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第一章
卒業Ⅰ
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三月に入ってすぐの日だった。
いつもの河原に一人で座っていると、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
いつもよりは少しだけ早い時間だった。
「こんにちは」
振り向くと最近は私服で来ていた麗奈ちゃんが制服だった。バ
ッグを一つだけ持ってそこに立っていた。
いつも履いているタイツを今日は履いていないことに気が付き、不自然にならないように視線をそらした。
「こんにちは」
麗奈ちゃんはいつものように僕の右隣に座った。
大分暖かくなってきたとはいえまだ寒い。
スカートからのびる足は細くて白くて寒そうだ。
見ないようにと気を付けてもどうしても視界には入ってしまう。
僕はジャケットを脱いで麗奈ちゃんに手渡した。
きょとんとした顔で見られる。
「寒いでしょ。僕のでよかったら足に掛けなよ」
そう言うと、嬉しそうに笑った麗奈ちゃんは僕のジャケットを足に掛けた。
ばれないようにほっと息をついて空を見上げる。
「もう春だね」
隣から返事はない。
いつもだったらすぐにある返事を、今日は気長に待とうと思った。
左側に置いたギターを撫でる。
そのケースにストラップはついていない。
あの雪の日にどこかへ行ってしまった紗苗さんのストラップ。
ショックではあったけど、それでも諦めることができた。
そして、そのことにまたショックを受けた。今ではもうショックはない。
だけどストラップのついていないギターケースを見ると、何とも言えない気持ちになる。
「今日」
麗奈ちゃんがポツリと言った。
続く言葉が大体分かっている。
だけど先を促す気持ちも、先に何か言うつもりも全くなかった。
その代わり頷く。
「うん」
「今日、卒業式でした」
俯いたまま小さな声でそう言った麗奈ちゃんは、嬉しそうでもなければ悲しそうでもなかった。
だけどどこか泣きそうな表情をしていた。
「うん、おめでとう」
知っている。
多分今日だろうと思って一日中ここに座っていたから。
お昼頃に親と一緒に帰って行く高校生の胸には花がついていた。
麗奈ちゃんの胸元にも白とピンクの可愛らしい花がついている。
麗奈ちゃんは僕の顔を少し見つめて控えめに笑った。
「ありがとうございます」
今日の麗奈ちゃんはすごく不安そうに見える。
卒業しただけだというのにどうしてそんな表情をするのか。
「明日、東京へ行きます」
やっぱり、と思った。驚きはない。
進路の話は今まで聞いたことがなかったけど、きっとどこか遠くの大学へ行くんだろうなとは思っていた。
「そっか」
あえて麗奈ちゃんの顔は見なかった。
数か月一緒に過ごした。
分かってはいたけど、それでも顔を見たら寂しくなりそうだと思った。
いつもの河原に一人で座っていると、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
いつもよりは少しだけ早い時間だった。
「こんにちは」
振り向くと最近は私服で来ていた麗奈ちゃんが制服だった。バ
ッグを一つだけ持ってそこに立っていた。
いつも履いているタイツを今日は履いていないことに気が付き、不自然にならないように視線をそらした。
「こんにちは」
麗奈ちゃんはいつものように僕の右隣に座った。
大分暖かくなってきたとはいえまだ寒い。
スカートからのびる足は細くて白くて寒そうだ。
見ないようにと気を付けてもどうしても視界には入ってしまう。
僕はジャケットを脱いで麗奈ちゃんに手渡した。
きょとんとした顔で見られる。
「寒いでしょ。僕のでよかったら足に掛けなよ」
そう言うと、嬉しそうに笑った麗奈ちゃんは僕のジャケットを足に掛けた。
ばれないようにほっと息をついて空を見上げる。
「もう春だね」
隣から返事はない。
いつもだったらすぐにある返事を、今日は気長に待とうと思った。
左側に置いたギターを撫でる。
そのケースにストラップはついていない。
あの雪の日にどこかへ行ってしまった紗苗さんのストラップ。
ショックではあったけど、それでも諦めることができた。
そして、そのことにまたショックを受けた。今ではもうショックはない。
だけどストラップのついていないギターケースを見ると、何とも言えない気持ちになる。
「今日」
麗奈ちゃんがポツリと言った。
続く言葉が大体分かっている。
だけど先を促す気持ちも、先に何か言うつもりも全くなかった。
その代わり頷く。
「うん」
「今日、卒業式でした」
俯いたまま小さな声でそう言った麗奈ちゃんは、嬉しそうでもなければ悲しそうでもなかった。
だけどどこか泣きそうな表情をしていた。
「うん、おめでとう」
知っている。
多分今日だろうと思って一日中ここに座っていたから。
お昼頃に親と一緒に帰って行く高校生の胸には花がついていた。
麗奈ちゃんの胸元にも白とピンクの可愛らしい花がついている。
麗奈ちゃんは僕の顔を少し見つめて控えめに笑った。
「ありがとうございます」
今日の麗奈ちゃんはすごく不安そうに見える。
卒業しただけだというのにどうしてそんな表情をするのか。
「明日、東京へ行きます」
やっぱり、と思った。驚きはない。
進路の話は今まで聞いたことがなかったけど、きっとどこか遠くの大学へ行くんだろうなとは思っていた。
「そっか」
あえて麗奈ちゃんの顔は見なかった。
数か月一緒に過ごした。
分かってはいたけど、それでも顔を見たら寂しくなりそうだと思った。
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