

紗苗さんが今どんな顔をしているのかが気になって、思い切って紗苗さんの方を見た。

目が合うと紗苗さんはいつもと同じ穏やかな笑みを浮かべて言った。


「うん、知ってるよ」


いつもより声の調子が明るい気がする。どこか嬉しそうに見える。

ということは僕は嫌われてはいないのか。

まあ、嫌われていたら今こうして一緒にはいないだろうな。

そう思いながら次の言葉を探す。紗苗さんは僕が何かを言うまで待ってくれている。

勢いで言ったはいいものの、こういう時なんて言えばいいんだ?

付き合ってください、だとベタだし安っぽい。

僕の彼女になってくれますか、は、結構いい感じだけど、これも安っぽい。

考えているとキリがないような気がしてきた。もうなるようになれ。


「この先も僕と一緒にいてくれる?」


僕の言葉を聞いて紗苗さんは目いっぱい頷いて笑った。


「もちろんだよ」


その時の紗苗さんはすごく綺麗だった。

ようやく言えた安堵と、嬉しさと、少しの照れくささが入り混じった気持ちで、紗苗さんを見た。

すると紗苗さんは言った。


「私は結構前からこう君の彼女のつもりだったんだよ」


その言葉に顔が熱くなってくる。

こんなに遅くなってごめん、と心の中で謝って、恥ずかしさを隠すように紗苗さんの手を取った。

紗苗さんは少し驚いたあと、照れたような笑みを浮かべる。

その顔がまた可愛くて、僕は視線をそらして言った。
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