あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第一章

再会Ⅲ

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「麗奈は弘介さんのことが確かに好きでしたけど、見ていてそれが分からなくなる時がたまにありました」


いつかの雨の日、麗奈ちゃんとあずちゃんが二人で歩いていた道に出た。

最近はこの辺りは全く通らない。


「弘介さんの話をしているのに、まるで別の誰かの話をしているような……本当によく分からないんですけどね」


あずちゃんは麗奈ちゃんの話をしていると声が柔らかくなる。

二人が本当に仲がいいことが伝わってくる。


「多分そんな単純な関係ではないんじゃないですか? 少なくとも、麗奈はそれだけの関係だとは思っていませんよ」


麗奈ちゃんはそれだけの関係だとは思っていない。

あずちゃんの言葉を心の中で言ってみる。

正直、考えすぎじゃないかと思った。

だけどそう言われると気になってくる。

おそらく麗奈ちゃんと一番仲のいいあずちゃんの言うことだ。


「あ、そこ麗奈の家ですよ」


何気なく言ったことだったのだろう。

あずちゃんの指さした先の家には「三上」と書かれた表札がかかっている。


「え……?」


僕は思わず足を止めてしまった。呆然と立ち尽くす。

どういうことだ?


「どうしました?」


あずちゃんが振り返って怪訝そうに僕を見る。


「麗奈ちゃんはいつもあの場所から西の方に帰って行っていたんだ」


ここは正反対じゃないか。

というか、麗奈ちゃんの家がここなら、家から学校の間で河原は通らない。

もしかしてあれから引っ越したのか?

それなら納得ができる。

だけどあずちゃんは言った。


「でも麗奈の家はここですよ。弘介さんと会う前とか雨の日とか私一緒に帰っていましたし、私の実家そこですから間違いありません」


麗奈ちゃんの家の数軒先の家を指さしてあずちゃんが言う。


「どういうことだ……?」


麗奈ちゃんが嘘をついていたのか? 何のために?

何か僕に隠していることがあるんだろうか。

ぐるぐると疑問が頭の中を回り、よく分からなくなっていた。


「ちょっと待っててくださいね」


突っ立っている僕を置いてあずちゃんは自分の家に入って行った。

少しして出てきた時、その腕にはもう赤ちゃんはいなく、一枚の紙を持っていた。


「これはお二人の問題ですので、私はもう首を突っ込みません。一度会って話してみた方がいいんじゃないでしょうか?」


手に持っていた紙を受け取って見てみると、会社の名前と東京の住所、電話番号が書いてあった。


「それが今麗奈が働いている会社の名前と住所、下のが麗奈の携帯の番号です」


会社の名前を呟いてみる。ここで麗奈ちゃんは働いている。


「一応私の番号も教えておきますね」


あずちゃんがポケットから携帯を出すのを見て僕もポケットを探る。


「何かあったら遠慮なく連絡してくださいね」

「うん、ありがとう」


あずちゃんの家の前で別れて来た道を戻る。

その時に麗奈ちゃんの家をちら、と見てみたが、「三上」の表札以外、分かることは何もなかった。
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